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「俺は咬ませ犬じゃねぇ!」意地を見せたフルトンの隣人

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Esther Lin/SHOWTIME

 13勝(8KO)2分けとそこそこの注目を集めていたジョージア人ファイター、エンリコ・ゴゴ―キャが、初黒星を喫した。ゴゴ―キャは、東ヨーロッパに位置するジョージアから米国に渡り、現在はカリフォルニア州に住む31歳のサウスポーである。

 対戦相手に選ばれたのは、18勝(8KO)4敗1分けの35歳、サムエル・ティ。リベリア生まれで、現在はペンシルバニア州フィラデルフィア在住だ。正直なところ、ティは安牌として呼ばれた選手だった。

 実際、ティは2年前にも売り出し中のアジア系ファイターの咬ませ犬となっていた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210316-00226875

Esther Lin/SHOWTIME
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 後が無いことはティ本人が最も良く理解していただろう。初回からゴゴ―キャのお株を奪うアグレッシブさを見せ、右をヒットしてダウンを奪う。その後もフットワークとジャブでリングをコントロールした。

 ゴゴ―キャは、左ストレートをボディに狙うが、ティアにダメージを与えることはできなかった。

Esther Lin/SHOWTIME
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 ティは8回にわたって攻めの姿勢を崩さず78-73、78-73、79-72と文句なしの判定勝ちを飾った。

 フィラデルフィア市内を走る「SEPTAバス」の運転手として生活費を稼いでいるティは、ボクシングを辞め、バスドライバーに専念することを検討していた。が、生き残った。

 ティのヘッドトレーナーであるラシーム・ジェファーソンは言った。

 「勝利の鍵は、ゴゴ―キャのフックを封じ、ペースダウンさせることだった。ゴゴ―キャにプレッシャーをかけ続け、ハートを折ることをテーマとした」

 フィラデルフィアは井上尚弥が5月7日に挑むWBC/WBO王者、ステファン・フルトンの故郷でもある。名チャンプが多く誕生した場所だ。

 ティの勝利にフィラデルフィアンの意地を見た。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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