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ニッポン俳優名鑑 蒼波純 『運命に、似た恋』 原田知世の少女時代を演じる、あの美少女は誰?

成馬零一ライター、ドラマ評論家

成馬零一のニッポン俳優名鑑vol.02 蒼波純 出演作『運命に似た恋』

テレビドラマに善く出ている俳優の人気の秘密はどこにあるのか? ドラマ評論家の成馬零一がゆるやかに分析する。

9月23日からNHK金曜夜10時に放送されている『運命に、似た恋』は原田知世と斎藤工が主演を務める恋愛ドラマだ。

脚本は『ロングバケーション』(フジテレビ系)や『Beautiful Life~ふたりでいた日々~』(TBS系)などを手掛けた恋愛ドラマの女王・北川悦吏子。

原田知世が演じる桜井香澄(カスミ)は高校生の息子がいるバツイチの45歳。富裕層向けのクリーニング屋で働いており、そこで斎藤工が演じる年下の一流デザイナー・小沢勇凛(ユーリ)と出会う。もしかしたら、ユーリは カスミが14歳の時に出会った初恋の男の子じゃないか? というのが今後のポイントとなっていくのだが、注目すべきは14歳のカスミを演じている謎の美少女だ。

彼女の名前は蒼波純。

講談社が主催するアイドルオーディション、ミスiD2014でグランプリを受賞して、小学校6年生の時にアイドルとしてデビューした。その後、杏や佐々木希が所属する事務所・トップコートに入り、『ワンダフルワールドエンド』や『世界の終わりのいずこねこ』といった映画に出演。昨年は動画配信サイトGYAO!で放送された一話15分の連続ドラマ『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』(後に劇場版が制作)でトイレに引きこもって壁に絵を延々と書き続ける中学生の役を演じた。

オーディションでは、まともに話すことができていないが妙に印象に残る動画や、選考期間中に彼女の母親が撮影した膨大な量の写真がSNSに投下されて大きな話題となった。

現在はTwitterで「おやすみジャンケン」というイベント(毎晩、グー・チョキ・パーの手をした蒼波の写真をアップロードする)を行っており、SNSを積極的に使用することで注目されてきた。

蒼波純 Twitter

だが、その一方で、他のアイドルやタレントのように自分のことを積極的に発信していくというタイプではないのが彼女の面白さで、地方在住ということもあってか、身近なようで絶対に手が届かないという独自の立ち位置が、彼女を特別な存在としている。

蒼波が吉田凛音と期間限定でアイドルユニットを組んだ「ずんね from JC-WC」に楽曲提供をしたミュージシャンの大森靖子(作詞・作曲)とサクライケンタ(編曲)を筆頭に、彼女を敬愛するクリエイターは多く、インディーズ映画等のサブカルチャー界隈では高い知名度を誇っていたが、『運命に、似た恋』でいよいよ、NHKの連続ドラマに初出演することとなった。

原田知世の少女時代を蒼波純が演じる必然性

おそらく現在の原田知世のたたずまいから逆算して、原田の少女時代を演じるのにふさわしい女優として蒼波は起用されたのだろう。

原田が演じるカスミは45歳の大人の女性でありながら、どこか少女の面影を残しており、大人になることに失敗したかのような、弱々しさを抱えている。

物語は1986年と現在を行き来するのだが、本編で描かれない空白の期間、つまりカスミが高校に行ったり、就職したり、結婚したり、離婚したりといった経験を通して、現在の彼女になるまでの時間を容易に想像することができた。

髪型も似ているためか、過去と現在のカスミがちゃんと同一人物に見える。逆に蒼波純の成長した姿に合わせて、原田知世が演じているのではないかと、勘違いしてしまいそうになるくらいだ。

蒼波の出演は回想シーンのみであるため、今後どれくらい出演するのかはわからない。しかし、短い時間の出演ながらも、蒼波の登場シーンは強烈な印象を残している。

蒼波の演技は、声を必要以上は張らないし、表情もわざとらしく作らない。 

リアクションも自然であまり芝居がかっていない。

自然すぎて、ドキュメンタリーなんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

それでも、『ワンダフルワールドエンド』などの初期作品に較べるとだいぶ演技らしくなったのだが、おそらく本作ではじめて蒼波を見た人は、これは演技なの? 素なの? と違和感を抱くかもしれない。

逆にいうと、普段と同じようにフィクションの中に溶け込んでしまえること自体が、彼女の特異性だとも言える。

彼女の出演する作品は、すべてドキュメンタリーを見ているような生々しさがあるのだが、一方で黒髪にロングヘアーという彼女のそのたたずまいはどこか幻想的であり、記憶の中の美少女というノスタルジックな役割にうまくハマっている。

そんな蒼波が、原田知世の少女時代を演じることには、歴史的必然性を感じる。

原田知世が映画『時をかける少女』に出演して鮮烈なデビューを飾ったのは15歳、今の蒼波と同じ年齢の時だ。

大林宣彦が監督し、今では伝説的なアイドル映画となっている『時をかける少女』は、とても作り込まれたSF仕立ての虚構性の高い作品でありながら、デビュー仕立ての原田の初々しさが刻印された思い出のアルバムのような作品だった。

大林は、演技経験がない原田の素人くささを修正するのではなく、むしろ強調することで、気恥ずかしい甘酸っぱさを際立たせた。

当時の原田が特別な存在と成りえたのは、同じクラスにいてもおかしくないような親しみやすさと同時にフィルムの中にしか存在しえないノスタルジックな少女性が共存していたからだ。

それは、本作の蒼波の表情に感じる切ない手ごたえと、とても似た感触ではないかと思う。

『はつ恋』の橋本愛や『激流~私を憶えていますか?~』の刈谷友衣子など、NHKの大人向け恋愛ドラマでヒロインの少女時代を演じ、鮮烈な印象を残した若手女優は多い。

『運命に、似た恋』に出演したことで、蒼波純もより広い層から注目されることだろう。いつか朝ドラや大河ドラマに出演することも夢ではないはずだ。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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