グッドマン、井上尚弥との仕切り直しは大丈夫?ピカソ代理挑戦説はどこまで信用できるのか
4針縫った
大みそかに東京・大田区総合体育館で予定されるWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ、王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)vs.挑戦者井岡一翔(志成)がマルティネスの体調次第でドタキャンになる心配が出てきた。7月の第1戦が期待通りの大熱戦だったこともあり、ぜひとも開始ゴングが鳴ってほしいが、24日予定された井上尚弥(大橋)vs.サム・グッドマン(豪州)のスーパーバンタム級4団体統一戦の延期に続き、年末の日本リングは厄運続きである。
井上挑戦に備えて最終調整中だったグッドマンはスパーリングの最中、左マブタを裂傷。試合はちょうど1ヵ月後の来年1月24日へシフトした。負傷の状態とその後の経過を知ろうとグッドマンのプロモーター「ノーリミット・ボクシング」にアクセスしてみたが、残念ながら今のところ回答は得られていない。「試合には支障がない」といった状況は伝えられているが、より具体的な情報は私が知る限り発信されていないと思う。
ようやく負傷後初めてグッドマンが母国メディアに登場した。ポッドキャスト番組だと報じられる。そこで彼は「左目を4針縫った」と明かしたという。「おお、これは貴重が情報が得られるぞ」と期待に胸を躍らせながら記事を読み進めた。ところがそれ以外にカットや練習状況に触れる内容は1行も記されていない。正直ガッカリさせられた。
「ハードワークを行って人生を変えてみせる」、「ウランゴング(出身地に近い町)で一時バーテンダーをしていた」、「プロキャリアをスタートした時、ファイトマネーは1500ドル(約22万5000円)ぐらいだった」、「マイク・タイソンに憧れてボクシングを始めた」、「イノウエはグレートなボクサー。でも同じ人間だ」など延期になる前に話していたことと変わりないコメントに終始している。
不安を抱えるグッドマン
グッドマン自身そして豪州にとって井上戦が重要な意味を持つことは伝わってくる。だが、仕切り直しが迫っているにもかかわらず、不確定要素が多すぎる。なんかカムフラージュされている印象がして焦点がつかめない。ノーリミット・ボクシングから反応がないことも含めて現状をどう捉えたらいいのか考えてしまう。
唯一判明した「4針縫った」だが、昨年オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)とのヘビー級4団体統一戦を前にしたWBC世界ヘビー級王者(当時)タイソン・フューリー(英)も同じく最終調整中のスパーリングで右目をカットして試合延期を強いられた。この時フューリーは11針縫い、試合は3ヵ月後の5月18日まで延期された。単純に比較できないが、4針で1ヵ月延期は妥当なところかもしれない。
ついでながら今月3日、肉腫ガンのため46歳で永眠した元世界スーパーバンタム級王者イスラエル・バスケス氏(メキシコ)は宿敵ラファエル・マルケス(メキシコ)との激闘シリーズ第4戦で完敗。ラストファイトとなった。これはそれまで被っていたマブタの傷が完治しないまま試合に臨んだことが原因だった。逆にカットしたマブタは切れにくくなるという説もあるが、グッドマンが不安を抱えて決戦に臨むことは否定できないだろう。
スタンバイを強調するピカソ
他方で果たしてグッドマンはリングに上がれる状態なのかと危惧する向きもある。前記の豪州の記事では「一笑に付す」という感じで、井上サイドも1月24日の相手はグッドマンで間違いないと主張するだろうが、ある国では「そうでもないよ」という報道がされている。ある国とはメキシコだ。
これまで何度か触れているように同国のWBCスーパーバンタム級1位アラン・ピカソ(24歳)が井上に挑戦を希望している。現状では来年予定される井上の米国再上陸の相手に有力だが、ピカソは“スタンバイ”をアピール。ソーシャルメディアで「ナオヤ・イノウエに1ヵ月以内で挑戦オーケー」とメッセージを発信している。
また26日付のスポーツ紙「RECORD」は「イノウエ陣営は日程を再度、設定したがグッドマンの回復具合が不確実」と断定。そして「2024年、5試合して全勝(筆者注:2KO勝ち)の“レイ”(王)はスーパーバンタム級の強いコンテンダーの一人としてポジションを得ている。もしグッドマンの回復に時間がかかるなら、イノウエと対戦するチャンスが訪れてもおかしくないだろう」と記す。
率直に言って、ピカソ本人のコメントや新聞記事はブラフとは言えないまでも願望が占める割合が多いと思われる。彼の陣営もこの時点で31勝17KO1分無敗のホープをモンスターに挑戦させるのは勇気が必要だろう。試合内容、結果次第でキャリアが潰れてしまうことだって想定される。メキシコのメディア、ファンも今、ピカソがイノウエに挑戦するのは早計に過ぎるという意見で一致している。メキシコ人ファンの声援をバッグに戦える米国リングなら多少善戦できるかもしれないが、日本のリングとなると一段と勝利の見通しは遠のくだろう。絶対不利を予想されるグッドマンよりもさらに劣勢を強いられるのではないか。
アラン・ダビ・ピカソvs.ジェイソン・クエリョ
40日でリングに上がれるか?
ただ明日のことはわからない。もう一人、長期にわたり井上に挑戦を切望するWBAスーパーバンタム級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)がグッドマンに代わり相手に抜てきされる見込みはゼロに近いが、ピカソにはまだ僅かながら可能性が残されている。彼の最新戦は14日に行われたジェイソン・クエリョ(コロンビア)戦。井上に挑むとなれば約40日という試合間隔になる。相当シビアなスケジュールだが、千載一遇のチャンスであることに変わらない。
そこでピカソを傘下に置くメキシコの「サンフェル・ボクシング」の幹部の一人レネ・アビレス氏に問い合わせてみた。すると「おそらく今その試合は成立しないだろう」と言われた。やはりピカソの即挑戦は難しいもようだ。メディアもRECOED以外に報じているところがなく信ぴょう性が薄い根拠となる。ただしグッドマンが来日するまでサプライズが起こる可能性が全くないとは言えず、年明け後のニュースに目を配りたい。