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井上尚弥に死角なし! vsドネア再戦で圧倒的KOが予想されるこれだけの理由

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
第1戦の激闘が再現する?(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

井上の視界から消えたカシメロ

 井上尚弥(大橋)vsノニト・ドネア(フィリピン)第2戦まで10日となった。2019年11月の第1戦は2回にドネアの左フックをもらった井上が右眼窩底骨折、その後鼻骨骨折するアクシデントに見舞われながらもペースを掌握。9回、ドネアの右を浴びてピンチに陥る場面があったが、11回にボディー打ちでダウンを奪い、3-0(116-111、117-109、114-113)判定勝ち。後に「ドラマ・イン・サイタマ」と呼ばれる激闘は海外の著名メディアから年間最高試合に選出され、両者の健闘が称えられた。

 その時の負傷やコロナパンデミックが重なり、井上がリングに復帰したのは翌20年10月ラスベガス。ザ・バブル(コロナ禍による無観客試合)状況下でジェイソン・マロニー(豪州)に7回KO勝ちを収めた。米国大手プロモーション、トップランクとの契約第1戦は本番のファンとメディアに“モンスター”の存在と強さを知らしめ、Who is next? (次は誰と対戦する?)と期待感をつのらせた。

 マロニー戦でWBAスーパー・IBF統一バンタム級王座を防衛した井上の相手にはWBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)が“適任者”ではないかと指摘する意見が強かった。それはカシメロのパンチャーぶりや言動が観戦意欲を刺激すると思われたからだった。そして昨年8月、回り回って40歳のベテラン、ギジェルモ・リゴンドウ(キューバ)と防衛戦を行ったカシメロは試合直後、打倒モンスターを高らかに宣言。交渉の進展が待たれた。

 ところがWBOから通達されたポール・バトラー(英)との指名試合を前にカシメロが乱心。昨年12月ドバイで組まれた試合を前に急病を理由に計量をスルー。辛うじて王座はく奪を免れたものの、4月英国で予定されたバトラーとの仕切り直しでもトラブルを起こし、ついにベルトを取り上げられる醜聞。自滅するかたちでカシメロは井上の視界から消えた。

強運が味方した決勝進出

 一方、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級決勝として行われた井上との第1戦にドネアが勝ち進むとは意外だった。WBO世界スーパーバンタム級王座を失ったジェシー・マクダレノ戦(個人的にはドネアやや有利に見えたが)、1試合はさんで、2018年英国で元2階級制覇王者カール・フランプトンに大差の判定負けを喫し、ドネアは限界説さえ一部でささやかれた。これまで43勝28KO6敗のドネアのキャリアの底はこの時点ではなかったろうか。

 フランプトンはフェザー級リミットの試合。次戦でドネアはWBSSのバンタム級にエントリーする。「えっ!」とびっくりしたファンは多かったに違いない。加えて1回戦の相手はWBAユニファイド王者の肩書を持つライアン・バーネット(英)。クラスを2階級落として当時バンタム級最強とも目された相手と対峙する正念場が待っていた。

 ここでドネアは強運に恵まれる。バーネットが背中を負傷し、4回でギブアップを余儀なくされたのだ。アクシデントが発生していなければ結果がどうなっていたかわからないが、レコードにはドネアの4回終了TKO勝ちと記された。続く準決勝は強打が売り物で、初回11秒TKO勝ちの世界タイトルマッチ記録を持つゾラニ・テテ(南アフリカ)が相手。しかし直前になってテテが拳のケガを理由にリタイア。代役のステフォン・ヤング(米)を左フックで沈めたドネアが驚きの決勝進出を果たす。

 井上との激闘を経てもドネアは勢いを持続させ、再びさいたまスーパー・アリーナのリングに登場する。休養期間は井上よりも長く1年半に及んだ。この間、20年暮れに井上がWBSS準決勝で2回でストップ勝ちしたエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)との一戦が組まれたが自身のコロナ感染でキャンセル。年が変わり、WBC王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)への挑戦も相手のコロナ感染で延期。5月に実現した仕切り直しでウバーリを4回KOで撃沈して王座奪取。12月にはロドリゲスに勝ってWBC暫定王者に就いていたレイマート・ガバリョ(フィリピン)をこれまた4回KOで下し、ライバル王者として井上との3団体統一戦が実現する。

無名レフェリーの好アシスト

 ドネアにとって、もう一つの幸運は第1戦11ラウンドに奪われたダウンがロングカウントだったことだ。と言うよりもレフェリーのカウントは10に達していたように見えた。井上のボディー打ちを食らい、ドネアが背中を向けてランニングを始めた時点でストップをかけるレフェリーがいても不思議ではない。逆の見方では、あそこでストップがかからなかったことが年間最高試合を引き出したとも推測できる。絶妙な演出、アシストをしたのが、あのレフェリー、アーニー・シャリフ氏だった。

 ちなみにシャリフ氏(米ペンシルベニア州)は井上vsドネアの後、11試合を裁き、内訳は4回戦8度、6回戦2度、8回戦1度。10回戦、12回戦は一度もない。井上vsドネア以前に世界タイトル戦を担当したのは18年10月にマニラで行われたIBFライトフライ級王座決定戦。井上戦までも4回戦11度、6回戦と8回戦を1度ずつ裁いただけ。失礼ながら、大舞台の経験に乏しいレフェリーに思える。再戦は著名審判に担当してもらいたいというのが私の願いだ。

 他方でジャッジに関しては心配していない。判定が議論を巻き起こすというよりも、フルラウンドの戦いにはならないだろうという見方をしている。井上の調整具合、コンディションづくりに絶対の信頼を置きたくなる。ドネアが「第1戦は万全の準備ができなかった。でも今度は100パーセントの状態でリングに上がれると確信している。第1戦の後スピード、パワーすべてがレベルアップしている。イノウエも素晴らしいパフォーマンスを披露しているけど、向上、成長が著しいのは私の方だ」と豪語しても井上の決意の方に重みを感じてしまう。

ゾッとするKOシーンが待っている

 では具体的にどんな攻防が展開され、どんな結末が待っているのか。

 序盤はジャブの差し合いから濃密なペース争いが予想される。フェイントのかけ合いから抜け出すのは井上か。スピードそのものに差があるし、パワーパンチ同様、ピンポイントで当てる正確さはドネアを上回る。ドネアの伝家の宝刀、左フックが爆発する可能性もあるが、それを簡単に被弾する井上ではないだろう。井上が留意すべきはパンチの軌道とタイミング。ドネアは「ベストコンディションの私のパンチを食らえば初戦と違った結果になるだろう」と豪語するが、ウバーリやガバリョと井上ではディフェンススキルと耐久力に差がある。

 ディフェンスとタフネスと言えば、ドネアの左フック、右ストレートに対する井上のヘッドスリップやウェービングといったディフェンス技術の方が井上のボディー攻撃に対するドネアのディフェンスと耐久力に勝ると予測される。途中からボディー攻撃を強化した井上がより明白に試合を支配する攻防が頭に浮かぶ。

 仕上げは右強打か。マロニーを倒したシーンが想起される。試合後、チーフセコンドの父、井上真吾トレーナーが「あと拳が1個か2個(距離が)遠かったらマロニーは病院送りになっていたかもしれない」と明かしたことが思い出される。今度こそ、そんなフィナーレを期待していいのではないか。「自分との戦いを最後に(ドネアが)花道を飾ってくれれば……」と言い切るモンスターに死角は見当たらない。

こちらも4団体統一王者へ意欲を燃やすドネア(写真:Sean Michael Ham / TGB Promotins)
こちらも4団体統一王者へ意欲を燃やすドネア(写真:Sean Michael Ham / TGB Promotins)

 万が一、初戦を上回るドラマが発生し第3戦が計画されることだってあるかもしれない。もしドネアがサプライズを起こせば、どんな展望が待っているか予断を許さない。おそらく井上はスーパーバンタム級転向を選択し、ドネアは同じリチャード・シェーファー・プロモーター(プロべラム)にプロモートされるWBO王者バトラーとのバンタム級4団体統一戦へ突き進むはずだ。それでも井上の次戦の相手はバトラーが最有力という現実がドネア再戦の結果を雄弁に物語る。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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