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マスク着用で態度を変える北欧、スウェーデンは「偽物の安心感」と孤立するが議論は起きている

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
スウェーデンでソーシャルディスタンスをお願いする看板(写真:ロイター/アフロ)

欧州でマスク着用が定着する中、北欧諸国はその動きには乗らずにいた。これまでは。

アイスランドとデンマークがマスク着用要請へと7月末に動きだし、ノルウェーとフィンランドもその後を追う姿勢を見せている。

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北欧のコロナ対策を後に振り返る時、マスク着用の流れは北欧カルチャーや各国の国民性・政治の理解に役立つ材料となると私は感じている。

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今回はマスク着用要請に政府が動く様子がまだないスウェーデンで、どのようなニュースと議論があるかをまとめてみた。

スウェーデン公衆衛生局の公式HPには「マスクの科学的根拠は薄い」と明記されている。

公衆衛生局はスウェーデン公共局SVTでの取材でさらに言及し、このように話している

  • 「マスクのリスクは、偽物の安心感を与えることだ」
  • 「社会の通常の屋外環境ではマスクは不必要。他者と距離を取り、手洗いをするほうが良い」

スウェーデンのコロナ対応が日本で話題になる時、スウェーデン政府の対策を指揮する疫学者、アンデシュ・テグネル氏の名前を見聞きした人も多いだろう。

欧州でマスク着用が定着する中、7月22日の公共局SVTの取材で彼はこう答えた。

SVT記者「スウェーデンでも公共交通機関でマスク着用を義務化するべきかは議論になっている。政府と公共交通機関は、公衆衛生局の支持に従う意向だ」

テグネル氏「他国はたくさんの感染予防対策の補足としてマスク着用をうながしている。このような国では交通機関で他者と距離をとるのが難しいからだ。それならマスクは補足対策としてはありえる。だがスウェーデンではそのような状況は起きておらず、距離をとることが可能だ」

出典:公共局SVT

6月には同氏は「スウェーデンのコロナ対策にマスクは合わない」、「スウェーデンの対策は、体調が悪いのであればマスクをするのではなく、自宅療養をすること。この国では他者と距離を取ることができるスペースがある」とも話している(SVD紙)。

スウェーデンの人々がマスク着用に関心がないわけではない。

ネットで「マスク」と検索するだけでも、現地でのマスク着用を議論するスウェーデン語のニュースは多くヒットする。

スウェーデン南部のスコーネ県で運営される公共交通機関Skanetrafikkenは7月14日から5万枚のマスクを無料配布することを発表(2~3時間は使える使い捨てタイプ、1人2枚まで)。

ストックホルム・ヨーテボリ間を走る列車MTRXでは独自対策としてマスクを無料配布。

スコーネ県の交通機関がマスクを無料配布したことで、スウェーデンではマスク着用の議論にまた火をつけた。

配布開始後から2週間経った後、すでに1万4千枚が希望者に配布されており、この数が多いか・少ないかは意見が分かれている。

交通機関側は「車内で不安を感じている乗客がいる」(スウェーデン公共ラジオ/7月9日)、「マスクは安心感を持ってもらうためでしかない。最も重要なのは他者と距離を取ること。今後は混雑するバスや電車がでてくるので、マスクで安心する乗客がいればよい」と答えている(公共局SVT/7月25日)。

それでも、7月14日の公共局の取材でも公衆衛生局は繰り返す。

「マスクよりも他者と距離をとるほうが重要。マスクをしているという理由で混雑している交通機関で距離を取ることを怠るようであれば、そのほうが問題がある。もし交通機関が混雑しているようであれば、次のバスや電車を待つか、歩くか自転車に乗ったほうがいい」

8月4日、アンデシュ・テグネル疫学者はアフトンブラーデット紙の取材に対して、マスク着用に対しての姿勢は変わらずにいることを見せた。「マスク着用を採用した多くの国では感染者が今増加中で、うまくいっていない」。

8月10日、テグネル疫学者はドイツのビルト紙の取材で、「科学的根拠が驚くほどに低い」、「マスクで問題が解決できると信じることのほうが危険だ」と改めて強固な姿勢をみせる(スウェーデン公共局SVTExpressen)。

スウェーデンDN紙では数理統計学者のTom Britton教授が「今すぐにでもマスク着用を要請するべきだ」と寄稿している。

他にもマスク着用の効果を感じさせる研究結果が発表されることもあるが、スウェーデン政府の対策の裏で動く専門家たちを十分に説得するまでには至っていない。

全国紙・地方紙では賛成派・反対派の意見を掲載する記事が今月になって増加している。

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北欧各国の政府は専門家の意見をベースにして感染防止対策を行っている。

その傾向はスウェーデンは特に強い印象を私は受けている。

疫学者のアンデシュ・テグネル氏がこれほどまでにメディアに頻繁に登場することからも、それは裏付けられる。

北欧各国でもそれぞれの公衆衛生局にあたる機関の助言を政府は真剣に聞いて規制対策を一緒に考えているが、スウェーデンはさらに専門家を信頼、決定権をゆだねている印象がある。

他の国であれば、リーダーシップを見せるために、専門家の助言を首相や閣僚が自分の言葉で語るだろう。

そのような雰囲気の中で、スウェーデンで政府の要請なしにマスクを無料配布する機関が出ていることは何を意味するのだろうか。

科学的根拠が薄くても、安心感だけでもいいから対策をしたいと考える人は増加しているのではないか。

スウェーデンではまだ政府がマスク着用要請に動くようにはみえない。

「感染者がまた増加すれば、マスクやほかの対策を再検討する可能性もある」とテグネル氏は現地の英語メディア(The Local/8月4日)にコメントしているが、これはスウェーデン語メディアでは注目を浴びていない。

スウェーデンは第1波の時期と比較すると、7月後半からは感染者数の増加をある程度は抑えており、8月に入ってからは少しずつ増加中。とはいえ第1波ほどの死亡者数ではないので、検討されるタイミングでもなさそうだ。

「現地で議論があり、北欧他国で着用要請をする動きがあるなら後追いをするのでは?」とも思うかもしれないが、他国が何をしていようが独自路線を貫くスウェーデンの「流されない」姿勢に、多くの人はすでに気づいているだろう。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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