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映画が描く朝鮮半島情勢のリアルとは!?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
「ベルリンファイル」7月13日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

去る4月中旬、いかにもきな臭いタイトルに誘われて「エンド・オブ・ホワイトハウス」を観に行った。すると、どうだったろう!?映画はテロリストに占拠され、破壊されていくホワイトハウスの無残な映像以上に、描かれる事件の背景、及び動機として紹介される「朝鮮半島情勢」が現実とあまりに密接にリンクしていて、改めて映画製作のタイミングについて考えさせられることになった。4月中旬と言えば、まさに北朝鮮がミサイルを発射するのか、しないのかに、世界の注目が最も集まっていた時期である。

映画が結果的に現実を予見!?

独立記念日翌日の7月5日、米韓首脳会談のために韓国大統領がホワイトハウスに到着した直後、襲来したアジア人テロリストがアメリカ大統領を人質に取った上で、核ミサイル発射と引き替えに要求してきたもの。それは、日本海域からの米軍第7艦隊の引き揚げと、韓国と北朝鮮の間にある軍事境界線からの全米軍兵士、28500名の撤収だった。これが映画で描かれる内容だ。方や現実の世界では、北朝鮮が韓国、アメリカへの挑発を強めていた今年3月末、米海軍がアラビア海等で展開していた第7艦隊の管轄エリアをインド洋や西太平洋に移動させ、それから約半月後の4月16日には、南北軍事境界線付近で訓練中の米軍ヘリが墜落し、炎上。12人全員が無事脱出し、奇跡的に事なきを得ている。映画が結果的に現実を予見してしまうことはよくある。中でも、「エンド・オブ・ホワイトハウス」の場合は全米公開(今年3月22日)直後、製作側の意図をある意味裏切って世界情勢がスクリーン上に設定した非現実に肉薄してきた、少々稀な例かも知れない。

そんな現実を凌駕していく映画のリアリティ

「エンド・オブ・ホワイトハウス」6月8日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
「エンド・オブ・ホワイトハウス」6月8日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

とは言え、目の前に映し出される虚構に現実との類似点を指摘して、そこに作品としての価値観を見出す観客ばかりではないだろう。例えば、「エンド~」では中枢部が占拠された大統領府内で孤軍奮闘するジェラルド・バトラー扮する元SPが見せる"ジョン・マクレーン"顔負けの活躍へと、恐らく観客のカタルシスは集約されていくはずだ。それは、金正恩新体制発足後のベルリンで、南北の工作員が対決する「ベルリンファイル」にも言える。今、最も切実なテーマを、誰よりも自分たちの問題として受け止めているはずの韓国映画ですら、否、だからこそ、作品は終始、敵味方が判別不能な諜報戦争の緊迫感をキープしつつ、しかも、韓国映画独特の情緒過多にも陥らず、娯楽アクションとして健全に推移。いつしか現実を凌駕して映画の快感を味合わせてくれる。

映画のリアリティとは、映画館の外にある現実を虚構のフィルターに通して、観客に注がれるもの。それだけは紛れもない事実なのである。

「ベルリンファイル」7月13日(土) 新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードョー

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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