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「鉄の女」に「雌ライオン」が吠えた「来年に2回目のスコットランド独立住民投票も」

木村正人在英国際ジャーナリスト
メイ英首相(左)とスコットランドのスタージョン行政府首相。靴にも注目(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

スコットランドの雌ライオン

「スコットランドの雌ライオン」の異名を取るニコラ・スタージョン行政府首相(45)が17日、英BBC放送に対し、「もし、スコットランドの立場を保証しないまま英国政府が欧州連合(EU)からの離脱手続きを開始したら、来年にもスコットランド独立を問う2回目の住民投票を実施することを検討する」と述べて、テリーザ・メイ首相(59)を牽制しました。

ロシア国防省から「蘇った鉄の女」と命名されたメイは15日、スコットランドの中心都市エディンバラでスタージョンと会談。「スコットランドとEUとの将来について選択肢を聞くつもりだ。スコットランド行政府にも全面的に協議に参加してほしい」と述べ、スタージョンと話し合う姿勢を強調しました。

会談後、2回目のスコットランド独立住民投票については「2014年の住民投票で明確な意思が示されている」と検討する考えはないことを示唆しました。

鉄の女が政治の原点

「新・鉄の女」メイと「雌ライオン」スタージョンの争いの火ぶたが切って落とされました。メイは冷たい鉄、スタージョンは真っ赤に燃え上がる炎のような強さを持っています。

サモンド前SNP党首(筆者撮影)
サモンド前SNP党首(筆者撮影)

昨年5月の総選挙でスタージョン率いる地域政党・スコットランド民族党(SNP)はスコットランドの定数59のうち56議席を占めました。アレックス・サモンド前SNP党首は「スコットランドのライオンが吠えた」と圧勝ぶりを表現しました。「雌ライオン」のスタージョンが1議員を残してスコットランド労働党を皆食い殺してしまったのです。

小柄でキュート、耳に心地よいスコットランド訛りとは裏腹に、スタージョンの言葉は火の玉を吐くように激しいのです。雌ライオンの政治の原点は、初代「鉄の女」マーガレット・サッチャー。炭鉱閉鎖、労働組合・国有産業解体でスコットランドには失業者があふれました。その傷は今も生々しく残っています。

キュートなスタージョン行政府首相(筆者撮影)
キュートなスタージョン行政府首相(筆者撮影)

サッチャーの新自由主義経済がもたらす社会的な不正義を解消するにはスコットランドの独立しかない、16歳のとき、そう決めてスタージョンはSNP党員になりました。自治権拡大を足掛かりに、住民投票を再実施してスコットランドを独立させる――「独立」はSNPとスタージョンにとって単なる政治目標ではなく、もはやイデオロギーと言えるでしょう。

英国一丸となって離脱交渉を

これに対し、メイはEU基本条約(リスボン条約)50条に基づき離脱交渉のトリガーを引く前に、EU国民投票で残留派の方が多かったスコットランド(62%が残留支持)、北アイルランドと協議し、英国一丸となってEUとの交渉に臨みたいところです。一方、スタージョンにはメイに揺さぶりをかけ、スコットランドの立場をできるだけ強くする狙いがあります。

スタージョンはこの日、BBCに対し「スコットランドは英国とEUに残留することが可能だ」とも述べました。これまでの記者会見を聞いていると(1)スコットランドはEU国民投票で示された民意に基づき、EUに残留したい(2)それがかなわない場合は2回目の独立住民投票も選択肢になる――という言い方です。

スタージョン率いるSNPの最終的なゴールは言うまでもなく「スコットランド独立」です。英国がEU離脱を決めた国民投票後の世論調査では独立派が3~7ポイントもリードしています。しかし14年9月の住民投票で、44.7%対55.3%で独立は否決されたばかりです。それからあまり時間が立っていないのに2回目の住民投票を強行して再び否決されたら、スタージョンとSNPの政治的権威は失墜してしまいます。

整わない環境

英国がEUから離脱することになったとは言え、スコットランドが独立を目指す環境は整っていません。

(1)独立後の財源は北海油田の収入になる見通しですが、原油価格が低迷しています。

(2)今年5月のスコットランド議会選(定数129)でSNPは選挙区の得票率は伸ばしましたが、議席数は前回の69議席から63議席に減らし、少数与党に転落しました。

(3)メイが2回目の独立住民投票を認める保証がありません。

(4)カタルーニャ自治州などの独立問題がくすぶるスペインがスコットランドのEU加盟に強硬に反対しています。

(5)英通貨ポンド、欧州単一通貨ユーロ、スコットランド独自通貨のいずれを使うか決まっていません。

グリーンランド・モデル

スタージョンは、デンマーク領のグリーンランドがEUの前身である欧州経済共同体(EEC)から離脱したケースを念頭に、英国がEUを離脱することになってもスコットランドはEUに残留できるという道筋を描いているようです。

しかしEU基本条約で加盟申請できるのは「国家」と定められているため、EUの一員になるには独立して国家にならなければならないという見解もあります。

独立してEUに入り直すとなると、何年かかるのか見当も付きません。独立問題を抱えるEU加盟国がスコットランドの加盟について首を縦に振るとはとても思えません。メイがEU離脱交渉の大枠を示すまでは、スタージョンは世論動向を見ながら駆け引きを続けていくことになるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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