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なぜソン・フンミンは批判されても結果を残せるのか。 1試合4ゴールの快挙を韓国メディアはどう報じた?

金明昱スポーツライター
1試合で4ゴールを決めたソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

「もうアジアの枠にははまらない」――。

 彼のことを以前からそう言う人たちは多かったが、そのことを証明するには十分な活躍だったかもしれない。

 韓国代表FWソン・フンミン(トットナム)が、20日に行われたプレミアリーグ第2節のサウサンプトン対トッテナムの試合で4ゴールを決め、チームを5-2の勝利に導いた。

 まずはサウサンプトンに1点リードされて迎えた前半アディショナルタイム。左サイドにいたケインからのボールに反応したソン・フンミンがゴールを決めて1-1。後半に入ってからは、ケインとソンの独壇場になった。

 47分にケインからのスルーパスから抜け出したソンがGKとの1対1を制して2点目を奪取。64分には再びケインからのスルーパスから3点目を決めてハットトリックを達成。さらに73分には右サイドにいたケインからのクロスを受けて4点目を決めた。

 すべてのゴールをアシストでお膳立てしたケインの功績も大きいだろう。

香川真司の記録を超えた4ゴール

 意外と思うかもしれないが、ソンのプレミアリーグでのハットトリックは初めてのこと。ちなみにリーグ戦ではないが、2017年3月のFAカップ準々決勝のミルウォール戦でソンがハットトリックを決めて6-0で勝利している。

 こうした記録について、韓国のサッカー専門サイト「インターフットボール」は元日本代表MF香川真司を引き合いに出し、「マンチェスター・ユナイテッドでプレーした香川真司が記録したハットトリック(2013年)を超えて、プレミアリーグで4ゴール以上決めた唯一のアジア選手となった」と伝えている。

 “アジアの枠”で比較したがるのは、韓国メディアの得意とするところだが、最近ではスペインでプレーする久保建英(ビジャレアル)とイ・ガンイン(バレンシア)の比較記事もよく目に留まる。

 いずれにしてもソンの4ゴールを見ると、最終ラインの裏を狙うタイミングが絶妙で、決定機に強い。プレーにおいては、縦に抜けるスピードと緩急つけたドリブルは、年々磨きがかかっているように思う。

 何よりも目を見張るのは、決定機を外さないメンタルの強さだ。タフなプレミアリーグで、もまれてきただけある。

昨季は退場続きで批判の的だったが…

 ソンのことをタフな選手だと感じるのは、数々の批判にさらされながらも、ピッチの上で結果を証明して、周囲の声を黙らせてきた経緯があるからだ。

 というのも、昨年から今年初めにかけて、ソンの話題はピッチ外を騒がせることが多かった。

 特に記憶に強烈に残っているのは、昨年11月3日に行われたプレミアリーグ第11節のエバートン対トッテナムの試合での出来事だ。

 MFアンドレ・ゴメスに後方からソンが危険なスライディングタックルを浴びせると、倒れたアンドレ・ゴメスはDFセルジュ・オーリエと交錯。右足首を骨折し、これを見たソンはあまりのショックに顔を手で覆い涙を流していた。

 最初、主審はソンにイエローカードを出したが、アンドレ・ゴメスの負傷の状態を見て一発退場のレッドに変わった。

 故意でなかったことでチームはソンをかばったが、“蹴り上げ蛮行”などと表現するメディアもあり、周囲の批判の声は少なくなかった。

 そんな中、昨年12月26日の第18節チェルシー戦でもドイツ代表DFアントニオ・リュディガーの胸を蹴り上げるプレーで、レッドカードを受けている。

 責任を感じていたソンの精神的なダメージは計り知れず、自身も「(度重なる退場処分を受けることは)予想もしていないことで、堪えがたいことだった」と振り返っている。

ウーゴ・ロリスとの衝突に驚き

 さらに今年2月のアストン・ビラ戦で右腕を骨折。戦線から離れたが、じっくりと治療に専念。新型コロナウイルスによってリーグが中断されたのが不幸中の幸いで、コンディションの調整もうまくいったようだった。

 普通ならば、失敗や批判の声にさらされて精神的な疲れがプレーに支障をきたすこともあるだろう。負傷による影響でコンディション調整が遅れ、思うようなプレーができないことがストレスにつながる。

 だが、ソンはそれらをすべて乗り越え、ゴールという結果で批判を黙らせて評価を挙げているのだ。

 メンタルが強くなければ、試合で結果を残せないもの。そんな彼の強心臓ぶりを見たのは、2019年の第33節エバートン戦の前半終了後に起こった主将のGKウーゴ・ロリスとの衝突のシーンだった。

 前半が終わってロッカールームに戻る際、ロリスは激怒していた。それは守備をおろそかにして失点のピンチを招いたというチームメイトのソンを始め、数人に向けられたものだった。

 ロッカールームの中まで、ソンとロリスのリアルな言い争いと一触即発のシーンがネット上に映像として残っているが、ソンも真剣にだからこそ、ロリスに本気で食って掛かったのだろう。

 最後はモウリーニョ監督の的確な言葉で、チームが一つにまとまり、試合は1-0で勝利。ただ、何があっても臆することなく発言するソンの姿には驚きで、ピッチ上とは違う“強さ”を垣間見たのだった。

モウリーニョとの信頼関係は強固に

 韓国経済紙「マネーS」が「“脱亜級”ソン・フンミンの記録大行進、新シーズンの巡航が期待される理由」と見出しを打ち、ソンが今季活躍できるであろう要素についてまとめていた。

 大きな要素としては「ジョゼ・モウリーニョ監督体制に適応してきた」ということだ。

「守備を重視する監督の特性上、中盤よりも下がって守備に積極的に加担しなければならなかった。そんな中、ソンの守備の問題について、主将のGKウーゴ・ロリスと(2019年の第33節エバートン戦、1-0で勝利)前半終了後に衝突した。だが、今季のソン・フンミンは戦術を理解し、攻守における貢献度が高い」と、モウリーニョが求める戦い方への理解と信頼関係の構築を強調していた。

 もちろん、FWケインとの連携も破壊力を増しており、さらにゴールを量産するだろう。

 そこで次に韓国メディアやファンがソンに期待しているのが、「プレミアリーグ得点王」だ。現在リーグ4得点で1位タイだが、期待するのは時期尚早。そんなに甘くはない。

 だが、そんな夢のような記録でさえも、今のソン・フンミンなら達成できるかもと思わせてくれる――。それくらい脳裏から離れない圧巻の4ゴールだった。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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