アカイトリノムスメに無い国枝厩舎の”あれ”と師も感服するオーナーの采配とは?
アカイトリノムスメには無い国枝厩舎の”あれ”とは?
2月13日、東京競馬場で行われたクイーンC(G3)はアカイトリノムスメ(牝3歳、美浦・国枝栄厩舎)が優勝した。
同馬の母はアパパネ。言わずと知れた牝馬3冠を含むG1を5勝もした名牝。馬名はその父のキングカメハメハからの連想で、ハワイ固有種の赤い鳥のこと。その娘だからアカイトリノムスメと命名されたわけだ。
また、父は無敗で制した3冠競走など7つもG1を勝ったディープインパクト。つまりアカイトリノムスメは両親共に金子真人(名義はホールディングス)オーナーのトリプルクラウンホース。もっと言えば母の両親も同オーナーの馬。これにはアカイトリノムスメを祖母から代々管理する調教師の国枝栄も舌を巻いて言う。
「金子オーナーにはかないません。3冠馬同士の配合の子で、またクラシックを目指す。漫画かゲームみたいですね」
アカイトリノムスメ自身は、というと入厩当初は尻っ跳ねをして乗り手を落とし、放馬した事もあったと言う。
「だいぶ幼かったですね。尻っ跳ねとかそういった面はアパパネというより父のディープに似た感じなのだと思います」
子どもっぽい分、デビュー戦を取りこぼした。しかし、その後は未勝利戦、赤松賞と連勝。続くクイーンC(G3)で連勝を3に伸ばすと共に自身初の重賞制覇も成し遂げてみせた。
「母より父が出ていると感じたけど、競馬へ行くと切れるというよりジワーと来る感じ。そういう意味ではお母さん似の面もありますね」
指揮官はそう言って笑みをみせた。
ところでコアな競馬ファンなら同馬が国枝厩舎のトレードマークともいえるシャドーロールを装着していない事に気付いておられるだろう。他に何頭かそういう馬はいるが、その多くは金子オーナーの所有馬なのだ。
オーナーの采配で勝てたG1レース
「金子さんからのリクエストで着けていません。あくまでもオーナーの馬ですから、指示があれば当然、意に沿うように動くだけです」
シャドーロールは本来、頭の高い馬や文字通り影を気にする馬などに装着する馬具である。下の視界を狭める事で頭を低くしたり、影を見えないようにしたりする矯正馬具だ。しかし、国枝は少し違う目的で使用している。
「馬群にいても自分の馬がどこにいるのか判別しやすくなるので着けています」
そこまで言うと国枝は改めて続けた。
「アパパネが3冠を取れたのも金子オーナーの馬だったから、と思えますね」
オーナーからの指示で登り詰めたと思える頂点の例を更に続ける。
「ブラックホークはスプリンターズS(G1)を勝つなど短い距離は安定して力を発揮していました。でもマイルだと掲示板もおぼつかない競馬が続いたので完全にスプリンターだと思っていました。ところがオーナーが『安田記念に使ってください』と言うので使ったら勝ちました(2001年)」
07年にNHKマイルC(G1)を制したピンクカメオもオーナーの鶴の一声だった。
「桜花賞のあとオークスへ行くつもりでいたらオーナーから『NHKマイルCも使ってください』と。それで使ったらまた勝てました」
国枝は笑いながら言う。
「オーナーの言う通りにしていたらバンバン勝てました」
桜の女王決定戦であの馬と対決か?!
まるで未来が見えていたかのようなオーナーの采配に「私は何もしていません」と続けたが、勿論、実際にはそんなわけはない。国枝の厩舎力もあってこその結果である。所有者である馬主の意向に合わせて使い、結果を出す。最高なウィンウィンの関係は、馬主だけではなく、調教師だけでもない。互いに観察力、洞察力、判断力、技術力に長け、更に強力な信頼関係がなければオーナーの望む結果も絵に描いた餅に終わりかねないのだ。
アーモンドアイからバトンタッチするように現れたアカイトリノムスメに関し、現状、金子オーナーからの注文は何もないのか?を問うと調教師は言った。
「阪神ジュベナイルF(G1)は同じ金子さんのソダシがいるから使わないでほしいと言われたけど、とりあえずそれくらいですね」
間隔が詰まるのでいずれにしろそこを使う気はなかったと言う国枝だが、次の桜花賞(G1)となると、激突の可能性が高くなる。果たして金子オーナーには、真っ白なソダシと“アカイ”トリノムスメが、ピンクに染まる桜の舞台で対峙する未来も見えていたように思えてならない。今後の動向にも注目しよう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)