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世界的人気ドラマ「イカゲーム」 お膝元韓国での評価は? 当初は不評も「海外人気」が国内に急速伝播

大傑作か、はたまた問題作か。

Netfilxオリジナルドラマ「イカゲーム」。

9月17日に一気に全9話が公開されるや、幾多の記録を更新し続けている。

10月13日にNetflix社のリード・ヘイスティングスCEOが「歴代最多の視聴回数を記録」と公式発表。97年にアメリカで設立された同社での幾多の自国作品などに打ち勝ったのだ。公開後、17日目にしてNetflixの加入者数は世界でじつに1億1100人増加。また10月20日の同社報告によると「公開後28日で1億4200万人が視聴」とされた。9月30日から10月1日にかけて、同社がサービスを提供するすべての国や領域で「再生回数1位」を記録。これも史上初めての記録だった。

韓国で制作された「韓流ドラマ」だ。1971年生まれのファン・ドンヒョク氏が脚本・監督・演出を担った。

主人公はソウルに暮らす47歳のソン・ギフン(イ・ジョンジェ)。事業に失敗し、借金にまみれ、堕落したギャンブル暮らしを送っていた。妻からも見放されて離婚。ともに暮す母も嘆く日々を送っていた。

そこに『大金を賭けたゲーム』への参加を促すスタッフが現れ、ストーリーが展開していく――。

『イカゲーム』とは韓国で伝統的に子どもたちが遊んできたゲームのこと。これがどうストーリーに関わってくるかは…本編をご覧あれ。

独特な世界観を描き、グローバルな人気を得た本作が、自国でどう見られているのか。これまでの人気ドラマ「愛の不時着」や「梨泰院クラス」とはどう違うのか。現地記者への取材や、SNSを通じたアンケートを行った。

韓国メディアに配布された「キャラクターポスター」
韓国メディアに配布された「キャラクターポスター」

”海外で流行っている”報道が発端

その人気は”海外先行”だった。「スポーツ京郷」の芸能担当ハ・ギョンホン記者は言う。

「BTSやパラサイトなど世界的に有名なエンタメコンテンツと、『韓国での流行り方』という点で共通点もあります。海外での受賞歴や実績が国内での人気を呼んだ、という点です。BTSはビルボードでの人気から。パラサイトはアカデミー受賞から。そしてイカゲームもNetflixで世界90カ国ストリーミング1位という実績から報道が始まりました。そこから韓国での関心が高まっていったんですよ」(同)

韓国で15日にオンライン制作記者会見は行われたものの、「イカゲーム」自体に大きな期待があったということはない。「なんか、海外ですごいらしいよ」という点から韓国でも火がついた。

むしろ、当初の韓国での評価は低かったという面もある。9月22日、韓国メディアとして初めて「ウィキトゥリー」が本作の米国での人気を報じた。タイトルは「国内で好き嫌いが分かれた”イカゲーム”アメリカのNetflixで1位に」もややネガティブなもの。こんな言及もあった。

「韓国では久々に登場した新鮮なジャンルという意見もあったが、ストーリーがあまりに平凡で、拒否感を感じるシーンも多いという指摘もあった」

  • ”Netfilx営業領域外”のため放映されていないはずの中国での人気ぶりも韓国で連日報じられる

問題作としての一面

「韓国の現実をしっかりと投影した作品。いっぽう外国人にはヨンヒ(劇中に出てくる巨大な女の子の人形)、ダルゴナ、緑色のジャージのイメージではないでしょうか」(ソウル郊外在住の40代男性)

格差や闇、といった韓国社会を映し出している、という評価は「パラサイト」や「愛の不時着」などでも聞かれてきた点だ。”平凡”だ。

のみならず、作品は韓国内で問題視される傾向もあった。

「残忍性」、そして「パクリ疑惑」についてだ。

前述の通り「18禁」の作品だ。過激なシーンも多いなか、韓国ではある点が「やりすぎ」と物議を醸してきた。

「女性蔑視を助長する作品」

具体的には劇中のゲームに参加するミニョというキャラクターについてだ。同じ参加者や主催者に男性が多い中、”あらゆる手”を使って生き残ろうとする。

「スポーツ京郷」のハ・ギョンホン記者は、そもそもの設定が批判の的だったと感じている。

「もともとは、男女に関係なく“人間に対する嫌悪を生んでいる”という批判だと思うんですよ。ドラマのストーリー自体が、人間をまるでハエの命のように殺す設定ですから。劇中、女性を手段として用いることを助長する場面が見られたという批判よりも、ゲームを主催する側に対する批判のインパクトのほうが強いです。これがやりすぎではないかという」

また、日本など海外で指摘される「パクリ疑惑」についても韓国で認識されているようだ。

ソウル郊外在住で出版社を経営する40代男性はこう語る。

「『カイジ』、『バトル・ロワイアル』、『神さまの言うとおり』など日本の作品を多く見た人は『アイデアを持ちこんだだろうな』という点は知っています。パクリと認めないといけない部分はあると思います。しかし韓国でそれを知るのは少数です。日本の作品を見ない人たちは似ているということもよく知りません」

ハ記者は少し違う見方をしている。

「日本ではおそらく『バトル・ロワイアル』や『カイジ』シリーズの話をしているのでしょう。『イカゲーム』のファン・ドンヒョク監督もこのゲームの形式を参考にしたと口にしています。こういったサバイバルの部類の作品は世界中で似た傾向が出てくるのではないでしょうか。イカゲームの特徴は『複雑な展開』と『頭脳ゲーム』を、韓国で幼き日の遊びの要素で単純化、直感的に表現した点にあると見ています」

  • 9月27日「SBS」で日本でのパクリ疑惑が報じられた

韓国人にとっての”ギャップ萌え”

しかし、韓国内では「世界的人気」を受けこういった評価が覆っていった。

ギャップ、という点からだ。

韓国スポーツ紙「スポーツ京郷」のハ・ギョンホン記者はこう語る。

「サバイバルゲームの結果からくる合格と脱落が、生と死という極端な結果に分かれるという要素。美術や音楽、照明やセットなどの要素が非常に童話的でありながら、殺人が繰り返される。そのギャップが流行の要素の一つです。これはNetflixだからこそ表現できたことでしょう。新鮮でした」

確かに、POPなセットでの残虐なシーンが続く。韓国では「18禁」の作品ゆえ、殺人などの惨殺な場面、セックスシーンなどが含まれる。

もうひとつ、この作品には「韓国人により強く感じられる」ギャップもあるようだ。

劇中のゲームを見て”懐かしい”と思う感情だ。

  • 全羅北道教育研究情報院による「イカ遊び」の解説

「一番大きな特徴は、70年代や80年代の子どもたちの遊びを、残酷な生存ゲームの競争のツールに繋げた皮肉さとシニカルな感じでしょう」(ソウル郊外在住40代男性)

「カルメ(砂糖を煮固めて型をとるお菓子)は小さい時にやって、器を焦がして母に叱られたな~」(釜山在住30代男性)

ちなみに「カルメ」は韓国で「ダルゴナ」。2020年頃日本でも流行った「ダルゴナコーヒー」のダルゴナでもある。「砂糖と炭酸水素ナトリウム(ベーキングパウダー)を過熱して作る韓国の駄菓子」だ。

いっぽうで、こういった韓国人にとっての「懐かしい遊び」は逆に「海外で本当に流行っているの?」と感じられるシーンのようだ。

「ヨーロッパやアメリカでも、韓国に伝わる遊びが真似をされているようで、そういった動画や記事を見ることで『流行っているんだな』という実感が湧いたというところです」(ソウル在住30代女性)

11月8日、米ロサンゼルスにてキャスト、監督が参加しての上映会が行われた
11月8日、米ロサンゼルスにてキャスト、監督が参加しての上映会が行われた写真:ロイター/アフロ

男性人気も上々

世界的な人気が連日報じられるや、韓国内での人気はさらに加速していった。

「男女比率は他のドラマコンテンツに比べると『半々』と言えますね。男性が好きそうな生存サバイバルと、女性も共感できる昔ながらの遊びが加わる構成ということもあり。年齢帯もやはり10代から40代まで幅広い印象です。とくに20~30世代の好反応が多いようです」(前出のハ記者)

それは「愛の不時着」のような既存のドラマの流れとは違う傾向のようだ。

「愛の不時着ももちろん人気がありましたが、主演俳優であるヒョンビンの魅力でハマった女性人気が高かったと見ています。イカゲームは世界での人気と作品自体の独特な雰囲気の影響で男性視聴者の人気も得ているように思います」(同)

Netflixならではの流行り方

BTSや「薔薇サイト」のように、海外での高評価が国内人気にも繋がった流れの「イカゲーム」。

より細かく紐解いていくと、この時代を反映する新しい傾向も見える。

上記のような韓国発の世界的コンテンツとは似ているようで、少し違った動きがあるのだ。

全体的な傾向をこう整理できる。

■韓国で結果を残し、世界進出したコンテンツ

PSY「カンナムスタイル」(2012年7月)、映画「パラサイト」(2019年5月)

これが最も分かりやすいスタイルだ。サッカー選手の海外移籍と同じ。自国で活躍してこそ、世界に羽ばたける。

■韓国を経ず、最初から世界を狙ったコンテンツ

BTS「Dynamite」(2020年8月)、「Butter」(2021年5月)

2020年以降のBTSの英語でのヒット曲は「韓国の音楽番組(ランキング番組)での活動なし」だ。世界同時にデジタル発信し、アメリカでのランキングが注目された。新しいかたちだった。

とはいえ、BTSもともと韓国で時間をかけて基盤をつくっていったグループ。「外国先行人気」の面もあるが、大きな枠で言えば「韓国先行」と言える。

■「同時進行」

ドラマ「イカゲーム」2021年9月

タイムラグがほぼない。全編世界同時配信後の9月17日、5日後の22日から米国での人気ぶりが報じられはじめ、あっという間にブレイクした。2020年8月よりも新しいかたち。

無名のコンテンツ。「ゼロイチ」に近い。この点が新しいのだ。

「Netflixオリジナル配信」という新しい形態が「自由な表現度」を生んだ。「映画並みにエグい」。それでいて、世界での配信タイムラグがまったくない。

Netfilxが韓国内で配布したビジュアルイメージ。コピーは「456億、大人の童心が破壊される」
Netfilxが韓国内で配布したビジュアルイメージ。コピーは「456億、大人の童心が破壊される」

9月17日からの驚異的なスピードによって広まった世界での人気。これが韓国での少々の不評も吹き飛ばした。「新しいのに、懐かしい」。いまや韓国内においてはそういった点を絶妙に突いたとも評される。

「実際、韓流ドラマ界全体には『停滞期』がありました。メロドラマやコミックが単純でわかり易すぎる展開が続いたのです。しかしイカゲームは韓国ドラマで主に扱ってきた”流行るツボ”ではない点をことごとく抑えつつ『遊びの要素と、生きることに対する絶望的な問い』を行った。ジャンル、設定、展開が新鮮と捉えられています」(「スポーツ京郷」ハ・ギョンホン記者)

近年ヒットした韓流ドラマの多くは全16~20編だが、「イカゲーム」は9編で終わる。決してスイスイと観られる作品ではないはないが、Netflixは近年多く話題となるビジネスモデル「サブスク」の最先端でもある。映画並みの表現力と驚異的なスピード。その新しさに触れられる作品でもある。そして11月10日、第2弾たるシーズン2の制作が発表となった。今から見始めても「まだまだ話題に乗っていける」というコンテンツ。ちょっとグロいが、オススメだ。

※本作品は日本のNetfilx上では「15歳未満の視聴は推奨せず」とされています。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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