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ロシアW杯23日目。イングランド、ロングボールに生きそして死す。決勝でクロアチアは先制あるのみ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
イングランドは空中戦には強かった。だが、3バックならもう少しボールが持てたはず(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの22回目。大会23日目準決勝で見えたのは、ロングボールに生き、ロングボールに死んだイングランド。決勝は先制に勝負を賭けるクロアチア……。

クロアチア対イングランド(2-1)、イングランドの敗因は先制してカウンターのチャンスが何度かありながら、止めをさせなかった点に尽きるだろう。クロアチアが混乱していた前半、2点目を追加していれば試合は終わっていた。

リードしたイングランドは予想通り引いてカウンターの機会をうかがう作戦に出た。だが、それはロングボールを放り込むアバウトなものばかりだった。中盤を省略してケインの頭に当ててスターリングを走らせる。あるいはサイドのスペースに飛び出したスターリングに直接ボールを入れる、というやり方は、成功すると決定的なチャンスになる。だが、成功率が低い。

ケインは頭でボールをすらすことはできるが、例えばクロアチアのマンジュキッチのように単独でボールを収めることはできないから、結局は最終的な収めどころはスターリングだけということになる。

彼がボールを持てばスピードで突破するか、2列目のリンガードやデレ・アリとコンビネーションをするかして、CKやFKをもらって得意の空中戦に持ち込めるし、ボールを失わなくて済む。ボールキープは得点には直接繋がらないが、相手を走らせ仲間に一息つかせるために欠かせない。

3バックなのにGKから繋いで行けない

イングランドはGKの足技が安定しており、遠慮なくバックパスを出せるから、本来ボールを持てるチームだ。

だが、彼らはあまりに空中戦に自信があるためか、それとも3バックの守りに自信が持てないためなのか、バックパス後はドカンと蹴ってしまう。カウンターを狙うのもドカン、キープ後もドカンでは、効率が悪くゲームを落ち着かせることはできない。前半は終始クロアチアにボールを持たせても危険がなかったが、後半は反撃を喰うことになった。

特にもったいなかったのが、GKからのボール出し時に構造的に数的有利である3バックでありながら、長く蹴ってしまっていたこと。

DFにプレスを掛けるのは体力を消耗するから、3バックの真ん中、ストーンズは前を向いてボールを持てていた。

4バックならこの位置にボランチが下がって来る必要があるが、3バックならその必要はない。ストーンズが1列前のヘンダーソンあるいはサイドのトリッピアーかヤングにボールを渡せば、ボール出しは終了だ。ところが、もうここで長く蹴ってしまう。

ロングボールが消した4人の存在感

ヘンダーソンはマークされているし、サイドの2人はそもそもボールをもらいに来ないだけでなく、逆に前へランを始めたりしてロングボールを誘う。チームとしてDFからMFを経由して前線に繋ぐパターンが確立していないのだ。

だから、リンガード、デレ・アリ、トリッピアー、ヤングの登場回数(ボールタッチ数)がやたら少ない。目立つのはGKと3バックとスターリングとケインだけ。スターリングにボールが収まればリンガード、デレ・アリ、トリッピアー、ヤングは現れる。収まらないと彼ら4人は頭上を通り過ぎるロングパスを見ているだけ、あるいは守備をしているだけとなる。

テクニシャン4人の活躍の場が、攻撃時のセットプレーと守備限定というのはあまりにもったいない。

3バックでのボール出しにはベルギーというお手本がいる。

前日のフランス戦は4バックだったが、GKからのボール出し時にはやり慣れた3バックの形に変化していた。CBコンパニがボールを持つとデンベレが下がって来る(ただしデンベレはフランスに狙われボールロストを多発)、サイドのシャドリ(DFラインを離れて上がる)、アザール(前線からポジションを下げる)もパスを待ち構える。チーム全体に繋ぐ意識があった。

3バック対決と縦に並ぶトリックプレー

繋ぎによる崩しとロングボールによる崩しをベルギーは状況によって使い分けていたわけだが、イングランドはあまりに一辺倒だった。

後ろから繋ぐことはリスクがある。だがリスクを負うからこそより確実で決定的なチャンスが得られる。ロングボールは安全だが効率が悪い。

ベルギー対イングランドの3、4位決定戦は3バック同士の対戦になるから、攻守の考え方の違いがはっきりわかるだろう。伝統的に[4-4-2]のイングランドに3バック導入というサウスゲイト監督のプランは野心的だがチームも若いし、成熟度はマルティネス監督の3バックの方が明らかに上だ。

イングランドの空中戦は見るべきものがあった。

クロアチア戦のゴールを含めて12得点中9得点がセットプレー絡み。5人が縦に並んでボールが出たら左右に散る、まるでアメリカンフットボールのフォーメーションのようなトリックプレーは、わかっていてもクロアチアは止められていなかった。

セットプレーの守備はゾーンマークとマンマークのミックスが一般的だが、縦に並ばれて壁を作られるとマンマークができない。たとえ密着していたとしても逆側(壁の向こう側)に走られると壁に阻まれて追い掛けて行けない。いわゆるスクリーンプレーである。

セットプレーの絶対的なキーマンは、ほとんどのボールでファーストタッチ者となるマグワイヤで、どのチームもそれがわかっていてもこのトリックのせいでマークを見失っていた。

イングランドが実証したように効果抜群で対策もできない。これぜひ子供にやらせてみたい。

誰でも考える順当予想で恐縮です

さて、フランス対クロアチアとなった決勝の予想を最後に。

誰でも思うようにフランス有利だろう。クロアチアは休日が1日少ない上に、3戦連続で延長戦を経験している。マンジュキッチ、ブルサリコは足を引きずってもいた。プレーの内容の点でもそうだ。フランスには隙がない。

ポグバ、カンテ、マテュイディで構成する中盤、バランとウムティティとGKロリスのセンターラインは絶対的に堅い。空中戦に強く、カウンターのスイッチを入れる選手がポストプレーのジルー、スピードのエムバペ、中央突破のポグバと3人いて、彼らへのラストパスの供給元とフィニッシャーとしてグリーズマンもいる。準決勝ベルギー戦のように先制されカウンター狙いで守備を固められると、ちょっと歯が立ちそうもない。

クロアチアは昨日の試合まで鳴かず飛ばずのペリシッチが復活したのが朗報だが、攻撃のオプションが少ない――クラマリッチとブロゾリッチを入れ替えるだけ――。サプライズを起こすには先制し、フランスをリードされるというほぼ未知の状況に追い込むしかないように思う。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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