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JR東、来春導入予定の「オフピーク定期券」は成功するのか? 反発は必至だ

小林拓矢フリーライター
通勤時間帯の混雑はコロナ禍でも戻りつつある(写真:イメージマート)

 通勤時間帯の混雑は、鉄道事業者にとって稼ぎ時であると同時に、悩みの種でもある。ラッシュ対応に鉄道事業者は多くのお金をかけるいっぽう、定期券利用者は割引ゆえに稼げないという構造もある。

 鉄道利用者を平準化させたいということを考えるいっぽうで、多くの会社では出勤時間や終業時間が決められ、働く人はそれに合わせて仕事をする。

 コロナ禍の初期には、テレワークなどを導入する企業が多く現れたものの、多くの会社では普通に出社するという働き方に戻ろうとしている。日本の企業では、テレワークのような柔軟な働き方ではうまくいかないと考えている人が多く、対面で仕事をしたほうがやりやすいということになりつつある。

 コロナ禍より前の通勤ラッシュには確かに戻らなかったものの、いまでは朝ラッシュ時には混雑するようになり、多くの鉄道利用者は普通に通勤をしている。

 JR東日本をはじめ、多くの鉄道事業者では朝ラッシュ時の本数を削減こそしたものの、混雑が緩和されているという状況とは程遠く、ラッシュ時には多くの人が鉄道を利用している。

 仕事では「定時」というものが決まっており、多くの人がそれに従って働いている。フレックスタイム制や裁量労働制の導入が一時言われたものの、フレックスタイム制はうまくいかないケースもあり、裁量労働制は残業代逃れの隠れ蓑になっていることもある。

 そんな中で、JR東日本は「オフピーク定期券」を来春導入することにした。

オフピークは10%off、通常の定期券は値上げ

 JR東日本の深澤祐二社長は6日の記者会見で、2023年3月より首都圏の通勤定期券を対象に、混雑する時間帯を避けて乗車する「オフピーク定期券」を導入すると言及した。

JR東日本の深澤祐二社長
JR東日本の深澤祐二社長写真:西村尚己/アフロスポーツ

 この「オフピーク定期券」は、混雑する時間帯は使用できないいっぽうで、通常の定期券よりも10%offと料金を設定し、ラッシュ時以外の乗車を促進させる仕組みとしている。

 いっぽう、通常の定期券は「鉄道駅バリアフリー料金制度」の導入もあって値上げし、さらに1%から2%上乗せするという。

 JR東日本はこれまで、オフピークに鉄道を利用した人には「JRE POINT」を加算したり、テレワークでたまに出社する人のためにこのポイントを利用回数に応じて加算したりするなどを試みてきたが、ついにオフピーク利用専用の定期券を出すことになり、いっぽうで通常の定期券を値上げすることにした。

確かにSuicaだと「オフピーク定期券」はやりやすいものの……
確かにSuicaだと「オフピーク定期券」はやりやすいものの……写真:イメージマート

 JR東日本には、通勤時の需要が減少する中で列車本数を減らし、そのぶんの運行経費をかけたくないという考え方がある。さらにピーク時を外して乗車してもらうようにすると、ラッシュも緩和される。

 時間制限付き定期券については、経済の価格メカニズムの議論ではよく出てくるものの、実際に適用された例はない。一種の「机上の空論」ともいえる。価格を安くすれば時間帯の違う列車に乗るはずだという考え方は、一般の働く人の行動を考えると無理がある。せめてポイント付与だけで十分だったのではないだろうか。

「オフピーク定期券」は成功するのか?

 JR東日本の利用者は、コロナ禍を経て確かに減っている。「JRE POINT」の加算状況を見て、ピーク時を外した通勤を行っている人も現れているため、「オフピーク定期券」を導入するに至ったという考えは理解できる。

 だが、どんな利用者がどの時間に利用するかということを考えていないこの「オフピーク定期券」は、働いている人の中でも、弱い立場の人に厳しいという問題点がある。

 オフィスワーカーでも、正社員はフレックスタイム制であっても、派遣社員は時間がきっちりと決まっているということもある。コロナ禍で在宅勤務が推奨されたときも、正社員は在宅勤務可能でも派遣社員はそれが困難だったということは多かった。

 政府が「働き方改革」のかけ声をしても、それに対応できるのは大企業のオフィスワーカーであって、それも正社員でしかない。時給制で働く非正規の人にはこの「オフピーク定期券」は意味がないのである。シフト制勤務で、日によって出勤時間が違う人には、この種の定期券は使いにくい。

時差通勤の促進は他社でも行われてきた。
時差通勤の促進は他社でも行われてきた。写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

 通勤定期券の料金は、会社の給与と同時に支給される。ちゃんとした会社は、フレックスタイム制や裁量労働制でも、いつ通勤してもいいようにふつうの定期券の料金を通勤手当として支給するだろう。

「オフピーク定期券」は、一部IT業界のように出勤時間が遅く、退勤時間も遅いような会社にしか使われないのではないか。

 また、会社として通勤手当をふつうの定期券料金として支給していて、いっぽうで「オフピーク定期券」を従業員が買う場合、その差額は税法上どのようになるのか。通勤手当は、一定額以下は非課税であるため、少額を従業員が手にしてしまうことになる。人によっては朝早く会社の近くに来て、カフェやファーストフードで朝食を取るようになり、都心部のこの種のお店がより混雑するという影響も考えられる。

「お金」を人々の行動のインセンティブにするのは、公共交通としては無理があるのではないだろうか。しかも、強い立場の人が得をする仕組みを、公共交通事業者が導入するのは公平性に欠けると考えられる。「オフピーク定期券」のために一般の定期券も値上げとなり、反発も必至である。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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