中国・上海っ子に受け入れられる日本の温浴文化 「極楽湯」
酷暑の夏。ついシャワーだけになりがちだが、ゆったりたっぷり大きな湯船に浸かって汗を流し、さっぱりするのは気持ちのいいもの。お風呂のあとは生ビールを飲むのもよし、マッサージでリラックスするもよし……。お風呂好きな日本人にとって至福のひとときといえるだろう。
そんな日本人に馴染み深い温浴文化が中国・上海でも受け入れられている。
上海に進出したのは、東京に本社を置き、全国各地で直営店、FC店など39店舗を展開しているスーパー銭湯「極楽湯」だ。
同社は2013年2月、1号店「極楽湯 碧雲温泉館」を上海市浦東新区にオープンした。国内では温浴施設の過当競争が激化しているが、経済成長が進み、日本と文化的にも近い中国に焦点を当て、日本文化を広めてみようという意図で進出した。1号店が好評だったことから、続けて15年2月に2号店「極楽湯 金沙江温泉館」もオープンした。
このほど、オープンから半年を迎えた2号店を訪れてみた。
地下鉄13号線・祁連山南路駅から徒歩3~4分という交通至便な場所。大通りを歩いていくと「極楽湯」の大きな看板が目に飛び込んできた。約150台分という駐車場の先にある玄関に到着すると、夏らしい多数の風鈴が吊るされていて、涼やかな音色を響かせていた。
同時に1300人を収容可能
「いらっしゃいませ~」
元気な声とともにスタッフの劉恋さんが明るい笑顔で出迎えてくれた。日本の多くの温浴施設と同様、入り口で靴を脱ぎ、下足箱に入れて入場する形だ。料金(大人1人、138元=約2800円)を支払って中に入った。館内着は日本同様、さまざまなサイズやデザインがあり、自分で好きなものを選べるようになっている。
真新しい2号店は4F建ての和モダンなスタイルで吹き抜けになっていて、開放感のある佇まい。同社営業部副部長兼館長の田村俊和さんによると、「モア・ジャパン」をコンセプトにしており、和の雰囲気を大切にした日本式を徹底しているという。
施設は日本の「極楽湯」の平均面積(約1500~2000平方メートル)の約5倍、約1万平方メートルという広さを誇っていて、同時に約1300人を収容することができるという。
1Fがお風呂と売店、2Fが数種類の岩盤浴スペースとレストラン、3F、4Fは広い休憩エリアになっていて、日本語や中国語のマンガが置かれていたり、カラオケルーム、VIPルームなどがある。レストランではうどんや寿司など日本食メニューが充実しており、ときどきイベントで「流しそうめん」などを行うことも…。休憩エリアでは子どもが遊ぶスペースもある。
早速、ご自慢のお風呂に入ってみた。9つある浴槽には「美肌の湯」「日替わりの湯」「流泡の湯」などの名前がついていて、露天風呂もあり、開放感たっぷり。日本のスーパー銭湯と何ら変わるところがなく、まるで日本にいるよう……。
お湯からお湯への動線もスムーズで違和感がない。上海の2店ともに大型の濾過機を設置している。循環スピードが他社施設の6倍ほどあり、お湯は常に清潔な状態に保たれていて安心だ。
浴場の入り口にはスタッフが待機していて、必ず「かけ湯」をしてから入るようにと促している。温浴文化がほとんどない中国人にもマナーを守って入ってもらうように仕向けている。実際、入浴している周囲の中国人を観察してみたが、みんな静かにお風呂を楽しんでいるように見えた。
各浴槽の壁面には中国語と日本語、英語で日本のお風呂文化の説明書きもある。たとえば、中国の水は硬水、日本は軟水で性質が異なるが、同店の水やお湯はすべて特殊な機械で生成した軟水を使用しているのが特徴。軟水はなめらかでしっとりしており、髪の乾燥を防いだり、美容効果もあることなどを謳っている。また、日本の風呂文化のルーツが中国にあるなどの説明もあって興味深い。
顧客の90~95%が中国人、しかも地元の上海っ子だということもあって、お風呂に入りながら、中国語で日本の温浴文化を自然と学べるようにという配慮がされている。
館内を見て回って驚いたのは、常に清潔を保つように、隅々まで掃除が行き届いているということだ。冬場の休日など、多い日は1日3500人もの入場者があるというが、「フローリングで汚れが目立つので、15分に1回は掃除をするようにしています。大勢のお客様に気持ちよく利用していただけるように気を配っています」(田村さん)という。
上海での利用者は、中高年が多い日本とは異なり、20~35歳の若い層が全体の5割以上を占める。入館料は日本よりも高い設定だが、月収4000~5000元(約8~10万円)以上の中間層をターゲットにしている。
利用者からは疲労回復というよりはお風呂と食事、カラオケなどを楽しむ娯楽施設として受け止められており、「企業の会合や友人の誕生日会などのため、パーティールームなどに予約を入れるケースも多いですね」(劉さん)という。
お風呂に入り慣れない、あるいは初めて入るという顧客もおり、湯当たりする人もいるというが「スタッフが館内を回り、注意するようにしています」(同)。
スタッフの劉さんは中国の大学で日本語を学び、日本の亜細亜大学にも留学経験がある。双方の文化をよく知っているだけに、細かいところまで気を配っている。
“極楽式”で中国人に楽しんでほしい
館長の田村さんも「女性が入りやすいお店にしたいと思ってきました。クーポンのサイトや中国版食べログのようなサイトを積極的に活用することで、少しずつ若い女性や子ども連れなどが足を運んでくれるようになりましたね」と話す。
中国は日本よりも娯楽が少ないが、それでも上海ではカラオケ、ボーリングなどが流行るなど、最近では遊びの選択肢が広がっている。
「今後も、お客様の要望を取り入れながら、より楽しめる楽しい施設を目指していきたいですね。日本式だという点を強調するよりも、“極楽式”が自然に中国の方々に受け入れられるようにがんばりたいです」と田村さん。上海を起点に、中国各地に「極楽湯」を広めようと日々奮闘している。