感染症法改正「入院拒否罰則導入」への重大な疑問
政府は22日、新型コロナウイルス対策を強化するため「新型インフルエンザ対策特別措置法」「感染症法」「検疫法」の改正案を閣議決定した。この中には、入院を拒否した新型コロナ患者への刑事罰の導入も含まれている。
「感染症法」の改正案をめぐっては、主として、入院拒否者に対する罰則を導入する必要性や妥当性が議論されているが、それ以前の問題として、「感染症法」による、「入院の勧告」や「入院措置」という制度と、「罰則」との関係に重大な疑問点がある。
感染症法は、「入院」に関して、以下のように規定している(19条、20条、46条など)。
(1)(入院勧告)
都道府県知事は、新感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、新感染症の所見がある者に対し十日以内の期間を定めて特定感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該新感染症の所見がある者を入院させるべきことを勧告することができる。
勧告をしようとする場合には、当該新感染症の所見がある者又はその保護者に、適切な説明を行い、その理解を得るよう努めるとともに、都道府県知事が指定する職員に対して意見を述べる機会を与えなければならない。
当該新感染症の所見がある者又はその保護者は、代理人を出頭させ、かつ、自己に有利な証拠を提出することができる。
(2)(入院措置)都道府県知事は、勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、十日以内の期間を定めて、当該勧告に係る新感染症の所見がある者を特定感染症指定医療機関に入院させることができる。
つまり、感染症の所見がある者(以下、「感染者」)やその保護者に対する「入院の勧告」と、勧告に従わない場合の「入院させる措置」を定めている。「入院措置」の規定は、平成10年の感染症法改正で導入されたものだ。
そして、今回、閣議決定された感染症法改正案では、この「入院措置」に関して、以下のような罰則を導入しようとするものだ。
(3)(罰則)入院の措置により入院した者がその入院の期間中に逃げたとき又は、入院の措置を実施される者が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったとき1年以下又は百万円以下の罰金
しかし、ここで疑問なのは、(2)の「入院措置」というのが、どのような性格の措置なのかという点だ。
「勧告」に関して「適切な説明」「理解を得るよう努める」「意見を述べる機会」「証拠提出」など慎重な手続が規定されているが、その結果「勧告」が出されても、あくまで「勧告」なのだから、それにしたがうかどうかは自由なはずだ。その「勧告」に従わない場合には、都道府県知事として、入院の「命令」が出され、それに応じない場合に、都道府県知事(所管の保健所職員)が入院させることができるというのであれば理解できる。
ところが、現行の感染症法では、その「命令」が発せられることなく、いきなり「入院措置」をとることができ、それに加えて、今回の改正法で、「入院措置」にしたがって入院しない場合、罰則が適用されるというのだ。
では、この「入院措置」というのは、どのような「措置」なのか。
行政上の強制力を持つ「入院措置」として、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(精神保健福祉法)における「措置入院」という制度がある。「都道府県知事は」「入院させることができる」という規定の文言が精神保健福祉法との「措置入院」と同じであることからしても、感染法上の「入院措置」も有形的強制を可能にする措置ということだろう。
ところが、今回の改正法では、「入院措置を実施される者」が、「入院すべき期間の始期までに入院しない場合」が罰則適用の要件とされている。このことからすると、「入院措置」というのは、任意に入院することを前提にしているようにも思える。直接、有形力を行使して強制的に入院させることができるのであれば、その措置によって「入院」は完了し、それに応じる、応じないは問題にならないはずだ。
結局、今回の法改正での「入院措置」にしたがわない場合の罰則導入によって、現行法で規定されている「勧告」「入院措置」という枠組み自体に重大な疑問が生じることにならざるを得ないのである。
今回の「感染症法」改正は、「入院の措置を実施される者」が「入院しなかった」場合に罰則の対象になる、というものだが、そもそも、その前提となっている「入院措置」自体に、上記のような問題がある以上、それを「拒否」したことに対する罰則を導入することには疑問がある。
そもそも、罰則の導入以前に、「勧告」「入院措置」の制度の関係やその法的性格自体が曖昧であることに重大な問題がある。その点を明確にし、現行の感染症法上の制度を明確にすることが先決であろう。
この点について、国会で十分な議論を行う必要がある。