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JA系スーパーが消える~地方で拡大する買い物難民の危機

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
いま、JA系スーパーが次々と閉店している。(画像・筆者撮影)

・鳥取県内のJA系スーパー閉店の衝撃

 2023年9月30日、鳥取県内でJA系食品スーパーである「トスク」7店舗全てが閉店した。

 「トスク」は、JA鳥取いなばが運営し、50年以上の歴史を持つ。1968年に「鳥取生活センター」として鳥取市に、屋上遊園地や結婚式場などを持つ複合商業施設として開業し、その後、食品スーパーとして店舗を拡大してきた。

 しかし、食品スーパーやドラッグストアなどとの競合の激化、本店の建物は50年以上経過し、老朽化していることなどもあり、JA鳥取いなばの経営改善の一環で、「トスク」全店の閉店が決まった。

 「トスク」は、主に鳥取県東部地域に展開しており、地域に与えた衝撃は小さくはない。一部店舗は引き受け手が決まったが、そうではない店舗も多く、買い物難民の発生が懸念されている。

・道の駅の運営にも支障が

 同じ日、9月30日、鳥取県三朝町のJA鳥取中央直売所「楽市楽座」が閉店した。「道の駅三朝・楽市楽座」の物品販売棟が閉鎖となった。

 三朝町によれば、鳥取自動車道などが開通し、道の駅の立地する国道179号の通行量が減少したことやコロナ禍による赤字が重荷となり、JA鳥取中央が撤退した。そのため、国土交通省が定める道の駅の登録要件である地域連携機能が満たされなくなる。JAの直販所が閉店することで、道の駅の存続にも影響が出ている。

 地方部では、道の駅が地域の生鮮食料品の供給元としての機能を果たしており、その経営を地元JAなどが担っているケースが多い。「実際には、赤字か、それに近い経営状態のところが多いのではないか。JAの経営が悪化してきており、赤字を吸収できなくなれば、自治体からの支援がなければ継続が難しいところは少なくないはずだ」と、東北地方の自治体職員は指摘する。

・岐阜でも「赤字経営は当初から」

 JAひだは、高山市、飛騨氏、下呂市にある直営スーパー「Aコープ」全10店舗を2025年2月に閉店すると11月16日の会見で発表した。白川村の1店のみは継続する予定だ。

 会見では、スーパー事業は、1995年にJAひだが設立と同時に開始され、一時は44店舗まで増えたが、事業収支は当初から赤字が続いてきた。さらに地域の人口減少や高齢化などの影響や、コロナ禍の影響もあって、2005年度には約46億

8千万円だった売上は、2022年度にはほぼ半分の約20億2千万円にまで落ち込んでいた。

 JAひだは、累積赤字が12億円を超し、これまでこの赤字を補填してきた信用共済事業などの利益が低下してきているために、地域の生活を支えるためとはいえ、直営スーパーを赤字のまま放置するわけにはいかなくなったのだ。

2022年度末の農協数は、563農協で、複数の市町村を区域とする広域合併が相当程度進展している。
2022年度末の農協数は、563農協で、複数の市町村を区域とする広域合併が相当程度進展している。

 ・厳しさが続くJAの経営状況

 JA(農協)は、複数の市町村の区域とする広域合併が進み、その数はこの20年で半減している。組合員数は、依然として1000万人を超しているもの、その中身を見ると准組合員が正組合員を上回っている状況で、存在意義が問われる状況になっている。

 一方、JA職員は、1993年のピーク時に30万人を超していたが、現在は約18万人にまで減少しており、収益の柱となる信用共済事業の展開にも影響が出ているといわれている。

 さらに、JAの農畜産物販売事業の取扱高(全体)は。1990事業年度の6.6兆円をピークに減少傾向にあり、農業総産出額に占める総合農協の取扱高は、50%を切っている。また、農薬や配合飼料といった農家に販売する品目も、農家数の減少と、より安い価格での購入をホームセンターなどで行う農家が増えていることもあり、取扱高(全体)は1984事業年度の3.4兆円をピークに減少傾向が続いている。こうしたJAの経営難が、次第に不採算部門であったスーパー事業の運営を困難にし、さらにコロナ禍が追い打ちをかけた形になっている。

農協の農畜産物販売事業の取扱高(全体)は1990事業年度の6.6兆円をピークに減少傾向
農協の農畜産物販売事業の取扱高(全体)は1990事業年度の6.6兆円をピークに減少傾向

・今後、問題は各地で

 JAの経営難から、不採算部門である食品スーパーや産直部門の廃止は、今後、各地で起こると予想される。

 北海道でも、昨年(2022年)以降、各地でJAが運営するAコープや、ホクレン農業協同組合連合会が運営するエーコープの閉店が相次いでいる。

 大手スーパーやドラッグストアとの価格競争に加えて、コロナ禍以降の人件費や各種コストの高騰などから、赤字幅が拡大し、JAでは負担できなくなっているというのが現状だろう。これまで赤字経営が続いていた店舗だけに、JAが撤退した後を後継するスーパーが見つかりにくいという点も深刻だ。

 地方部でも、若い世代は多少遠くても、自家用車で大型商業施設に買い物に行ってしまう。価格や品ぞろえも充実しているからだ。一方で、高齢者など生活弱者にとって、これまでJAの運営する地域密着型のスーパーは、生鮮食料品などを調達する重要な拠点であった。

 今後、こうしたJA系のスーパーの閉店が続いた場合、買い物難民の発生だけではなく、道の駅の運営など観光施設の運営にも支障を来たす可能性も大きい。自治体としては、どこまで介入するかは悩ましいところではあるが、起こりうる事態だと考えて、対策を検討しておいても間違いではないだろう。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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