政治家の「学歴詐称」に気を付けろ~ミャンマー次期閣僚「ニセ博士」事件
ディプロマミルから博士号
昨年の選挙を受けて、ミャンマーで新政権への準備が進んでいる。今月末の内閣発足にむけて、次期大統領や閣僚が選出された。
ところが…
チョー・ウィン氏が博士号を得たのは「ブルックリン・パーク大学」。これが偽のオンライン大学だったというのだ。
この大学のホームページは既になくなっているのだが、そのアドレスが「http://www.brooklynparkuniversity.com/」。comドメインの大学というだけでかなり怪しさを感じる。
チョー・ウィン氏は閣僚就任を辞退しない意向だが、新政権発足にケチがついた形だ。
博士論文不正にゆれるドイツ
実は政治家の博士号に関する問題は初めてではない。ドイツでは2011年と2013年、博士論文に不正があったとして閣僚が辞任しているのだ。
メルケル政権で経済・科学技術相と国防相を務めたが、バイロイト大学に提出した博士論文に盗用があったとして博士号を取り消され、2011年、閣僚を辞任した。
- アンネッテ・シャヴァーン氏
メルケル政権で教育相を務めたが、デュッセルドルフ大学に提出した博士論文に盗用が見つかったとして、博士号を取り消され、2013年、閣僚を辞任した。
そして今、ドイツは新しい博士論文不正疑惑に揺れている。今度はフォンデアライエン国防相だ。
ドイツいったいどうなっているの?という感じだが、閣僚の博士論文事件が発生したのはドイツだけではない。
大統領が博士論文不正
なんとハンガリーでは、2012年大統領が博士論文不正事件で辞任している。当時の大統領シュミット氏は、博士論文に盗用がみつかり、博士号をはく奪されたことで辞任したのだ(論文盗用疑惑の大統領辞任=オルバン首相に打撃―ハンガリー、Hungarian president resigns over doctorate plagiarism scandal)。
こうして世界各地で博士号に関するスキャンダルが明らかになっている。厳密にいえば、ディプロマミルによるニセ博士と博士論文不正は異なるが、どちらも博士号を偽って得るということで共通項がある。
嘘をついてまで博士号を取得したいというのは、博士号にそれだけ社会的な信頼がある、ということの裏返しだ。博士号を持っているくらい専門性がある、ということで、それが政治家の信頼にもつながり、それをもとに投票する人がいるということだ。
日本は大丈夫?
さて、我々はミャンマー、ドイツ、ハンガリーの事件を対岸の火事として眺めていていいのだろうか。
日本では博士号に価値がないので、博士論文を偽ったり、ディプロマミルから博士号を得たりする政治家はいないようだが、政治家の経歴詐称事件はこれまでにも起きている。有名なのは、民主党の議員だった古賀潤一郎氏だ。ペパーダイン大学卒業やカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校留学という経歴が嘘だったことが明らかになっている。これは公職選挙法違反だ。
政治家の経歴詐称は、タレントの経歴詐称どころの騒ぎではない。一国を預かるという重責を担う者が嘘をつき、能力を偽ったのだ。嘘つきで能力のない者が国を率いる…これは国の存亡にも関わる重大な罪だといっても大げさではないだろう。
学位授与機関である大学は、政治家の圧力に負けず、毅然とした態度をとる必要があるだろう。
相手が政治家だろうが誰だろうが、内容だけを厳密に審査することが求められる。
結局、前に書いた記事の結論と同じなのだが、私たちが博士号やらなんやらに惑わされないことが重要なのだ。