「韓鶴子総裁」とは? 安倍氏事件関連の新出キーワード 「文鮮明氏との間に14人の子ども」
「当初は世界平和統一家庭連合(統一教会)の韓鶴子総裁を狙ったが、新型コロナウイルス禍で来日しないので安倍元首相に狙いをかえた」
13日に警察から出てきた、山上徹也容疑者の事件動機に関する供述だ。
「韓鶴子総裁」
現在の統一教会の総裁の名前だ。昨日から今日の日本の地上波ワイドショーでも多く報じられている。
2012年9月に夫文鮮明氏が死後、後継者問題を経つつも、現在は教団の最高指導者の地位にある。11日の教団の田中富広氏の会見でも度々この名前が出てきた。
いったいどういった人物像なのか。韓国側の報道から紹介する。
夫の生前は「関連団体の設立に貢献」
韓鶴子=HAN Hak Ja。
日本語で読むと「ハン・ハッチャ」が一番近い。
Hakの音は文字通り「Kの子音で終わる」。それゆえ日本語では正確に表記しきれない。かつての韓国語→日本語表記基準だと「ハン・ハクジャ」とされただろう。現地ではHANの最後のNとHakのHが連音化(要はくっついて)して、「ハナッチャ」に近い音になる。現在の韓国で女性の名前の最後に「子」が使われるのは、日本統治下時代に生まれた影響とされる。昔ながらのイメージ、といったところだ。
※韓国では現在も一般的に「統一教」と呼ばれるため、本稿はこれに準じ「統一教会」とします。
1943年2月10日、日本統治下の朝鮮半島北部・平安南道生まれ。熱心な宗教活動を行っていた母の影響で1954年に設立された統一教会に入信。
17歳だった1960年3月27日に初代教祖文鮮明氏と婚約、10日後に結婚した。
1920年生まれの文氏とは23歳差があった。また「聖婚」と呼ばれるその結婚形式も教団独特のものだった。結婚前の1959年10月から信者たちに相手を明らかにせず「天の命によって結婚準備をする」とし、後に「信者たちの夢に韓鶴子が出てきた」として婚約を発表した。
教団の公式サイトによると、その後の活動ぶりは「平和機関の設立」にあったようだ。こう記されている。
1968年には世界を共産主義の脅威から守るために「国際勝共連合」を創設。その後も「世界平和教授アカデミー」(73年)、「世界平和宗教連合」(91年)、「世界平和連合」(91年)、「世界平和家庭連合」(96年)、「世界平和超宗教超国家連合」(99年)、「天宙平和連合」(2005年)、「世界平和国会議員連合」(2015年)などの国際平和機関を次々に創設し、各分野において世界的な貢献をされる。
このうち「天宙平和連合(UPF)」は、2021年9月に故安倍氏がビデオメッセージを寄せた団体だ。11日の教団会見では「日本の教団本体とは『友好団体』のため、不明な点も多い」という主旨の発言があった。果たして「現総裁=教祖」の深くかかわる団体を「よく知らない」ということはありうるだろうか。
「天の一人娘」を自称。夫の総裁の座を引き継ぐ
そういった話はさておき、韓鶴子氏の姿から教団の性質を知りうる点が二つある。
一つ目は「教祖の妻」がどうやって、後継者となる正統性を得たのか。夫の文鮮明氏は自らを「再君臨主(メシア)」とし、それを息子に継がせようとしていた。妻がその地位をどう継ぐというのか。後述するが、韓鶴子氏は子どもたちとの過酷な後継者紛争を経て、総裁(教祖)の座に収まったのだ。
そこでキーワードになったのは「独生女(ドクセンニョ)」だった。
2020年10月12日の韓国キリスト教系メディア「現代宗教」はこう記している。
(韓鶴子氏は)祖母、母、自分の3代に渡っての女性の系譜を通じて「天の一人娘(独生女)」が完成した(とした)。また自身が「天の父母様のお姿を取り戻すための天の摂理を真実を伝えている」とした。
また韓国メディアでは、教団内の勉強会での資料を基に「独生女」の根拠がこう説明されている。
「独生女(天の一人娘)という言葉について、初代文鮮明氏が1951年の10月11日日(結婚6ヶ月前から)180回程度言及してきた」
そして、韓鶴子氏は「独生女(一人娘)」以下の条件を満たしていると。
1. 神の初めての愛を受けて生まれてこそ
2. 神を中心に据え成長して個性を完成させてこそ
3. 神を中心に据え結婚し母となり家庭を築いてこそ
母の代から続く宗教活動の家庭に生まれたからこそ、文鮮明氏に選ばれたという話だ。「現代宗教」はこう続ける。
「これは韓教祖が文鮮明と自身が同等な位置だと明示し、女性のメシアの教理にも問題がないという点を明確にしたものだ。のみならず文鮮明の死後に行き場を失った高位幹部たちもこれを否定する理由がなかった。この点からも韓教祖体制が力を得ているという分析もしうる」
もう一つは文鮮明氏との間にじつに「14人の子ども」がいることだ。これは現在の教団の体制にも大きな影響を与えている。7男7女。一番上は62歳で、末っ子は40歳。子どもたちの名前は上から言うと次の通りだ。
イェジン、ヒョジン、ヘジン、インジン、フンジン、ウンジン、ヒョンジン※、グクジン、クォンジン、ソンジン、ヨンジン★、ヒョンジン※、ヨンジン★、ジョンジン
※=ヒョンの「ン」の発音が、前者は「n」で後者は「ng」。日本語では区別ができないが、両者は別人。
★=同じ理由による。前者が「ng」で後者が「n」。
- 文鮮明氏の家族写真
14人のうち「3男」と「7男」が後継者問題のキープレーヤーに
母鶴子氏はこの14人のうち2人と初代総統文鮮明氏死後に深刻な後継問題を起こした。これが教団の現状に大きな影響を与えている。
1. 長女 ムン・イェジン(1960年~)
2. 長男 ムン・ヒョジン(1961年~2008年)
当然のごとく後継者の期待を背負った。教団の世界原理研究会の初代会長として1985年から95年まで活動するほか、アメリカを拠点に教団の宗教観を表すドキュメンタリーを制作する活動なども行った。一方でロック音楽(ヘビメタ)、銃などの趣味に没頭。2008年3月、韓国の清平にある教団施設で心臓麻痺により死去した。享年45歳。離婚により子どもの養育権が元妻に渡った心の痛みや、アルコール依存症と薬物依存症もあったという。
3. 次女 ムン・ヘジン 生後8日で死亡。
4. 3女 ムン・インジン(1965年~)
元世界平和統一家庭連合のアメリカ総会長。
5. 次男 ムン・ホンジン(1966年~1984年)
後継者として期待されたが、18歳の時に交通事故で不慮の死を遂げた。
6. 4女 ムン・ウンジン(1967年~)
7. 3男 ムン・ヒョンジン(1969年~)
コロンビア大卒、ハーバード大MBA。事業面に長けるため、父の死後は教団のなかの8割の資金を管理する財団を任された。しかし弟たちとの後継者争いが巻き起こるなか、「教団の教義が変化している」「もともとの統一教会ではない」として、財団の定款を自らの判断で書き換え。自分の所有とし、そのことで母らと対立している。現在の母親の「独生女」の理論についても「父を継ぐものではない」強く批判している。
- 3男の姿(本人公式チャンネルより)
8. 4男 ムン・ククジン(1970年~)
母が率いる世界平和統一家族連合系列の企業に常勤で務める。また財団の学校グループ理事長も務める。
9. 5男 ムン・クォンジン(1975年~)
米国在住。「後継者に関心なし」説と「韓鶴子氏の巡礼に参加」説が飛び交う存在。
10. 5女 ムン・ソンジン (1976年~)
ハーバード大学心理学科卒業。母鶴子氏との関係が良く、2015年に7男(弟)に替わり世界平和統一家庭連合の世界会長に任命された。あくまでトップは総裁である母だが。
11. 6男 ムン・ヨンジン(1978年~1999年)
2011年3月7日付の韓国「時事ジャーナル」による記事「統一できない統一教の2世」では、事故死したと報じられている。
12. 7男 ムン・ヒョンジン(1979年~)
統一教会の分派「サンクチュアリ(世界平和統一聖殿)」のトップ。山上容疑者が「所属していたのでは」として11日の教団日本法人の会見でも名前が挙がった。韓国では「この分派は2015年に韓鶴子氏によって破門とされた」と見られている。しかし11日の教団日本法人の会見では「文総裁のご子息が運営されていることもあり、分裂とは見ていない」と紹介された。
高校時代には仏教にハマり、坊主頭で学校に通ったという破天荒なエピソードも。しかし現在の姿は笑えない。サンクチュアリは「ライフルを持って結婚式を挙げる教団」として知られる。トランプ大統領の呼びかけに応じ米議会の暴動に参加したことが報じられた。
- 7男の分派の結婚式を報じる韓国「MBC」
13. 6女 ムン・ヨンジン(1981年~)
アメリカで活動中の芸術家。教団の仕事には関わっていない。2006年にはアメリカで「財閥二世の子ども」としてテレビ出演したことが報じられた。
14. 7女 ムン・ジョンジン(1982年~)
教団に関心なし、とされる。韓国メディアでも最も情報が少ない。
3男がカネを持っていき、7男は別の分派で活動。そこで母が立ち上がり、総裁の座に。
現在の教団はそういった姿にあるのだ。