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結婚について知っておきたい法知識 15 夫の借金を妻は支払う義務はあるのか?

竹内豊行政書士
夫の借金は妻は連帯して責任を負わなければならないのでしょうか。(ペイレスイメージズ/アフロ)

夫の借金を妻は連帯して責任を負わなければならないのでしょうか。

民法は、夫婦の一方が、日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他方は、これによって生じた債務につき連帯してその責任を負わなければならないとしています(民法761条)。

民法761条 (日常の家事に関する債務の連帯責任)

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

この民法761条は次の考えに基づいています。

「夫婦平等の原則」(憲法24条)の下では、日常の家事も夫婦共同の仕事だから、それに伴う債務も共同の債務とすべきである。また法律行為の相手方も、日常家事に関する取引については、夫か妻かではなく夫婦双方を相手方と考えるのが普通である。

したがって、第三者保護のために、日常の家事に関する債務は夫婦の共同責任(連帯責任)とすべきであるという考えです。

連帯責任を免れるケース

ただし、次のようなケースでは、連帯債務を免れると考えられています。

・夫婦関係が破綻して別居している場合

夫婦が、相手の単身赴任や入院などやむを得ない理由で別居している場合には、この連帯責任はそのまま生じます。

しかし、夫婦関係が破綻して別居している場合には、共同生活関係は消滅し、共同の日常家事もないため、連帯責任は生じないと解されています。

・夫婦の一方が特定の第三者に対して「他方の債務について責任を負わない」旨をあらかじめ告知しておいた場合は、連帯責任を免れます(民法761条ただし書き)。

日常家事の範囲

「日常の家事」とは、結婚生活を営む上で日常必要とされるもので、具体的には、次のようなものが挙げられます。

・衣食住の生活資材の購入

・子の養育に必要なもの

・家族の教養娯楽保健費用 など

しかし、実際に、ある行為が日常家事の範囲に属するか否かの判断は難しい場合があります。通常は、当該夫婦の生活様式、すなわち、夫婦の社会的地位・職業・収入、さらに、地域社会の慣行などによって決まると考えられています。

以下、裁判例をご紹介します。

日常家事に「含まれる」とした裁判例

・ローンで買った14万円の電子レンジ(15回分割払い)

・月収30万円の家庭で子どもの教育のために購入した学習教材(約60万円)の立替払い(48回分割払い)

・月収30万円の家庭で子どもの教育のために購入した学習教材(約20万円)の立替払い(20回分割払い)

日常家事に「含まれない」とした裁判例

・月収24万円の家庭で、子どもの教育のためではあるものの、販売員による強引な販売方法のためにやむなく購入した学習教材(72万円)の立替払い(60回分割払い)

・月収約8万円の家庭での約41万円の太陽熱温水器の購入

・収入のない家庭での21万余円のふとん購入のクレジット(36回分割払い)

このように、夫婦の一方がした借金を、他の一方が連帯債務を負うか否かは、その借金が「日常の家事」に該当するか否かで判断が分かれます。

お金の問題は時として夫婦間に大きな亀裂を生じさせます。たとえば妻の知らぬ間に夫が借金をしていたといったような、お金がきっかけで夫婦間に溝を生じないためには、お金に関してオープンに話し合える関係が大切だと思います。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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