平等院はどのような権利で保護されるか?
「平等院がジグソーパズルに使用され提訴 販売差し止め求め」というニュースがありました。
ということです。
どのような権利が根拠になっているのでしょうか?著作権でないことは明らかです。平等院のような国宝であれば建築の著作物とされますが、建設は998年なので当然ながら権利は切れていますし、仮に、新たに建築された部分があったとしても、建築の著作物は(それを複製した建築物を作る、等の場合を除き)自由に利用できるからです。なお、新たに作られた美術品が映り込んでいる可能性もなくはないですがちょっと想定し難いです。
また、一般にパブリシティ権(商品化権)と呼ばれる権利も、判例上、人間以外には認められていません(俗にモノパブ(物のパブリシティ権)と呼ばれている問題です)。
では、平等院の主張は根拠なしかというとそんなことはなく、上記記事中の「絵柄はライトアップされた鳳凰堂を境内から無断撮影されたもの」がヒントになります。境内での行為には判例上も認められた権利である施設管理権が効いてきますので、平等院が決めたルールに反して撮影された写真の利用はその侵害となり得ます。逆に、ジグソーパズルで使用された写真が公道から撮られたものであれば権利行使は難しかったでしょう。
ところで、余談ではありますが、建築物の著作権に関連した話として、(割と有名かもしれませんが)パリのエッフェル塔の例があります。エッフェル塔も建築の著作物としての著作権は切れていますが、夜間の電飾については「別の著作物」としての著作権が存続しています。そして、フランスの現行著作権法では、公共の場所に恒常的に置かれた建築や彫刻の著作物の写真を撮って利用できる自由(Freedom Of Panorama)が一部制限されており、商用使用は範囲外とする規定となっています(その点では日本もちょっと似ています(著作権法46条1号4項))。その結果、昼のエッフェル塔の写真の利用は自由ですが、夜のエッフェル塔が映った写真をストックフォトにしたり、絵はがきにしたりする商用行為には運営会社(SETE)の許諾が必要ということになっています(裁判して電飾は著作物ではないと認められれば別ですが今の所は許諾が必要です)。
追記:ツイッターでちょっと議論になりましたが、施設管理権に基づいた「販売の差し止めや在庫商品の破棄を求める訴え」が可能かという論点があります。施設管理権に基づく訴えは民法の一般不法行為が問われることになりますが、財産的な権利の侵害の場合には損害賠償は認められても差止は認められないのが通常です(一方、著作権侵害の場合には著作権法に明確な規定があるので侵害が認められさえすれば差止可能です)。上記記事によれば、平等院側は「営利目的に使用することを安易に許諾したという印象を一般消費者に与え、鳳凰堂を文化財として保護してきた寺院としての社会的評価を低下させる」と人格権に寄せた主張をしていますが、このためと思われます(人格的な権利侵害が認められれば一般不法行為でも差止が認められることが多いです)。いずれにせよ、法律的に興味深い論点がいろいろありそうなので判決確定して判決文が公開されることを期待してしまいます。