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「常にチャレンジャーでいたい」 〜荒川仁人 WBC世界ライト級挑戦者決定戦直前インタヴュー

杉浦大介スポーツライター

Photo By Danny Foxx

3月8日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ

WBC世界ライト級挑戦者決定戦

ホルヘ・リナレス(帝拳/35勝(23KO)3敗)

荒川仁人(八王子中屋/24勝(16KO)3敗1分)

強い選手に勝ってこそ意味がある

ーー過去にメキシコ、サンアントニオでビッグファイトをこなして来たけど、ラスベガスで行なわれる今回のリナレス戦前のプロモーション、イベントはこれまでで最大では?

荒川仁人(以下、NA):そうですね。ただ、それでもあまり緊張はないんですよ。どちらかと言えば楽しみという方が大きいかもしれません。集中はしているんですけど。

ーー海外で戦った過去2戦の経験が生きている?

NA:それもあると思います。海外でやるという意味で、確実にあると思いますね。

ーーここ4戦中3戦は海外での試合だけど、もちろん日本を出れば不利なことも多い。当初は抵抗感みたいなものはなかった?

NA:抵抗はなかったです。むしろ「舞台が1つ上がった」という考えでした。メキシコのときも、1つのチャレンジという感覚がありました。

ーーただ、国内での試合よりも負けるリスクは必然的に増えるわけだけど?

NA:(世界の)ベルトは相手のところに行って獲って来た方が価値が出ると思っています。日本は経済的に裕福な国なので、相手を呼べてしまう。そうやって獲るよりも、行って獲った方が良い。今は世界のベルトの数が多過ぎるじゃないですか。ベルト自体の価値が薄れている中で、価値を見出すためには外に出て行くことも必要だと思います。

ーー一部のファンは依然としてタイトルばかりにこだわり、例えば今回のような舞台の大きな試合の価値にまだ気付いてくれていない感じもある。

NA:タイトル自体に価値があるのではなく、強いものがチャンピオンであるべきです。強い選手に勝って獲ったタイトルにこそ意味がある。どうしても今は興行が優先になっていってしまってますけど、本来の形に戻していきたいですよね。もちろん本当のトップの人たちは強いもの同士で戦ってますけど、中には世界タイトル戦と言われても内容的に物足りない試合もありますから。

リナレスに勝つために

ーー今回の相手は実績も豊富な強敵だ。前に話を聴いたときは「テクニカルでスピーディな選手」と表現していたけど、そんなリナレスに勝つにはKOが必要だと思う?

NA:そう思います。少しリナレスのスタイルも変わって来てますけど、(イメージするのは)同じサウスポーのアントニオ・デマルコ戦ですね。あの試合でのリナレスは足を使って、(11ラウンドに)ストップ負けするまではずっとポイントを獲り続けてましたから。

ーー勝つならああいった展開かなとも思えるね。前半はポイントを奪われても、徐々に追い詰めて・・・・・・といった流れ。

NA:足は確実に使って来ると思うんですけど、ただリナレスはあの頃のように跳ねているようなスタイルではないと思うんですよ。足を使って、要所要所でパンチを合わせて来るんじゃないかなと。不用意に飛び込んでは強烈なパンチを合わされてしまう。ただ、行かなかったら行かないで手数を出されてしまう。簡単には自分の距離にはできないでしょう。それでもリナレスは以前にフレディ・ローチの指導を受けていた頃よりは足が止まるので、距離が詰まるときもあるはずです。(オマー・)フィゲロア戦での僕は根性で距離を積めていただけでしたから、あのやり方ではリナレスは崩せない。特に僕の左フックは警戒されているはずです。そう考えて、前の試合が終わって以降はスキルアップに励んで来ました。それを生かしていけると思います。

ーー楽な試合にはならないけど、付け入るスキはありそうだね。

NA:リナレスはタフな選手じゃないので、一発どこかで当たればそこから崩せる。そういった意味では、すべてのラウンド、すべての時間にチャンスがある。そのチャンスをいかに自分が感じ取って、掴み取れるかですね。

常にチャレンジャーでいたい

ーーもちろん今はとにかくリナレス戦に集中するべきだけど、この試合のあと、どんな方向に進みたいと思っている?

NA:世界タイトルに価値が薄れている現状だからこそ、強い選手と戦いたい。タイトルを獲ることで、自分を応援してくれる人たちへの恩返しになる。だからタイトルも欲しいですけど、それよりも常にチャレンジャーでいたい。こうやってチャンスをもらえるうちは、少しでも強い選手と戦っていきたいです。そのためには、明日には今日の自分より強い自分になっていかなければいけない。常に挑戦している姿を、応援してくれている人、ボクシングを好きな人たちに見せられるように務めていきたいです。

ーーとにかく強い選手と戦いたい。そういった考えはいつ頃から生まれるようになったのかな?

NA:ボクシングに興味を持ったのは、WOWOWのエキサイトマッチを見てからだったんです。そうやって夢を描いた場所に、今の自分はいる。当時は「あの人たちはいったい何をやっているんだろう?手しか使っていないのになんであんなことができるんだろう?」といった感覚でした。そういった強さへの憧れが、自分をボクシングに突き動かしてくれた原動力の1つでした。

ーー当時はどういった選手が好きだった?

NA:ちょうど(オスカー・)デラホーヤが出て来た頃で、あとは(フェリックス・)トリニダードとか。僕はトリニダードが凄い好きだったんです。僕のスタイルとは全然違うんですけど(笑)。それから(フリオ・セサール・)チャベスの晩年とか、(パーネル・)ウィテカーとか、さらに(フロイド・)メイウェザーも出て来て・・・・・・あの頃に見ていたメイウェザーが今だに第一線でやってるんですもんね。やってみればやってみるほど、信じられないことが多い世界。やればやるほど分かることもあるし、上に居続けることの大変さも分かって来ますね。

ーー憧れだったデラホーヤやメイウェザーの本拠地と言えるMGMグランドガーデンに自分も立つことになった。海外で力をみせて、大舞台に立つという荒川選手がやって来たことは、一部の熱狂的なボクシングファンが日本人選手にずっと望んでいたことだった。その願いを叶えてくれている。

NA:ファンあっての競技なので、ファンの目線を無視した路線を続けたら行き着く先は見えてしまう。もちろん興行ですから、お金が動くわけですし、ファンのニーズに100%応えるのはどうしても無理なのは分かっています。ただ選手としては、出来る限りファンの願いに応えていきたい。本来、競技者とは字の如く競うもので、ボクサーとはそうあるべき。その素晴らしさを伝えられる側にいるんで、僕も伝えて行きたいと思っています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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