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カンヌでも感染者。新型コロナウィルスで映画祭はどうなるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
昨年のカンヌにはスタローンも出席。今年は映画祭があるのか、スターは集まるのか(写真:REX/アフロ)

 拡大を続ける新型コロナウィルスが、映画業界にも深刻な影響を及ぼしている。ベルリン映画祭はギリギリのタイミングで終了したが、5月に映画祭を控えるカンヌで、先日、初の感染者が出たのだ。映画祭事務局は、「2ヶ月半先のイベントについて今の段階で憶測をするべきではない」としつつも、「映画祭に参加する方々の健康を守るため、事務局は、必要とされる方策を取る姿勢でいます」とコメントした。

 カンヌ映画祭では、コンペ部門をはじめ、賞を与える複数の部門で多数の作品が上映されるだけでなく、世界中からバイヤーとセラーが集まる大規模な映画のマーケットが開催される。有名なリゾート地であることから一般観光客も多く、プレミアの前には道端にぎっしりとファンが集まり、普通に歩くのも困難な混雑になる。

 今年の審査員長にはスパイク・リーが決まっているが、ラインナップの発表は4月なかばで、誰が出るどんな作品が上映されるのかは、まだ明らかでない。そんな中で、このような事態となってしまった。カンヌで自分の作品が上映されるのは栄誉なことながら、状況の悪化が続けば、タレントが来るのを嫌がって寂しいレッドカーペットになるかもしれないし、特定の国からは、来たくても来られないということも起こりえる。

 ヴェネツィアも、不安だ。今年はカレンダーの関係で例年よりやや遅い9月2日の開幕とはいえ、ヴェネツィアはコロナウィルスの影響をもろに受けている場所。作品は現在受付中で、締め切りは6月12日とあり、カンヌがどうなるかによっては、こちらに作品が流れることもあるかもしれない。映画祭の会場は、観光客が群がる中心地から少し離れたリド島。しかしそこにたどり着くには水上バスに乗らなくてはいけない。

 ヴェネツィアの開催期間中には、アメリカでテリュライド映画祭があり、カナダでトロント映画祭が始まる。アメリカではついに初の死者が出たばかり。カナダでも現在までに11人の感染者が確認されている。

近い将来、映画の話ができるような状況にあるのかも不明

 これらの映画祭は、どれも、オスカー戦線上、非常に重要だ。昨年は「パラサイト 半地下の家族」がカンヌのパルムドール賞、「ジョーカー」がヴェネツィアの金獅子賞、「ジョジョ・ラビット」がトロントの観客賞を受賞し、そのすべてがオスカーに作品部門を含む多数部門でノミネートされた。トロントの後のニューヨーク映画祭では、「アイリッシュマン」がプレミアされている。

 これらのうちどこに出すのかはマーケティングにおける重要な戦略だが、コロナウィルスがいつ収まるのか、あるいはこのまま収まらないのか、それがまったく見えない中では、動きようがない。そもそも、その頃、まだ映画の話ができるような状況にあるのかもわからない。中国では映画館がほぼすべてクローズし、公開予定だった作品が宙に浮いたままだ。日本でも「ドラえもん」の公開が延期されたし、この後も世界各国で、完成したのに待機状態にある映画がたまっていく可能性がある。また、「ミッション:インポッシブル」最新作がイタリアでのロケをキャンセルしたように、撮影計画に支障が生じるケースも、今後まだ出てくるかもしれない。

 ストリーミングが勢いを増す中、伝統派は、映画館でほかの人たちと一緒に映画を見て感動することの重要さを強調してきた。映画祭はその文化を祝福するものだし、そうでなければ見逃されてしまいがちな作品にスポットライトを当てる役割を果たす。だが、今、それが思いもかけなかった形で脅かされている。将来、映画の歴史を振り返る時、この新型ウィルスはどんな意味をもつことになるのか。これがあくまで一過性のもので終わり、ちょっとしたエピソードとして語られる程度にとどまることを願うばかりである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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