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プロボクサーとなった3人の息子を支える、元世界チャンプ

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Mikey Williams/Top Rank

 2004年4月16日生まれのエミリアーノ・バルガスが、セコンドを務める実父と共にリングに上がる。エミリアーノは父である元IBF、WBAスーパーウエルター級チャンピオン、フェルナンドの若い頃に、容姿がよく似ている。

 リングサイドからは1996年11月8生まれの長兄、フェルナンド・バルガス・ジュニア、そして2000年7月20日生まれの次兄、アマドが弟に声援を送っていたが、最も父親の面影を感じるのが、この三男だ。

 試合開始時点でのエミリアーノの戦績は11戦全勝9KO。対戦相手に選ばれたのは、13勝(5KO)6敗1分のアイリッシュ、ラリー・フライヤーズ(34)だった。互いの数字が示すように、勢いのある若手に安牌が宛てがわれた一戦である。スーパーフェザー級8回戦として組まれた。

Mikey Williams/Top Rank
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 エミリアーノは闘志を前面に出して、34歳に向かって行く。気の強さ、バランスの取り方が、父に似ている。父自らコーチしているのだから当然か。フェルナンド・シニアの全盛期を知る者とすれば、頬が緩んだ。

 時間が経過するごとに、両ファイターの差は開いていく。エミリアーノは、時折、スイッチを試みながら様々なパンチをヒットした。

 2ラウンドに左ボディアッパーでフライヤーズの動きを止め、さらに顔面への左フックから左ボディアッパーのコンビネーションを放つ。また、このラウンドの終盤に顎への左アッパー3連発を見せた。スピードに乗ったコンビネーションが、父親と共に流した汗を物語っていた。

Mikey Williams/Top Rank
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 その後もワンツー、顎への左アッパー、サウスポースタンスでの左ボディ、顔面への右アッパー、左ストレート、左ボディアッパーと、攻めまくる。

 フライヤーズは左膝が伸び切り、突っ立ったままパンチを振るうしかない。打ち終わりには体が流れた。鼻から出血し、反撃の糸を見出せない。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

 第5ラウンド、エミリアーノのワンツーがアイリッシュの頭部を捉えた折、20歳は右拳を痛める。すると、またサウスポーにスイッチし、右、左とボディアッパーでフライヤーズにダメージを与えてから、左ストレートでダウンを奪った。

 直後に、34歳のコーナーが棄権を申し入れ、試合終了となる。公式記録は、同ラウンド1分23秒。エミリアーノは3試合連続のKO勝ちを飾った。

Mikey Williams/Top Rank
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 かつての父ほどの爆発力は無いが、負傷後、冷静にアングルを変えて対処したところに、非凡さを感じた。

 筆者は、このファイトの1週間前にフェルナンド・バルガス・シニアをインタビューしていた。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/fight/2024/09/26/post_52/

 その際、元チャンピオンは「今の人生のゴールは、最高の親父になること」と語っていたが、言葉通りの姿を目に出来たように感じた。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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