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5分でわかる菅総理初の党首討論、討論内容まとめ

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
菅総理に野党各党が党首討論で挑みました(写真:つのだよしお/アフロ)

 菅総理初となる党首討論(国家基本政策委員会合同審査会)が、9日16時から参議院第1委員会室で開かれました。今通常国会も会期末に近づく中で、党首討論での対決はどうだったのか、中継動画をもとにレポートと分析をしたいと思います。

「今年10〜11月に希望する方の接種を終えたい」

 冒頭、立憲民主党の枝野代表からは、緊急事態宣言を1月に出した後、まん延防止に戻したという「緊急事態宣言の解除」が早すぎたのではないか。第5波となってしまっては、事業者を中心にますます耐えられない可能性がある。リバウンドを防ぐためには、新規感染者が東京で50人になるまで、緊急事態宣言を伸ばす必要がある。第5波を防ぐためにも、3月の解除が早すぎたという反省と、同じ間違えをしないために解除の基準を明確にすべきだという質問がありました。

 菅総理からは、政府として緊急事態宣言やまん延防止を出したが、これらは専門家の委員会にかけて決定した。結果として今、枝野代表が言われたとおりだが、新型コロナは世界各国をみても、ロックダウンをしても同じような状況の国があった。外出を禁止する厳しい措置を行った国でも収束をさせることはできなかったと述べた後、約1700市区町村の98%で、7月末には高齢者接種が終わることと、今月中には4000万回の接種が終わる見通しが立ったこと、更に、今年の10月から11月にかけて希望する方すべて(の接種)を終えることを実現したい。という答弁がありました。

 この「今年の10月から11月にかけて希望する方すべて(の接種)を終えることを実現したい」という答弁は、当初よりも接種のスピードアップができていることに対する自信の表れであると同時に、新しいコミットメントラインを設定したことで菅総理の実質的なコロナ対策の公約となるインパクトのある答弁でした。また、10月から11月は衆議院議員選挙が想定されている時期ですが、9月解散ではなく10月の任期満了を待ってコロナワクチン接種がほぼ終わるタイミングでの選挙を狙う可能性も見えてきたと言えるでしょう。

のらりくらり答弁に議場がざわつく

 枝野代表が五輪開催について、「国民の命と健康を脅かす事態を招かない」ことが前提と言ったが、大会参加者による直接的な感染拡大だけでなく、五輪開催を契機とした感染拡大全般を指すということでいいのかと質問したのに対し、菅総理の答弁が長々と続き議場がざわつく場面がありました。菅総理はこの質問に対して、概ね以下のようなことを述べました。

 五輪についての考え方だが、まず来日する人数は18万人から半減し、更に減らす方向だ。来日する選手や関係者に対しても入国前後に徹底した検査をする。海外メディアについてもGPSなどを使った徹底的な管理をして、違反した場合には強制退去をする。テスト大会もこれまで4回やっている。これらにより、安心安全の大会にしたいと思う。

 私自身57年前の東京五輪、高校生だったが、未だに鮮明に記憶している。東洋の魔女と呼ばれた選手の回転レシーブが印象に残っている。また、底知れない人間の能力というものを感じた、マラソンのアベベ選手が記憶に残っている。そして何よりも記憶に残っているのは、オランダのへーシング選手です。興奮したオランダ選手達がへーシング選手に集まるのを制して、へーシング選手が日本選手と抱擁したこと、相手を尊重する姿勢、記憶に残っていますし、子ども達にもぜひ見て欲しいと思っています。

 そして57年前のパラリンピックは、初めてパラリンピックという名前で行った大会でした。これらが障がい者の社会的進出に貢献したと思うし、心のバリアフリーにも貢献すると思う。こうした様子をテレビで40億人の人たちが見るということですから、東日本大震災から乗り越えたことも日本から発信したいと思いました。IOC、IPC、組織委員会などで方向性を決めることとなっていますから、その中で決めていくことと承知しています。

 国家基本政策委員会合同審査会は参議院第1委員会室で開かれましたが、持ち時間(枝野代表の持ち時間は30分)は両側通行(質問と答弁の時間を合わせて30分)でした。そのため、この答弁の最中に議場からはヤジも飛びましたが、枝野代表は「総理の思いの話はここではふさわしくない話だと言わざるを得ません。質問に真正面に答えて頂けなかった。」と返すにとどめました。

解散をしない任期満了の選挙か?

 続いて登場した日本維新の会の片山虎之助共同代表は、冒頭、衆議院の解散は持ち越されている。総理は実績を出してからと言っているが、あと数ヶ月。コロナも予断を許さないがワクチンの普及も大変だ。選挙を本気でやられたら、コロナはどうなるんだという意見がある。衆議院議員の選挙は任期満了でする必要(がある)、解散をしない選挙、どう思いますか?と訪ねました。

 菅総理は、「解散総選挙についてマスコミなどを含めて議員も含めて聞かれます。コロナ対策最優先、これが国民の期待しているところだと思います。コロナ対策を優先していきたいと思います。」と答えるにとどめました。

 この答弁は、確かにこれまで菅総理が一貫して答えている言葉です。ただ、この片山共同代表とのやりとりの前に枝野代表への答弁として答えた「10月〜11月にワクチン接種を完了」という答弁とあわせれば、衆議院を解散しない日程である11月14日投開票、または10月21日の任期満了日に敢えて解散をする日程である(理論上最も遅い日程である)11月28日投開票の可能性も今回の発言で高まってきたと言えるでしょう。

 また、東京五輪に関して、片山共同代表からは「開催都市は東京都なのだから、もっと小池都知事が全面に立って、菅総理は後ろなのでは」と問われたのに対し、菅総理からは「まさに私が言って欲しいことを仰って頂いた」と述べ、この合同審査会中初めて議場が笑いに包まれました。東京都議会議員選挙が近づく中で、小池都知事の役割と菅総理との役割を線引きするこのやりとりに、小池都知事がどのように反応するかにも注目したいところです。

海外メディアをGPSで管理はできないのでは?

 国民民主党の玉木雄一郎代表からは、まず、ワクチンパスポートあるいは検査陰性を含むデジタル保険証を東京五輪で先行したらいいのではないか、という質問がありました。これについて菅総理は内閣官房で検討すると回答しました。

 また、東京五輪取材のために来日する海外メディアについてGPSで行動管理すると言われていたが、訪日外国人向けの73億円のアプリからはGPSを取ったのではないか、という質問について、菅総理は「GPSで管理できると報告を受けている、確認したい。」と述べるに留まりました。政府内で意見が食い違う状況に、玉木代表からは「しっかりと確認をして下さい」と厳しい追及がありました。

 このほか、玉木代表はこれまで委員会質問でも多用しているパネルなどを使って経済対策に対する質問を行ったほか、予算未執行に対する追及などがありましたが、5分という短い制限時間の中で菅総理から答弁を引き出せずに終わったこともあり、玉木代表は大変残念ですというコメントを残しています。

志位委員長の「天秤」質問に菅総理が気色ばむ場面も

 最後に質問に立ったのは日本共産党の志位和夫委員長です。志位委員長は菅総理が以前「国民の生活と命を守るのは当然だ、守らなければやらないのは当然だ。」と発言したことと、尾身茂会長が「たとえ五輪競技会場での感染を抑えられたとしても、①全国から競技会場に移動する動き、②競技会場外のイベントに観客が集まる動き(ライブサイト・コミュニティサイトやパブリックビューイング)、③夏の4連休で都会から地方へ感染を防ぐ動きにより、オリンピックを開催すれば今より感染リスクが高くなる。リスクをゼロにはできない。」と発言したこととに触れ、どう考えているのか菅総理の考えを問いました。

 菅総理はこれに対し、「尾身会長は西村康稔大臣と毎日お話をしており、その報告を私も受けています。そもそもライブサイトなどは、今、志位委員長が言ったことを全部やるとは決まってないんではないでしょうか。」と言い返します。

 志位委員長はこれに対して「リスクを避けることはできても0にはできない。それでも(東京五輪を)やる理由は何ですか。」と畳みかけると、菅総理はこの党首討論で初めて語気を強めて「国民の生活と命を守るのは責務。守るのが私の責務。守れないなら当然ですよ。」と答弁をしました。

衆院選挙を意識し、各党の政策を訴える場

 全般的に、各党はこれまでの国会論戦で各党が訴えてきた政策を繰り返し持ち出して、政策を訴える質問が目立ちました。政府に対する対案としてどのような経済政策を打ち出した方がいいという対案と補正予算を絡めた質問が多く、「国会を延長しないのか」「五輪を中止しましょう」といった短答式の質問にはなりませんでした。

 一方、菅総理は枝野代表の冒頭質問の答弁の機会を利用して、10〜11月の接種完了という答弁を残しました。この答弁はマスメディアも速報を流したようにインパクトがあったものです。党首討論を取り上げるテレビ・新聞でもこのコミットメントが時間(あるいは紙面)をかけて報道される可能性が高いという点からも、用意周到に準備していたと考えられるでしょう。

 今国会については、「国会の判断に任せる」との今まで通りの発言から、このまま閉会する可能性が極めて高いでしょう。LGBT理解推進法案や歳費返還法案に関してのサプライズもありませんでした。前掲の通り、衆院解散総選挙の可能性が低くなったと捉えられる中、当面はワクチン接種状況が順調に進むかどうかと、東京五輪の開催について注目が続く見通しです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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