シリアの反体制派支配地とトルコ占領地でイスラーム教の預言者を冒涜したフランス大統領への抗議が相次ぐ
アル=カーイダが支配するシリア革命の「解放区」の通行所の動き
イドリブ県では、バーブ・ハワー国境通過所の管理局が10月24日、ホームページなどを通じて声明を出し、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握り、シリア救国内閣に自治を依託している「解放区」へのフランス製品の持ち込み禁止を決定したと発表した。
決定は、フランスのマクロン大統領が「われわれは風刺画をやめない」と宣言し、預言者ムハンマドを再三にわたって冒涜したことへの対抗措置だという。
バーブ・ハワー国境通行所は、周辺国からシリアへの越境(クロスボーダー)人道支援の経由地として認められている唯一の通行所。
国連は2014年7月14日、周辺諸国の同意とシリア政府への通告(同意は不要)がなされれば、バーブ・サラーマ国境通行所(アレッポ県)、バーブ・ハワー国境通行所(イドリブ県)、ラムサー国境通行所(ダルアー県)、ヤアルビーヤ国境通行所(ハサカ県)を経由して人道支援を行うことができる旨定めた安保理決議第2165号を採択し、越境人道支援を認めてきた。
同決議は、安保理決議第2191号(2014年12月17日採択――2016年1月10日まで延長)、第2332号(2016年12月21日採択――2018年1月10日まで延長)、第2393号(2017年12月19日採択――2019年1月10日まで延長)、第2449号(2018年12月14日採択――2020年1月10日まで延長)によって4度延長された。
だが、2020年1月11日に採択された安保理決議第2504号では、シリア政府の支配下に復帰したラムサー国境通行所と北・東シリア自治局(クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体)とシリア政府が共同管理するヤアルビーヤ国境通行所は除外され、バーブ・サラーマ国境通行所とバーブ・ハワー国境通行所の越境人道支援の延長期間も半年に制限された。
また、同年7月11日に採択された安保理決議第2533号では、トルコの占領地に位置するバーブ・サラーマ国境通行所も除外され、バーブ・ハワー国境通行所の利用のみが2021年1月11日まで延長された。
トルコ占領地の通行所の動き
トルコが2019年10月以降占領下に置いているいわゆる「平和の泉」地域でも同様の動きが見られた。
ラッカ県のタッル・アブヤド市の国境通行所管理局も10月24日、フェイスブックを通じて声明を出し、トルコ占領下の「平和の泉」地域へのフランス製品の持ち込み禁止を決定したと発表した。
決定は、トルコのガジアンテップに拠点を置く暫定内閣(シリア革命反体制勢力国民連立の傘下組織)の指示によるもので、同じく、マクロン大統領がイスラームとその象徴を冒涜したことへの対応措置。
抗議デモも発生
一方、反体制系サイトのEldorarによると、シャーム解放機構支配下のイドリブ県ダルクーシュ町とザルダナー村で「寛大なる使徒ムハンマド救済(ヌスラ)」と銘打ったデモが行われ、マクロン大統領の弔辞内容に抗議の意思が示された。
フランス歴史教師殺害事件の首謀者はイドリブ県の過激派と接触
フランスでは10月16日、歴史教師のサミュエル・パティ氏(47歳)が、パリ近郊にある学校からの帰宅途中に、ロシア・チェチェン共和国出身のアブドゥッラ・アンゾロフ容疑者(18歳)によって首を切断されて殺害されるという事件が発生していた。
パティ氏が授業で表現の自由に関する議論をした際に、預言者ムハンマドの風刺画を見せたことが殺害の動機だとされる。
アンゾロフ容疑者はツイッターにパティ氏の頭部の画像を投稿したが、その後警察に射殺された。
APFは10月22日、捜査に詳しい情報筋の話として、アンゾロフ容疑者が、犯行前にシリアにいるロシア語話者のイスラーム過激派と接触していたと伝えた。同情報筋によると、この過激派の身元は判明していないが、フランス日刊紙『パリジャン』が10月22日に伝えたところによると、IPアドレスによる追跡で、この人物がイドリブ県にいると特定されたという。
事件ではまた、アンゾロフ容疑者がパティ氏を特定するのを手助けしたとして、14歳と15歳の生徒2人を含む7人が、テロ関連の殺人共犯容疑で立件されている。
アンゾロフ容疑者は、パティ氏の容姿を知らなかったため、生徒2人に300~350ユーロを渡し、協力させたという。アンゾロフ容疑者が生徒2人にパティ氏を襲撃すると語った後も、この2人は2時間以上にわたって容疑者とともにパティ氏を待ち伏せしていたと伝えられている。
このほか、立件された7人のなかには、SNS上でパティ氏への反対運動を行った保護者の男性が含まれている。この男性の娘は、パティ氏の生徒だったが、この生徒はパティ氏が授業で風刺画を見せた時には教室内にはいなかった。男性は事件前、WhatsAppでアンゾロフ容疑者とメッセージをやり取りしていたことも分かっているという。
また、4人目の容疑者は、イスラーム過激派として知られる男性で、ジェラルド・ダルマナン内務大臣は、この男性がパティ氏の襲撃を認めるファトワーを出したとの見解を示している。
残る3人は、アンゾロフ容疑者の友人で、うち1人は車で容疑者を現場まで送り届けた男性、もう1人は容疑者の凶器購入に同行した人物だという。
マクロン大統領の弔辞
「われわれは風刺画をやめない」とのマクロン大統領の発言は、10月21日に首都パリのソルボンヌ大学で執り行われたパティ氏の国葬での弔辞で行われたもの。
マクロン大統領はパティ氏にフランスの最高勲章であるレジオン・ドヌールを授与し、弔辞では、パティ氏が、フランスの世俗主義、民主主義の価値観を体現したがゆえに、臆病者たちに狙われて殺されたとしたうえで、「彼は我々の未来を奪おうとしたイスラーム主義者によって殺害された」、「我々の未来を決して渡さない」と強調した。