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歴史を築いたWBCバンタム級王者、ノニト・ドネアが愛する日本ブランド

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 38歳のノニト・ドネアがノルディーヌ・ウバーリ(34)を4回1分52秒でKOし、WBCバンタム級王座を奪還した。

 序盤から左フックをぶち込むタイミングを計り、ドンピシャの1発で試合を決めた。結局、ウバーリを3度キャンバスに沈めたドネアの圧勝だった。

Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 ドネアは初回から自身の距離での闘いを貫いた。ウバーリも手は出したが、完全に読まれていた。言ってしまえば、ボクサーとしての格が違った。新チャンピオンにとっては、井上尚弥戦後、1年7ヵ月ぶりのリングである。

 試合前、ドネアは「長い休養により、今回は素晴らしいコンディションを作ることができた」と話していたが、動きは井上戦以上にシャープだった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210528-00239986/

写真:ミズノ社提供
写真:ミズノ社提供

 試合後、勝者は語った。

 「私の能力は伸びている。年齢は問題じゃない。肝心なのはメンタルの強さだ。井上戦でそれを学び、カムバックした。まだ、このレベルで闘える。次の試合に向けても準備万端だ」

 ドネアの言う「次」とは、井上尚弥とのリターンマッチを意味している。今のドネアのモチベーションは、2度目の井上尚弥戦である。

Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 2019年11月7日の井上尚弥戦で、ドネアはオレンジをベースにベルトラインをブルーに彩ったトランクスでリングに上がった。今回のウバーリ戦は、同じ色を使用しながらも配色を変えた。そしてシューズは、今回も井上戦もまったく同じタイプの品だった。

 トランクス、シューズ共に日本製「ミズノ」社の製品である。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 ミズノ社のボクシング担当を務める折田恵一氏は言う。

 「今回、ドネア選手にご使用頂いたブルーのトランクスとシューズは、当初、2020年5月16に予定されたノルディーヌ・ウバーリとの試合用に作ったものです。ですから1年以上前ですね。でも、新型コロナウイルスの影響で延期になり、ようやく今回穿いて頂く機会を得たという訳です」

Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 「直接ご本人から聞いた訳ではありませんが、ドネア選手はアニメの『ドラゴンボール』がお好きだそうで、主人公の孫悟空の服と同じ色であるオレンジ×ブルーを好んでいらっしゃるようです。ジャージやシューズも『可能であればオレンジが入った物を』というリクエストを頂きました。ですが、シューズはオレンジベースの生地が無いんですよ。なので、ラインをオレンジにしております」

写真:ミズノ社提供
写真:ミズノ社提供

 ドネアが初めてミズノ社に連絡して来たのは、5階級制覇を狙った35戦目、2014年5月31日に行われたWBAフェザー級タイトルマッチの前だった。

 「南アフリカのシンピウィ・ベトイェカへの挑戦を控えていた頃です。弊社としては名誉なことですから、物品提供をさせて頂くこととなりました。トーマス・ハーンズと同様ですね。今回、ミズノのトランクス、シューズでリングに上がるのは13回目でしたね。赤や、黒に緑のラインの物を作ったこともあります。フィリピノ・フラッシュというニックネームですから、毎回、カミナリマークを入れ、閃光と漢字で刺繍したこともあります」

写真:ミズノ社提供 ドネアが東京都千代田区神田小川町のエスポートミズノを訪れた際の1枚
写真:ミズノ社提供 ドネアが東京都千代田区神田小川町のエスポートミズノを訪れた際の1枚

 「井上尚弥戦の前は、『トランクスの生地を見せてほしい』と弊社にいらっしゃいました。それで、オレンジとブルーの生地を選んで頂いたのです。オレンジに拘りを見せたのはWBSSが始まってからですから、比較的最近です。我が社の製品を愛用しながら、これ以上ない内容のファイトで伝説を作って頂き、嬉しく思っております」

写真:ミズノ社提供 井上尚弥戦でドネアが身に着けた一式
写真:ミズノ社提供 井上尚弥戦でドネアが身に着けた一式

 井上尚弥もまた、ミズノ社の契約選手である。日本のメーカーが世界最高峰の一戦のお膳立てをするーーそんな事実も忘れたくない。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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