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「終わった男」に下された1年間の出場停止処分

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 4月20日に催されたWBCスーパーライト級王者、デヴィン・ヘイニー戦で、3.2パウンド(1.45kg)のオーバーウエイトでリングに上がったライアン・ガルシア。体重超過だけでもプロボクサー失格であるのに、禁止薬物であるオスタリン使用という動かぬ事実を突き付けられ、このほど、1年間の出場停止処分が下った。無論、ヘイニー戦の結果も覆り、ノーコンテストとなった。

 ガルシアは定められた体重を作れなかったばかりか、パフォーマンス向上作用のあるオスタリンを摂取しなければ、リングに上がれなかったのである。

 ニューヨーク州アスレティック・コミッションは、ガルシアがヘイニー戦で稼いだ120万ドルを没収、さらに1万ドルの罰金を科したという。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 当初、同コミッションはガルシアに対し、公聴会をセッティングした。だが、ガルシアはこれを拒否。代わりに1年間の出場停止を受け入れた。よって、ガルシアは2025年4月20日まで試合に出られない。彼は、体重超過のペナルティで、既に60万ドルをヘイニーに払う約束をしており、更に121万ドルを失うのだ。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 筆者は、2022年7月16日にロスアンジェルス、クリプト・ドットコム・アリーナで行われたガルシアとハビエル・フォルトゥナ戦を現地取材している。フォルトゥナは、WBAフェザー級暫定王座、WBAスーパーフェザー級王座に就いた経験があったが、この時点では33歳の”元チャンピオン”に過ぎなかった。

 6ラウンド37秒でガルシアが勝利したが、ガルシアにとってフォルトゥナは、安全な対戦相手であり、<オスカー・デラホーヤによって過保護に作り上げられたスター>ということしか見えなかった。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 御存知のように、ガルシアは昨年の4月、ジャーボンテイ・“タンク”・デービスに7ラウンドで屠られた。無敗対決といっても、両者が歩んできた道程には大きな差があり、力の差は明白だった。

 ガルシアにとってデービスは、初めて向かい合う真の実力者であった。ヘイニーは、2人目の”本物”。咬ませ犬としか戦った経験の無いガルシアは、恐怖に押し潰されそうになったのか。

 ガルシアの弁護士を務めるポール・グリーンは、5月にESPNの取材に対し「4カ月以下の出場停止処分を希望している」と語っていたが、事態はそんな甘いものではない。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 気の毒なのは、WBCスーパーライト級チャンピオンである。ヘイニーは、プロ31試合で一度もダウン経験が無かった。しかし、オスタリンに頼り、実質、上の階級に膨らんだ男と戦うことになったのだ。7回、10回、11回と3度倒された姿は、ファンの記憶に少なからず残っている。

 今後、ガルシアがカムバックを目指して自分を律するとは、とても思えない。このままリングを去るのが、ボクシング界の為だ。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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