「生き地獄」原告の叫び メタ社への4億3千万円超の一斉提訴 なぜ有名人をかたる虚偽広告が出てきたのか
メタ社が運営するFacebookやInstagramに著名人をかたるニセ広告が出てきて、そこから詐欺の投資サイトに誘導されて被害に遭うケースが続出しています。
すでにメタ社と同社の日本法人に対して、原告4人が第一次の訴訟を提起していますが、10月29日、関東・関西の5つの地方裁判所に原告30人が一斉に第二次の提訴を行いました。提訴は第三次以降も続く様相ですので、被害の発端を作ったメタ社の責任について司法がどのような判断をするのか、目が離せない状況です。
SNS型投資詐欺の被害件数は4639件、被害額は約641億4千万円
近年、SNS型投資詐欺による被害は甚大になっています。
警察庁が発表する令和5年1月から令和6年8月までの被害件数は4639件で、被害額は約641億4千万円に上っています。
500万円以下の被害では男性1225人、女性1002人、1千万円以下の場合でも男性447人、女性362人となっており、やや男性が多い傾向にあります。ただし2000万円以上の被害では男女の差はなくなり、1億円以上の被害に至っては、男性33人、女性36人と女性の方が多い状況です。
いずれにしても、これだけの被害が出ているわけですから、日本は詐欺グループの狩場となっており、このまま放置しておいてよいはずがありません。
令和6年6月11日までメールアドレスのみで広告の出稿が可能だったとの指摘
埼玉地裁に30代から50代の男女6名の原告らが約5768万円の提訴をしています。提訴した代理人らの広告被害対策弁護団(井上光昭弁護団長)は会見を行い「メタ社は遅くとも令和4年4月以降、国内外において政府機関や氏名肖像を冒用された有名人本人からの通報、削除要請などを受けていたにもかかわらず、虚偽広告を防止するための実効性ある対応を行うことなく、本件SNSでは最近も虚偽広告が多数配信されている状況であり、問題を認識しながら放置しているといわざるを得ない」としています。
訴状のなかで「注意義務違反」に触れており「メタ社は令和6年6月11日までメールアドレスのみで広告の出稿が可能であり、本人確認を行っていないことは明らかである」としています。これが事実ならば、虚偽広告だと判別する審査がほとんどなされないまま掲出されていたこととなり、詐欺行為をもくろむものたちにとって、同社のSNSが使い勝手のよいツールになっていた可能性がみえてきています。
「幇助(ほうじょ)」という詐欺を助長、促進したことをメインに訴えている
宮野大翔弁護士は他の弁護団の提訴とは違う点について「埼玉では『幇助』という詐欺を助長、促進したことをメインに訴えている」と述べます。
「幇助とは、不法行為の補助的行為をなすことであり、直接の違法行為の実行を補助し容易ならしめる行為」としています。
弁護団の資料では「メタ社が虚偽広告を『垂れ流し』ていることは、詐欺の格好のツールを提供しているのであり、詐欺行為を助長、促進する『幇助』にあたる」「メタ社は、虚偽広告の配信による、詐欺の犯人から多額の広告売上を得ている関係にあり、詐欺行為に対し何らの措置もとらないことが許される立場ではない」と指摘しています。
埼玉地裁に提訴した原告のなかには、詐欺の投資サイトに誘導される虚偽広告をみたのが2023年6、7月という方もいますが、まさにこの頃から、有名人などをかたるといった詐欺の投資サイトに誘導する虚偽広告が出始めたと考えられています。なぜ、この種の広告が出てくるようになったのでしょうか。
偽の通販サイトに誘導する虚偽広告の存在から発展した
詐欺の投資サイトに誘導する虚偽広告が出る数年前から、偽の通販サイトに誘導されて、お金やクレジットカード情報をだまし取られる被害が深刻で消費者庁、国民生活センターなどから注意喚起されています。その多くがSNS上の広告がきっかけで被害に遭う方で、これまで記事にもしてきました。
詐欺はサンタとともにやってくる!? 続々出現中 自転車販売の偽サイトにアクセスして危険をお知らせ(Yahoo!ニュース エキスパート 多田文明)
高島屋をかたる偽サイトに要注意!SNS広告をクリックすると、カード情報詐取ではない意外な手口が!?(Yahoo!ニュース エキスパート 多田文明)
いずれもメタ社が運営するInstagram やFacebookといったSNSの広告から偽の通販サイトに誘導されるようになっていました。その延長線上に、より多くのお金をだまし取る手段の一つとして、有名人などをかたる虚偽広告が数多く出てきたと考えています。
もし大きな被害を出している偽通販サイトへ誘導する虚偽広告に対して、危機感をもって厳しい審査態勢を整えていれば、有名人になりすますなどの虚偽広告はでてこず、多くの人の人生を狂わせるような甚大な被害は起きなかったはずです。
一方で、被害が大きくなるまでこの状況を放置し続け、SNSの広告規制に対して何らの対応もしてこなかった国の姿勢も問われることになります。
虚偽広告を規制する法律なし 法規制の議論の必要性を訴える
宮野弁護士は「プラットフォーム事業者は、提供しているプラットフォーム内で詐欺や違法な行為があったとしても基本的には責任を負わないというスタンスをこれまで取ってきました。そのことを直接的に規制する法律がないからです。つまり、これはプラットフォーム上で『何があっても責任は取りません』ということが許されているということです。これを許さないように、しっかりした法規制をする議論も起こしていきたい」とも話します。
その通りだと思います。最近も、メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手の写真を悪用したと思われる虚偽広告を目にしていますので、今も誰かが、だまされている恐れがあります。早急に歯止めをかける必要があります。
「生き地獄です」と原告の叫び
今回の第二次提訴の賠償金額の総額は、4億3千万円を超えています。
1000万円を超える被害に遭い、原告になっている男性は、次のように話します。
「賠償請求金額が平均で1500万円と異常な金額であり、これを野放しにしていけないと考えてます。ここで正さないと、今後のSNSプラットフォームは無法地帯になります。裁判で勝って、法改正を現代にあったものにして、安全なSNSプラットフォームを提供できる企業に生まれ変わってもらいたい。被害者は今も苦しい生活を強いられてます。生き地獄です」
生活が困窮して苦しむ状況のなかでも、今後も起こるかもしれない被害を憂いながら、原告らは必死な思いで声を上げています。被害者のなかには、貯金すべてを奪われて、借金まで背負って人生が狂わせられた方もいます。SNS上の虚偽広告を通じて、どれほど多くの日本人が被害を受けたことでしょうか。こうした状況を今後も続けられることが、絶対にあってはなりません。
多くの人がメタ社のSNSを利用しています。それゆえに、裁判において詐欺被害を生み出した責任の所在をはっきりさせるとともに、一刻も早いプラットフォーム側のSNSの広告規制についての議論が求められます。