「ギャルピース」って知ってます? 韓国で「日本発祥の文化」として謎の流行中
ギャルピース。
「ピースを下向きにやって、時に前腕を反らせながらかわいらしく見せること」だ。
この日本の90年代ギャル文化発祥のポーズが、韓国のレトロ文化ブームにも乗り、K-POPアイドルの間でじわじわと流行っているのだという。「ブレイク寸前」といったところだ。
インスタグラムのハッシュタグの投稿数(韓国語で"ギャルピース"=갸루피스)には3937の投稿が集まっている、いっぽう日本語では2787。「韓国で流行っている」という話題が逆に日本に入ってきて、若者の間でも関心を集め始めているのだ。
韓国メディア「亜洲経済」のYouTubeチャンネル(4月16日)では以下のように紹介されている。
「日本のギャル族についてはドラマやニュースで見たことがあるでしょう?」
「ここから生まれたギャルピースを最近では韓国でも芸能人がやったり、ファンが芸能人に"やって"とお願いしたりしています」
「やはり、日本発祥のものだけにK-POPの日本人メンバーが慣れ親しんでいるように思います」
K-POPグループの日本人メンバーがリード
韓国最大のポータルサイト「NAVER」でこの単語が初めて登場したのが4月5日。大手経済紙「毎日経済」系の「MKスポーツ」がこう報じた。
「aespaジゼル、さわやかなギャルピース」
左の大きな写真が「ギャルピース」だ。
彼女のSNSでの写真をメインに伝えた短い原稿では「ジゼルはさわやかにギャルピースを取り、ファンの視線を鷲掴みにした」と紹介した。
その後、韓国で次々と報じられ始め、時を同じくして日本でもじわじわと報じるメディアが出てきている。これ以前にも2021年デビューの「IVE」のレイが昨年12月7日にファンと交流するアプリおよびSNSで披露しており、韓国では「彼女が流行の発端」「レイポーズ」とも言われている。
ポイントは、2人がかなりスゴいK-POPグループの日本人メンバーだということだ。
ジゼルは韓国の多国籍グループ「aespa(エスパ)」所属。2000年10月30日生まれの21歳。父親が日本人、母親が韓国人のハーフで国籍は日本。内永えりが本名。ソウル市江南区生まれで、東京都で育った。
「aespa」は2020年11月17日デビュー。1作目からいきなりアルバム50万枚を売上げ、2作目では国内音楽番組で8度一位を獲得。これまで5作のうち、もっともYouTubeの再生回数が多い楽曲は2億超えで、アメリカのFOXからも「このグループの存在が勝利」と評されたことがある。少女時代と同じSMエンターテインメントの所属だ。
レイ(直井怜)は、2004年2月3日生まれ、愛知県名古屋市出身の18歳。韓国のオーディションに合格後、2018年に渡韓。ソウル公演芸術高校実用音楽科を卒業した。グループではラップを担当する。
彼女の所属する「IVE(アイヴ)」は韓国の国民的チャットアプリ「カカオトーク」系列の事務所から2021年12月にデビュー。即刻「第4世代の代表的グループ」との評価を受けている。何せデビュー前から「ビジュアルがとんでもなくスゴいグループ」と話題になり、1曲めから13の音楽番組で1位を獲得した。YouTubeの再生回数もいきなり1億回を超えている。
「日本が発祥だから、日本人メンバーがやってる」という構図が分かりやすいか。最近では多くなったK-POPの日本人メンバーの影響もあり、韓国の他のアイドルたちも次々とSNSで披露しているのだ。
その他NMIXXのソリュンとベイ、Redvelvetのジョイ、少女時代のテヨンほか、4月13日にショートトラック世界選手権を終え帰国した選手団もこれをやり、「NEWS1」が「ギャルピースも完璧に」と伝えた。
日本では90年代に始まり、2020年代にも使う若者が
ギャルピース?
40代たる筆者は、はっきり言ってこの単語を知らなかった。
東京に暮らす20代前半の女性にこちらがポーズを取って見せると、「あ~高校時代にやりました」「若い子は指や前腕を反らせるんですよ」と言う。
その後ネットで検索してみたが、多くは「韓国で最近流行っている日本発祥のポーズ」という検索結果だ。
しかし細かく見ていくと、日本の90年代のギャル文化がルーツと思わせる情報がある。この時代を再現した2018年の邦画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」に関する記事で「ギャルピース」が出てきた。
広瀬すず、池田エライザ、山本舞香がギャルピース「SUNNY」メイキング写真
そしてこれを今の若者も確かにやっている。
ギャルピースで応じる笑顔の新成人たち 弘前経済新聞2022.01.09
これが今、韓国に伝わっているのだ。
- 人気YouTuber(登録者200万人)のけみお氏の楽曲(2018年)にもギャルピースが登場する
韓国にとって「日本のギャル文化」が「懐かしいもの」という一面も
韓国では2010年代中盤に「ニュートロ」という言葉が流行った。「NEW」と「RETRO」を足したもの。若い世代が昔流行ったものを今の感性で楽しみ、同時に上の世代が昔を懐かしむ、という流れだ。
テレビドラマでも1997年を振り返る「応答せよ1997」が流行した。日本でも「登美丘高校ダンス部がバブル時期の荻野目洋子楽曲を再現」が流行ったように。
「ギャルピース」の流行はこの流れの上にもある。「懐かしさ」を韓国を超えて日本にも求めた。あるいは日本のギャル文化が、韓国人にとっても「何か昔見たもの」の一環として捉えられているとも言える。外国文化か自国文化か関係なく、懐かしいものとして。
元々、韓国では日本の90年代の「ギャル文化」はよく知られているものだ。2010年代には、地上波で放映されるコントに「日本っぽい」ものとして「ガングロギャル」が登場するシーンもあった。
以下の動画では「90年代から安室奈美恵、浜崎あゆみ、倖田來未とアイコンが変化し、その後2010年代からAKB48の台頭によりおとなしくてどこにでもいそうなスタイルが主流になった」「その頃から"オルチャン(美少女)"といった韓国の考え方も流入してきた」という明快な分析もある。
韓国ならではの受け入れられ方「子音をつけてベタッと発音」
その文化の一つ「ギャルピース」。韓国での伝わり方が独特、いった面もある。
この言葉、元の英語は(あえて書くならば)「Gal Peace」だ。
韓国では「Gal」の「l」を子音をつけずに"スマート"に表記できるが、あえて母音をくっつけて、ベタッとした感じを出している。意図的にそうして日本語っぽくするのはよくあることだ。ちょっとしたイジりも入っている。しかし一方で、今や日本由来の「ギャル文化」をいう場合、そのローマ字読みの「Gyaru」が広まっているという説もある。
そしてこの「ギャルピース」、韓国の女性向けメディアに言わせるともっと"深い"。
ビューティ・ファッションメディア「アールア・コリア」はこう紹介している。
「Vを逆にひっくり返し、手のひらを空に見せるこの動作は、リラックスしていながら、どこか特別に感じられることもあり、アイドルの間で流行となっています。指ハート以降、もっとも流行した手のポーズですが、ガールズグループIVEの日本人メンバーレイが初めてやって以降、流行が始まったとされています」
手のひらを空に見せることが、特別だという。ちなみに40代たる筆者は同年代の友人に話題を振ってみて、実際に「ギャルピース」をやってみたが、前腕や手の甲がピキーンと痛み、出来なかった。40歳以上だと、このポーズが出来ない方も多いのではないか。それを「リラックス」だとも言う。
そしてこの言葉の「韓国語訳」も、まるで伝言ゲームのように少しだけズレが生まれていて興味深い。同じくビューティ・ファッションメディア「アールア・コリア」から。
「この特別なVの方法(韓国ではピースサインを『Vポーズ』と一般的に呼ぶ)の名前は『ギャルピース』。これは日本語で『少女』を意味する『ギャル』と、『Vポーズ』を意味するピースが合わさった合成語だと言います。直訳するのであれば『少女たちのV』になるでしょう」
う~ん、"ギャル"と"少女"はかなり開きがあるようにも見えるが。
恒例の「ツッコミ」もあり
そしてキッチリと、他媒体では日本文化の流行に対し"ツッコミ"が入っている。恒例行事が繰り返されているなぁという感じだ。お決まりすぎて、ツボる。
「『あまりに日本っぽい』…最近のSNSで流行中の"このポーズ"に喧々諤々」(Wikitree/4月13日)
なんでも各種ネット掲示板でこんなことが言われてるのだそう。
「ギャル、日本では上品じゃないっていうイメージじゃないのか? 文化じゃないだろ。早く過ぎ去ってほしい」
それに対する反論。
「なんだよ、日本の右翼のポーズでもない。たんなる流行ってことだろ? 2022年の今、何言ってんだ?」
「韓国のアイドルのなかで日本の文化が流行ってだけで…ため息が出るな」
この手の話、韓国で日本の文化が流行るという話題の度に「誰かが言わないといけない」ことなのだ。そちらに行きすぎるなよ、と警鐘を鳴らす。これがむしろメディアの役割、という面もある。まあ単にそのネタが読まれやすいということもあるが。
文化とは混じり合うことでまた発展するものだ。逆に混じり合わなければ文化じゃない。
と、そんな高尚な話でもないか。
その世代の当事者たちがお互いを可愛いと思っているのだ。逆に当の日本のギャル雑誌で「BLACK PINKみたいな女の子になる」と特集が組まれていたりするんだから。韓国のカッコいい系のトップスターになりたいのだと。
ちょっと前までは、逆に韓国発祥とされるポーズが日本で流行っていたし。「指ハート」が2019年頃から日本で流行した。
今後、「ギャルピース」が仮に日本でも流行るということになれば、こういった新現象が起きることになる。
「元々日本にあったものが、"韓国で流行っている"というお墨付きを得て、日本で再流行」
「その火付け役は韓国に暮らす日本人K-POPメンバー。現地で立場を得ていることの証」
そうなると2017年の「チーズタッカルビ」以来の新たな潮流となる。あれは「韓国ではなんでもないもの」が「日本で地上波ではなくインスタグラムから大流行」というものだった。
いずれにせよ、ここから韓国や日本で"ブレイク"しそうな話題としてお知りおきを。「娘世代の話題」として出てくるかもしれない。
参考記事:【韓国トレンドキーワード】 NEWTRO(ニュートロ) 絶対に抑えておきたい「韓国っぽ」の素のひとつ! 筆者による