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早稲田大学、大敗。外部出身・銘苅信吾ヘッドコーチが目指す「200、300回」【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター

大学日本一の回数では歴代最多の15回を誇る早稲田大学(早大)ラグビー部の体制は、今季からかすかに変化している。過去3シーズン指揮を執った後藤禎和監督は留任も、グラウンドでの指導は銘苅信吾ヘッドコーチ(HC)がリードする。7季ぶりの優勝を目指し、攻撃システムの調整などいくつかのマイナーチェンジを図っている。

国際武道大卒の銘苅HCは、後藤禎和監督に請われてNPO法人のワセダクラブでコーチングのキャリアをスタート。早大の指導陣に入って4年目の今季から、現職を任されている。現在の同大にあって、OBではないコーチは銘苅HCの他には村上貴弘氏S&C(ストレングス&コンディショニング)のみ。

6月7日、東京・早大グラウンド。春季大会の4戦目で大学選手権6連覇中の帝京大学(帝京大)に12-73で屈した直後、取材に応じた。

以下、一問一答。

――まずは試合の感想を。

「チームとしては、敵陣でのディフェンスで前で止め続け、相手にキックを蹴らせることを目指していた。ただ、(密集の)近場などで簡単にゲインされた。テーマにしてきた部分で崩されたのが敗因の1つになります」

――自陣では激しい守備も見られましたが。

「タックルに入るのは当たり前。その後にどれだけ速く起き上がれるか、どれだけボールに働きかけられるか。そこを帝京大よりも激しく、精度を高くやらなきゃいけないのに、相手に上回られた」

――ぶつかり合いでは、手応えも。

「そうですね。チームとしてはまだまだですけど、個人では去年までだったら差し込まれていた部分をイーブンにできたところはあった。ナンバーエイトの佐藤穣司(副将)はいくつか上回ることができた。ストレングスと食事は改善。少しずつですけど、成果は現れているのかなと」

――今季から、HCです。

「トレーニングのメニューや全体のプランを後藤監督と一緒に考えて、実際のグラウンドでの指導は僕がしています。練習が全て。練習してきたことしか、試合には出ない。試合直前だったら、誰でも勝ちたいと言うんです。そのための準備を、練習でする。夏合宿でも帝京大と試合をしますが、そこに向けた準備をいまから始めないと。選手にとって、『今年のワセダはこう勝つ』というものを明確にさせたい」

――今年のチーム。グラウンドの両端にポッド(複数名のユニット)を作って、グラウンドのどこからでも左右にボールを散らすイメージを持っていますね。

「アタックで大きく変えた部分です。去年までだったら、(攻撃を重ねるなかで)横へ長い距離の移動があった。今年は(攻撃を始める前から予め左右に散っておくことで)横にはあまり移動せず、1本1本、力強いランニングを繰り返せるように。今年のメンバーの能力を一番、引き出せるので」

――「今年のメンバーの能力を一番、引き出せる」。具体的に。

「フィジカルは鍛えているけど、身体は小さい。そんななか、長い距離を移動し続けていると、1本の走りが弱くなる。(左右にユニットを作るいまの形でなら)常に(ボール保持者の周りに)サポートがいるという状態で、思い切って前に走れる。1つひとつのブレイクダウン(接点)も強くなります。常に左右いっぱいに人が立って、縦にも行くし、横にもボールを振れる」

――新システムのキーマンは、スクラムハーフからインサイドセンターへコンバートした岡田一平キャプテンですね(この日は欠場)。

「センターに、とは、僕から彼に話をしました。今年、やろうとしているラグビーのなかでも、センターが重要になる。いかにグラウンド全体を見られるか、と。岡田はそれができるうえに、チームで一番、ブレイクダウンが強い。ブレイクダウンの多いポジションで、一番強い選手を使いたいという意図もあります」

――左右、どちらのポッドに球を回すかを的確に判断し、球が回った先のブレイクダウンへいち早くサポートするイメージですね。

「あとは、タックルも激しい。犬みたいに、ボールへ噛みつけるんですね。システムをいい意味で崩せる(5月31日の東海大学戦でも、自陣22メートルエリアで玉砕覚悟のタックルを繰り出した)。脅威になるタックルをセンターができると、相手は嫌ですよね」

――日本代表のフルバック藤田慶和選手、20歳以下代表のウイング桑山聖生選手、フランカー加藤広人選手といった、現在離脱中のメンバーについては。いずれもサイズとスピードに長けています。

「期待している部分はあるけけど、彼らだけに期待してもしょうがない。その前にチームを底上げする。彼らにどれだけいいボールを渡せるかがキーになる。そのためには、ボールを継続させないといけない」

――母校出身者ではない指導者として。

「1年目は少し気にする部分はありましたが、周りが言うほどは…。ワセダの人間に負けないぐらい、ワセダの人間を愛しています。大事なことは、選手とどれだけ向き合えるか。それは僕が何人だろうがどこ出身だろうが関係なく、彼らに道を作る。ここは変わらないです。きょうは、やっと、戦えるようにはなってきていた。それまでは淡々と試合をこなしていたので。フォーメーションやスキル以前に、ファイティングスピリッツがないと勝てない」

――今後は。

「春からの継続で、ストレングスを強化する。あとはできるスキルを繰り返しやり続けること。同じプレーを80分間、100回やれと言われたら、いまはできないんです。100パーセントできることを200回、300回できるという基礎を積み上げる。あとはきょうの課題をチーム全員でクリアしていく。相手はどうこうではなく、自分たちがどうなのかが肝になる」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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