今だから、告白します。予期せぬ衝撃の肉的堕落に直面する祝福2世。親にもいえない苦悩と恐怖を抱えて。
「高校時代までは私は熱心な信者で、統一教会の教えを実践して、修練会に参加して模擬伝道をしたこともあります。男子からラブレターらしき手紙を受け取った時も、中身も読まずに、目の前でビリビリと破きました」
教団では自由恋愛は禁止ですので、石田さん(20代女性・仮名)は10代までは、頑なに教えを守り信仰生活を送ってました。しかし数々の出来事に見舞われて、数年前に教会を離れました。
最初に断っておきますが、彼女の体験は衝撃的過ぎて、一瞬記事にしてよいものかを迷いました。というのも、教団側からの心無いアクションがある可能性が考えられたからです。しかし彼女の勇気ある告白は、宗教2世の実態として世に問うべきものとの思いから、筆を取りました。
※肉的堕落とは、旧統一教会の特殊用語で、神様(教団)の許可しない状況で、男女が性的な関係を結んで罪を犯すこと。
互いに好き同士ではない親のもとに生まれて
文鮮明教祖によって結びつけられた信者同士の家庭に、祝福2世として石田さんは生まれます。
「小さい頃、両親に『お互いに好きなの?』と聞いたところ、二人からものすごい形相をされました。子供心にそれは聞いてはいけないことなんだと思いました。両親の仲は悪かったですね」と石田さんは話します。
1980年代~90年代の合同結婚式(祝福)では、教祖によって決められた相手は、誰であっても、受け入れなければなりませんでした。相手のことが気に入らなくても、別れられません。教義上、祝福を破棄すれば地獄に行くと教えられているからです。彼女はその現実を幼少期から見ていました。
両親とも献身(出家)して活動するほどの熱心な信者でしたが、父は祝福後、離教します。一方で、母は信仰を続けます。
「父は『勝手にすれば』という黙認の状況で、母は教会に通っていました」
石田さんは母親の側について、子供の頃から教会に通い、教義を学びます。
「『異性と遊ぶのは小学校の頃からダメだ』と教えられていて、低学年の頃には、ビデオで、アダムとエバの堕落は姦淫によるもの(神様の願わない時に性的関係を結んだことによるもの)と、教えられました。母は離教した父を見下していましたが、私も母と同じように父を見ていました」
祝福2世は、原罪のない神の子としての位置づけです。
それだけに母親は石田さんに大きな期待を寄せています。しかし彼女にはそれがプレッシャーでした。
「母は、私が神の子なので、霊が見えていると勘違いしたようで『おばけ(霊)がみえるの?』とよく聞かれました。私は霊などはみえません。それに成績がずば抜けて良いわけでもなく、秀でているものもありません。ごく普通です。教団は『神の子とは他の人と違って特別だ』といいますが、どう特別なのだろうかと思う日々でした」
しかし親の期待には応えなければならないという思いのなか、彼女は真面目に信仰を続けます。
しかし彼女は学生時代に、教団幹部の横領事件を耳にして不信感をもちます。そうしたなかで、文鮮明教祖が病気で亡くなります。再臨のメシヤのあっけない最期に「大したことないな」と思ったといいます。メシヤの死も教団への不信感を高めるきっかけの一つになりました。
「神様のために、お金を出しなさい!」と、しつこくいわれて
彼女に大きな転機が訪れたのは、大学に通っている時でした。
「将来ヘの不安がある中、アルバイトでお金を一生懸命に貯めていました。ところが、貯金の存在を知ったアベル(神に近い立場の信徒)から『神様のために、お金を出しなさい!』と、しつこくいわれて『いらっ』として教会への足が遠のきました」
その少し前にも次のようなことがあったと石田さんは話します。
彼女にある深刻な病気が見つかります。
「これは一生、治らない病気です」と医者からいわれて、愕然とします。
そんななかで母親は、あなたの入院の世話をしてあげたんだから、今度は自分の老後の生活をみてくれというような話ばかりをしてきます。
これに対して彼女は「それは、今いうことなの!?」という憤りがこみ上げてきました。
「今、一生つきあっていかなければならない病気が見つかり、大変な気持ちになっている私のことをまったく思いやらない母の言葉に、完全に心が折れました。実は母からは、これまでもこうした私の気持ちを無視した言葉を数々受け続けてきて我慢していましたが、もう限界でした」
彼女は今まで一緒に信仰を続けてきた母との決別を決意します。
貞操は命より重いという教え
彼女の不幸はさらに続きます。
夜、自宅までの帰り道に彼女は、男に首を絞められて、意識が朦朧とするなかで、突然に性犯罪に遭ってしまったのです。男が逃げ去るなかで「性的に堕落してしまった。どうしよう」と彼女の心には戦慄が走ります。
原罪のない祝福2世が、神様の許可を得ていない時に性交渉を持つことで、サタンより下の立場に落ちる(再び堕落する)と教えられています。これには、救いの道はないといわれます。(ただし今は、こうした祝福2世にも恩赦の道はあるそうです)
文鮮明教祖のみ言葉には、次のようなものがあります。
「どのような男性でも、私たち統一教会の女性を思い通りにすることはできないのです。危急の時には、みんな命を絶つか、刃物で相手の腹を突き刺して殺すか、二つのうち一つをとるのです。わかりますか。貞操は命より重いのです」(真のお父様の御言、文鮮明1989「祝福と理想家庭」・「祝福家庭と理想天国(Ⅰ)」より)
入手した同じ資料の「統一倫理学講座」の一節にも、次のような解説がなされています。
「強姦の危機に直面した時には、女性は身を汚されないように、貞節をまもるために自害することも許されているということであり、強姦される前であれば、一つの選択として許されている」(原文)
教団では純潔を失うことは、とても罪深い行為だとされています。
誰にも相談できないまま、今日まで
こんなひどい目に遭ったことを、人の心を思いやれないような母親にはとても話せません。もし警察に行けば、母親にも知られて、教会中に知られてしまうことにもなります。結局、誰にも相談できないまま、彼女は数年間、一人で悩みを抱え、今日に至っています。
しかも、教団ではこうした事件が自分の身に降りかかると「自分の心にサタンのつけ入る隙があったから、侵入された」などと教えられています。
彼女も幼い頃からそうした信仰を教えられており、より苦しみました。
「自分に悪い部分があったから、こうしたことが起こってしまった。地獄にいくことの恐怖心は強かったので、先祖、そしてこれから生まれる子孫すべてを巻きこんで、不幸を背負わせてしまうことになった」
幼い頃から真面目な信仰をしてきた彼女ゆえに、長く苦悶する日々を送ります。
彼女の心を救ったのは、ネットに溢れる教団への批判の書き込み
しかし彼女の心を救ったのは、ネット上に溢れる、教団への批判の書き込みでした。
彼女は答えをもとめて、旧統一教会への賛否両論の様々な情報に接していきます。
「ブログなどを見るなかで、教祖の家庭は、神の家庭でありながら、分派をするなど崩壊していた実態がよくわかりました。これまで長年、教団や教義に対してもっていた疑問や矛盾に対する答えがそこにはありました」
特に、ある方の言葉が印象的だったと話します。
「『もし自分がすでに亡くなった先祖だったら、堕落した人間だと嘆いて、苦しんでいる子孫を見るよりも、生きることに幸せを感じて笑顔で暮らしてくれている子孫を見ていた方が嬉しいと思う』それを見て、確かに、そうだと思いました。今、自分は地獄のような気持ちで生活をしている。もしこれを先祖が見ているとすれば、逆に悲しませることなる。前を向いて、自分なりに幸せになる道を歩むことこそが、周りの人たちを幸せにすることにもつながる。こうした一人一人の言葉が、私の目を覚まさせてくれました」
時間はかかりましたが、彼女はきっぱりと教団から離れました。
模範的宗教2世ゆえ、何でも自分のせいと思ってきた、子供時代
「今になって思うのは、小さい頃から『自分のせい』『自分が悪い』と自己否定してきた人生でした。たとえば、親が不機嫌なのを見れば、自分のせいでそうなった。友達と喧嘩すれば、自分が100%悪いと思ってしまう。親や周りの顔色ばかりをうかがいながら、自分の心を押し込めて生きてきたように思います」
自分自身を攻撃しながらの人生は本当に辛かったようです。
「私は神の子として、周りに迷惑をかけたくない。でも、実際には迷惑をかける自分がいる。もう、この世から消えてなくなりたい。教義を信じれば信じるほど『死んでしまいたい』という気持ちになっていました」
模範的な祝福2世として生きているゆえに、そんな苦しみを抱える子たちもいます。
最後に石田さんは「宗教2世は相談するところがないことを感じました。私も事件後に、大学のカウンセラーや、ネットでの相談をしたこともありますが『宗教のことはよくわからない』といわれて、結局、誰にも深い話はできませんでした」と話します。
性犯罪の被害を聞いた時には、筆者は言葉を失いました。元信者としての経験から、彼女が抱いただろう恐怖感や苦しみが痛いほど伝わってきたからです。しかし、よくぞそれを乗り越えて新たな一歩を踏み出して、過去の出来事を公に告白してくれました。そのことに対して、本当に感謝の思いしかありません。
「同じような苦しみを抱えている人は他にもいるかもしれません。そうした人たちが声をあげやすい社会になってほしい」
彼女のあげた声は、間違いなくこれからの宗教2世の問題解決の一助になると信じています。