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今年初の興収100億達成・映画「スラムダンク」盛り上がりの背景にあったもの

小新井涼アニメウォッチャー
劇場内ディスプレイ(筆者撮影)

昨年12月公開の映画「THE FIRST SLAM DUNK」が、今週ついに興行収入100億円を突破し、改めて注目を集めています。

公開と同時に反響が広がり、注目作が目白押しの中、週間映画ランキングでも8週連続首位に輝き、未だ新たに劇場に足を運ぶ人も後を絶たない本作。

これほどの盛り上がりが生まれた背景には、どんな要素があったのでしょうか。

■珍しい宣伝方法+最後のひと押し

本作の盛り上がりを語る上で真っ先に取り上げられることに、情報や本編映像を極力出さず、公開以降もあらすじを公表しないという、珍しいプロモーション方法があります。

正直この方針により、テレビアニメ版からのキャスト変更が公開前月に発表されたり、CGで作品の雰囲気も大きく変わる中、どんな物語が描かれるのかは一切分からなかったりと、公開前は内容を不安視する声やネガティブな反応も少なくありませんでした。

しかし、蓋を開けてみれば公開前の不安を吹き飛ばすほど大満足の内容に、ファンの熱量はゼロからどころかマイナスからプラスへ大きく転じ、公開前のネガティブなイメージをも一気に吹き飛ばして、爆発的な盛り上がりを生み出すこととなったのです。

この極力情報を明かさない宣伝方法と、実際に鑑賞した人が思わず周りに伝えたくなる程の本編内容との相乗効果が、本作のヒットの背景にあったことはまず間違いないでしょう。

しかしこの両者が相乗効果を生むためにはあとひとつ、原作「スラムダンク」の人気と、原作者であり本作監督の井上雄彦氏の存在も、最後のひと押しとして、欠かせなかったと思います。

いくら前情報での不安を覆せるほど本編が素晴らしいものであったとしても、人々が映画館に足を運んで、そのことを知ってもらえなければ意味がありません。

その点、公開前にどれだけ内容が不透明であっても、『大好きな「スラムダンク」だから』、『井上先生が手掛ける映画だから』と、確実に足を運んでくれるファンが一定数以上いた本作だからこそ、上記の宣伝方法や本編への評価との相乗効果も、しっかり功を奏したのだと思います。

実際に本作は、そうして最初は不安ながらも映画館に足を運んだ人々が、鑑賞した途端、次々と好意的な感想を発信したことで、それまでは鑑賞に消極的だった人や本作をあまり知らないという人にまでその評判が広がり、盛り上がりもより一層大きくなっていきました。

珍しい宣伝方法ということでフィーチャーされがちですが、このように鑑賞した人を納得させられるだけの本編があり、かつ確実に劇場に足を運んでくれる人が一定数以上いる本作だからこそヒットに繋がったとも考えられますので、同じ方法がどの作品でも有効かというと、同じくらいの前提がない限りは、なかなか難しいと思います。

■テレビアニメ版とは違うフィールドで

もうひとつ大きかったのは、本作がかつて制作されたテレビアニメ版の”リメイク”としてではなく、全く異なるフィールドで、新しい作品として作られていたことです。

原作と共に、かつて制作されたテレビアニメ版も根強い人気を誇るタイトルだけあり、本作でのCGを使った描写や新たなキャスト陣には、やはり公開前までネガティブな反応も少なくありませんでした。

しかしこちらも蓋を開けてみると、かつてのテレビアニメ版を今の技術と最新のキャストで制作しようとしているのではなく、テレビアニメ版とはまた違うフィールドで、別のゴールを目指して制作された作品であることがよく分かる内容となっており、当初本作に否定的だった人にも徐々に好意的に受け入れられていったのです。

テレビアニメ版が、あの時間帯に放送される30分のテレビシリーズという枠の中で、数年かけて「スラムダンク」を描いていくために最適な映像表現と声が採用されていたのと同様に、本作にも、2時間であの物語を描くために最適な映像表現と声が採用されたんだ、という確かな説得力があります。

もちろんみる人の好みはありますが、それぞれに優劣はありませんし、両者を比較することは極端な話『ラーメンとカレーどちらが美味しいか』くらい答えのないことだと思えるような方向性の作品なのです。

そのことも、公開前の人々の不安を払拭し、むやみに前作と競合することなく、新たなアニメ「THE FIRST SLAM DUNK」として、本作が多くの人に高く評価される一助になっていると思います。

人気作故の人々の不安や求められることへのハードルの高さを超え、他の作品ではなかなかないような盛り上がり方をみせた本作。

今回の興収100億突破を受けて、この週末にかけても更なる盛り上がりをみせることでしょう。

新たな注目作も次々公開されている中、本作がどこまで躍進をみせるのか、まだまだ目が離せそうにありません。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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