飲食店激減が街を壊す~新たな取り組みに支援を
・飲食業の苦境が続く
帝国データバンクは、7月3日16時時点でCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響を受けた倒産件数が、全国で311件に上ったとを発表した。業種別ではレストランなどの飲食店が最多となった。
一方、東京商工リサーチの発表によれば、2020年6月度の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、件数が780件(前年同月比6.2%増)、負債総額が1,288億1,600万円(同48.1%増)となった。
「自粛緩和で、営業を再開したが、来店客数は少ないまま。まとまった人数の宴会などは、全くない状態。」大阪市内の飲食店経営者はそう話す。「昼の営業や弁当の販売なども試みているが、夜の落ち込みをカバーするほどではない。感染者数が増加しつつあり、客の出足がさらに鈍るのかと心配している」
東京都内で飲食店を経営する女性は、「もともとから常連客が多く、営業再開を聞いて、それなりにお客様は戻ってきた」と言う。しかし、「連日のように感染者数が増加し、夜の街が問題だと報道されれば、また客足が鈍るだろう」と懸念する。「うちのように常連客が多い店は、客層の年齢が高く、また感染者が増えれば外食を控えてしまう。」
話を聞いた飲食店経営者は、「次に緊急事態宣言が出れば、個人経営の飲食店の多くが廃業せざるを得なくなる」と言う。そんな苦境の中で、多くの経営者が期待するのがテイクアウトと宅配だが、これらもそう簡単なことではない。
・宅配の増加
「こんなに利用者がいるのかと思うほど、多くの注文があった」と話すのは、5月に都内でウーバーイーツのアルバイトをした男子大学生だ。「多くは家族での食事ですが、タピオカドリンクを一つなんていう注文もありました。トラブルばかりが報道されますけれど、それは一部で、利用している年齢層も若い人だけじゃなくなってますよ」と言う。
一方、京都と札幌の市内中心部だけだが、タクシーが料理の宅配を行っている。サービスを提供しているのはMKタクシーで、「飲食店応援デリバリー」と名付け、4月末からサービスを開始した。たまたま京都市内で乗車したMKタクシーの運転手は、「ウーバーとは違っているのは、運転手が一切手を触れないことです」と言う。飲食店は客から注文を受けると、MKタクシーを呼び、調理して、包装した料理をタクシーに積み込む。積み込む作業も飲食店側が行う。そして、タクシーが客先に到着したら、客が自らタクシーから取り出す。衛生面でも、手を触れる人間が減る方が安心である。配送料は、開始から6月末までは110円、7月1日からは一回500円だ。「飲食店の方にも気軽に使えると言われました。もちろん、運転手の売上げは下がってしまいますが、その分は、会社がカバーしてくれますので、運転手の負担はありません。」
こうした料理の宅配では、ネット経由での注文、支払いが行われるために、配送先の確認、代金の受け渡しなどをしなくてよくなっている。こうした便利さが、今回の件で周知されることになった。今回の新型コロナウイルス感染拡大で、料理の宅配が定着したのは間違いない。
・究極は無店舗飲食業?
感染拡大が止まらないアメリカやイギリスでは、飲食業での宅配が急増し、複数の大手ファストフードの調理を受託するサービスが拡がっている。クラウドキッチンとか、ダークキッチン、ゴーストキッチンと呼ばれる仕組みで、製造業でいうところのファブレスとかOEM(相手先ブランド名製造)に似ている。
飲食業者は、宅配を拡大するためには調理と配送を行う店舗の増設が必要になる。しかし、現実にはそれは難しい。そこで、複数の飲食業者の調理と配送を代行するサービスが急増しているのだ。
このシステムでは、飲食業者にも客にもメリットがある。飲食業者は、初期投資を削減し、調理拠点を得ることができる。一方、利用客は宅配サービスを短時間で利用できる上に、異なった飲食業者の料理を一度に注文でき、受ける取ることができるのだ。
さらにアメリカやイギリスでは、来店客が減少してしまった実店舗を閉め、こうした調理、配送サービスを利用する個人経営の飲食店も現れている。新型コロナウイルスの流行が、今後、波状的に発生し、実店舗での集客がますます難しくなるという判断のもとで、ウエブ上に飲食店を継続させる一つの手法である。もちろん、料理はリアルに配達される。すでに、アメリカやイギリスでは、住宅地の中に調理専用の建物が造られ、自転車やオートバイによる配送が始まって、近隣の住民とトラブルが起こるといったことが起こるほどになっている。
もちろん、これが日本でもそのまま受け入れられるかどうかは、様々な問題がある。「個人店では難しい。調理を委託する段階で、調理のノウハウなどを明らかにしなくてはいけないし、それに抵抗のある料理人は多いだろう。それに日本の場合、季節に応じて材料や調理法を変えるなどしており、アメリカやイギリスと同じようにできるだろうか」と、京都で飲食店を経営する男性は言う。さらに続けて、「日本では外食できないなら、スーパーででもちょっと良いものを買ってきて、調理して食べようと言う人が多い」とも言う。しかし、実店舗を最小限にし、テイクアウトと宅配を中心に据えるビジネスモデルは、日本でも今後、増加する可能がある。
・テイクアウトと宅配は定着するか
クラウドキッチンとか、ダークキッチン、ゴーストキッチンと呼ばれる仕組みが急速に発展している欧米に比較すると、日本の飲食業界の変化は大きくなっているようには見えない。しかし、テイクアウトと宅配の定着は進みつつある。
株式会社TableCheckが6月26日に発表した「VSコロナ時代の飲食業界ニューノーマル意識調査」によると、営業自粛中に新たにはじめたサービスは「テイクアウト」が37.9%で最も多く、次に「デリバリー」が17.4%と続いている。デリバリーに関しては、「デリバリー手段の手配や配達サービスの有無や利用料の高さなどの様々なハードルが考えられる」と分析している。また、新たにはじめたサービスの今後の継続意向については、64.9%の人が継続予定と回答し、その理由としては「新規顧客開拓」や「新たなビジネスの可能性」などとしている。
一方で、この調査では全国から注文を受け付けられる「EC(通販)」をはじめたと回答した人は、わずか5.4%しかなかった。通販を行う場合は、別の販売許可や商品開発が必要となるためだと思われる。
利用者側でも、株式会社ぐるなびが7月7日に発表した「オンラインによる食体験の利用動向調査」では、新型コロナウイルス感染拡大以降、オンラインで利用した食体験で最も多かったのは「テイクアウトやデリバリーの注文」(28.8%)、「お取り寄せ」(19.5%)、「友人や同僚とのオンライン飲み会」(16.2%)であり、今後の利用意向は「テイクアウトやデリバリーの注文」(38.0%)、「お取り寄せ」(36.2%)と4割近くが利用したと回答している。
・経営者にチャンスを与える支援策を
給付金や家賃支援給付金でなんとかしのいで、外出自粛後の客足がどうなるか様子見をしている経営者が多い。「ソーシャルディスタンスのために席数を減らしており、客単価を上げないといけない状況。このままなら、気が付いたら、街の飲食店の大半がチェーン店になるというのも冗談ではなくなる」と東京都内で飲食店を経営する男性は言う。続けて次のように言う。「大幅な規制緩和や新たな取り組みへの助成など、この状態が継続することを前提にした支援制度を拡充して欲しい。」
例えば、国土交通省はテイクアウトやテラス営業などのための道路占用の許可基準の緩和を期間限定で行っているが、地方公共団体又は関係団体による一括占用でないと申請できない。商店街組合などが活動している地域ならば良いが、それ以外だとハードルが高い。
・商店街や街の活気を失い、街並みそのものを壊す
6月の倒産、廃業件数は増加傾向にあるものの、まだこれから一段と悪化するという見方が多い。「裁判所の処理が遅れていることや、給付金などで一時的に倒産や廃業がまだ表面化していない。」東京都内の弁護士はそう話す。また、自主廃業に関しては、その実態が掴めない。しかし、実際には、5月以降、相当数に上っているとみられ、「休業」からそのまま「廃業」になっているケースがかなりあるとみられる。
東京や大阪の感染者数は再び増加しつつある。飲食店を取り巻く環境は、深刻さは増している。このまま、放置すれば、多くの飲食店が廃業し、商店街や街の活気を失い、街並みそのものを壊す可能性が高い。とりあえずテイクアウトでも、宅配でも、テラス席でも、共同事業でも、やる気があり、困難な状態でも前向きに取り組もうとしている中小企業や個人商店の経営者にチャンスを与える支援策と規制緩和を採るべきだ。