なぜバルサはヤマルに“大型契約”を準備しているのか?メッシの抜けた穴…出現した特別な存在。
アンストッパブルな存在に、なってきている。
今季、リーガエスパニョーラで開幕から好調なのがバルセロナだ。そして、そのバルセロナで攻撃を牽引するのがラミン・ヤマルである。
■欧州の舞台で躍動
ヤマルは今夏、ドイツで開催されたEURO2024にスペイン代表の選手として出場した。16歳でビッグトーナメントに臨んだヤング・アタッカーは、ニコ・ウィリアムス(アトレティック・クルブ)と共にラ・ロハの顔となった。
ヤマルはモロッコ人の父親と赤道ギニア人の母親を持つ。父が21歳、母が16歳の時にスペインで生まれた子供だ。バルセロナのマタローにあるロカフォンダという街の出身だが、ロカフォンダは移民の多い街である。街全体の32.8%が外国人だ。
ヤマル自身、スペイン、モロッコ、赤道ギニアと3カ国にルーツを持つ。それでも、ヤマルは生まれた場所に誇りを持っている。ゴールした際、両手を交差するパフォーマンスを披露するヤマルだが、その時に「304」の数字をつくる。それは出身地の郵便番号の下3桁の数字なのだ。
■カンテラと入寮
ヤマルは7歳でバルセロナのカンテラ(下部組織)に入団している。だが当初はバルセロナが奨学金の担保を約束してくれたものの、自宅から練習場や試合会場に通わなければならず、難しい時期を過ごした。「ほかの選手の両親が、試合の1時間前に車で到着した一方で、我々はその3時間前とか5時間前に準備しなければいけなかった。電車で通っていたためにね」とは父親の弁である。
転機が訪れたのは13歳の時だった。ラ・マシア(バルセロナの育成寮)への入寮が決定したのだ。「栄養の管理だったり、勉強だったり、休養の仕方だったり。ヤマルのそういった部分をコントロールしなければいけなかった」と語るのは長くバルセロナのカンテラでダイレクターを務めていたジョルディ・ロウラ氏だ。
「ヤマルは不思議な歩き方をする、寛容さに少し欠けた青年だった。だが、ひとたびピッチに入れば、素晴らしいコントロールをし、誰にも真似できないフェイントを見せ、特別な打ち方でシュートを打つ選手だった」
■大型契約の準備
バルセロナは現在、ヤマルに大型契約を準備しているという。18歳になるタイミングで、新契約をオファーする考えだ。
ヤマルは2023年10月にバルセロナと契約延長を行った。2026年夏までの契約にサインして、その際に契約解除金が10億ユーロ(約1600億円)に設定された。
だが昨季、一時、ヤマルに関して移籍の憶測が流れた。パリ・サンジェルマンが、キリアン・エムバペ(現レアル・マドリー)の後釜として、ヤマルを狙っていた。移籍金2億ユーロ(約319億円)を用意し、ヤマルに触手を伸ばそうとした。
バルセロナには、2017年夏に、パリSGにネイマールを“掻っ攫われた”苦い過去がある。契約解除金2億円2200万ユーロ(約356億円)が支払われ、ネイマールのパリ行きが決まった。同じ轍を踏まないように、という教訓がある。
ヤマルはバルセロナのカンテラーノだ。ネイマールとは、ケースが異なる。しかしながら、バルセロナは年俸150万ユーロ(約2億4000万円)のヤマルに対して、年俸アップを含めた2030年夏までの新契約オファーを検討している。
「僕は自分をアイコンだとは思っていない。そういう風に考えないようにしている。そんなことを考えても、ピッチ上では何の役にも立たない」
これはヤマルの言葉だ。
バルセロナのカンテラーノ、左利き、ドリブラー…。如何せん、リオネル・メッシと比較されがちだが、ヤマルは地に足を着けている。
また、バルセロナとしては、ヤマルをキープできるのは大きい。ガビ、アレッハンドロ・バルデ、パウ・クバルシ、フェルミン・ロペスといった優秀なカンテラーノを近年輩出しているクラブにとって、彼らは移籍金ゼロで獲得したようなものであり、それはどのような大型補強にも優るからである。