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デンマークの日本人母に聞く、仕事と子育ての両立がしやすい理由

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
左から、mormormor(モアモアモア)の海老原さん、有田さん、宮腰さん

「デンマーク」と聞いて、皆さんは何をイメージしますか?

国連による「幸福度調査」の国別ランキングで、2016年に1位、2017年は2位を獲得している「幸せな国」であることをご存知かもしれません。ブロックの「レゴ」や童話作家のアンデルセンを生んだ国であることから、子どもと結びついた印象を持っている方もいるかもしれませんね。

今回は、そんなデンマークに暮らし、子育てしながら学校や保育園で働くmormormor(モアモアモア)の、タンブル 有田 妙さん、ピーダーセン 海老原 さやかさん、ムンクイエンセン 宮腰 花絵さんにインタビューしました。

※3人のプロフィールは、この記事の最後に掲載しています。

圧倒的に仕事の時間が短いデンマーク。でも仕事が嫌いなわけではない

もともとは日本で教育に携わっていて、それぞれにきっかけがあってデンマークに渡り、家族ができ、学校の先生や保育士としての職を得たという3人。全員が2人の男の子のお母さんでもあります。3年前にmormormorというユニットを結成し、日本に帰国したときに開く「おはなし会」でデンマークの教育や社会について伝える活動を始めました。

「単に『デンマークが素晴らしい!』と伝えたいわけではないんです。デンマークの教育などのベースにある理念や考え方を、どうやったら日本で活かすことができるか、そういうことをずっと考えていたのですが、デンマークに住む日本人という私たちの立場でできることを考えて、3人でmormormorを始めました」と有田さん。

7月22日に東京で開催されたイベントにて
7月22日に東京で開催されたイベントにて

インタビュー前に開催されたイベント「デンマークの教育現場で働く日本人女性3人のおはなし会 “世界一幸せな国”の学び・働き方とは?」(主催:Universal Research Laboratory北欧の教育・学びLilla Turen (リラ・トゥーレン))では、デンマークの人たちの働き方や、保育士や学校の先生として実践するユニークな教育活動などが紹介されました。

印象深かったのは、デンマークでは子育て中であろうとなかろうと、みんながワークライフバランスを重視していて、その実現が制度の面からもしっかり支えられているということです。

日本では長時間労働をいかになくすかが働き方改革の一大テーマですが、デンマークでは残業がほとんどありません。そもそも、 フルタイムの労働時間が週37時間と日本より3時間も短く、月〜木曜日は8〜16時の8時間勤務、金曜日は8〜13時の5時間勤務――、というように、金曜日は早めに帰るのが一般的。その上、有給休暇は年に5〜6週間付与され、ほぼ100%消化するのだそう。

また、同一労働同一賃金が徹底しており、年金や失業保険などの社会保障や職場環境も含め、パートタイムでもフルタイムと変わらない条件で働けるため、ライフスタイルにあった働き方が選択しやすいのです。

ただ、長い時間働かないからといって、仕事が嫌いなわけではないようです。海老原さんは、デンマーク人が大切にしている価値観を表す “Arbejdsglaede(仕事への喜び)” という言葉を教えてくれました。これは「自分の仕事の意味を感じられると、喜びも増す。仕事への喜びを感じている人が増えれば職場の環境もよくなる」という考え方なのだそう。

特別支援学校に勤務している海老原さんは、最初は資格を持たない教育ヘルパーという立場で仕事をしていました。ですが学校と交渉して一時的に週4日、30時間のパートタイム契約にし、週1日は学校に通って美術の教員免許を取得、キャリアアップを実現しました。このように、仕事への喜びを増すために、一時的に仕事をセーブして勉強の時間を作るということもできるわけです。家族との時間はもちろん、ボランティアや地域社会のための活動、PTA活動などに時間を費やす人も多く、 人生を充実させるために、仕事とプライベートの時間配分をうまく調整しようとしている人が多いようです。

デンマークで仕事と子育ての両立がしやすいワケ

残業が少なく、パートタイムという選択も取りやすいなど、仕事と子育ての両立がしやすそうなデンマークですが、子どもが急に熱を出してしまったときの仕事のやりくりなどは、万国共通の親の悩みです。

デンマークでも、夫婦のどちらが休むか相談したり、仕事の予定を変更したり他の人にお願いしたり、そういった調整はどうしても発生します。ただ、制度の面でも風土の面でも、子どものために早く帰ったり休んだりすること自体は、あまり気兼ねしなくて良い環境のようです。

まず、制度としては、子どもが18歳になるまで、1回の病気に付き両親が1〜2日ずつ、有給休暇とは別に休む権利があります。mormormorの皆さんのように学校や保育園で働いている場合、職場には「ビカー」と呼ばれる休んだ先生の代行をするスタッフがいて、朝「休みます!」と連絡すると、担当者がその人達の配置を調整してくれるのだそう。これは子育て中の職員に限らず、 「誰でも休むことはある」という前提のもと、あらかじめ準備がされているのです。(「ビカー」の制度について、こちらで詳しく紹介しています>休めない日本、休めるデンマーク。先生の働き方はなぜ違う?

職場の人たちも、子どものために、休むことを快く許してくれる雰囲気があるそうです。デンマークでは1960年代から女性の社会進出が進んできました。労働力不足と、働きやすい環境を求める女性たちの声とが、国の子育て支援策の充実に繋がり、「子育てしながら働く」が当たり前の世の中を実現したのです。だから今の働き盛りの親の世代から共働き経験者が多く、職場のワーキングマザー・ファザーを応援しようという人が多いのでしょう。

男性が家事・育児をするのも当たり前で、育児をする男性をわざわざ「イクメン」と呼んで特別視する日本の感覚は、あちらではちょっと理解しがたいとのこと。育休も、夫婦で相談してそれぞれが取得するケースが多いようです。

誰が、いつ取る? 育休のとり方もフレキシブル

面白いのは、子どもが9歳になるまでの間、育休を分割して取れるという制度。夫と妻それぞれ、あるいは両方がいつ取るか、それぞれの家庭に合わせて育休をカスタマイズできるのです。

子どもを保育園に入れられるのは生後6ヶ月からなので、夫婦で3ヶ月ずつ育休を取って職場にスピード復帰というというパターンもあれば、夫婦それぞれがフルに育休を取って1歳半頃まで家で面倒を見るパターンも。

有田さんの義理の妹さんは、子どもが6歳になってから3ヶ月の育休を取ったそう。「子どもに何かあった時のために、と思って休みを取っておいたんですね。それを6歳のタイミングで使ったのは、子どもが学校に入る前に家族でゆっくり過ごす時間を取るためだったようです」と有田さん。

また、宮腰さんが勤める保育園を利用する家族の中には、子どもふたり分の育休を合わせて夫婦で長期休暇を取り、自転車で日本一周旅行をしてきた、という人たちもいたそうです。

自分の人生は自分で舵を取る

育休のとり方だけでなく、その後の働き方に関しても、子どもが生まれて3年ほどは妻がパートタイムで子育て優先の生活、その後は妻がフルタイムに戻ってキャリアアップを目指すために夫はサポートに回る……、など夫婦それぞれで話し合い、計画的にキャリアや生活の設計をしている人たちが多いのが、デンマーク人の特徴のよう。有田さんはそれを、「自分の人生は自分で舵を取る」と表現します。

デンマークのような北欧の福祉国家について、私たちは「国が国民を手厚く保護する」という関係を想像しがちです。でも、3人のお話を聞いているとそのイメージが崩れていきます。デンマークでは議員選挙の投票率が80%以上あるのですが、それは、高い税金を払っているからこそ、その税金の使われ方をより良いものにするために働きかけていこうという意識があるからなのだそう。

自分たちの生活をよりよくするために積極的に働きかけていくというのは、職場においても同じです。どんな働き方をしたいかは、会社が用意してくれる制度の中から選ぶというよりは、自分で考えて「こうしたい」と交渉するのがあたりまえのようです。

「デンマークの人は『伝える力が高い』と思います。仕事を疎かにして他を優先させたいと言うのではなく、『この仕事をちゃんとやるために、こういう働き方をさせて欲しい』と打診するのです。上司としても、結果が出ることが大事なので、どうするのがベストなのかを相談し、お互いに納得できる形に持っていくんです」と有田さん。海老原さん、宮腰さんも、「個人のニーズを聴いてくれる、リーダーや職場の環境がある」と頷いていました。

ともすれば、「日本は(私の会社は)、デンマークみたいに恵まれた環境じゃないから……」と考えてしまう私たちですが、制度にとらわれず、より働きやすい方法を柔軟に考えて提案してみるというやり方は、大いに学べるところがあるのではないでしょうか。

大事にしたいこと、捨ててもいいこだわりを見極めよう

mormormorの皆さんに、日本でがんばっているワーキングマザー・ファザーたちへのメッセージをいただきました。

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海老原さん

「子育てしながら働くのは、日本でもデンマークでも大変なことです。私たちも毎日ドタバタです。でも、どんな生活をしたいか、何を大事にしたいかが自分で分かっていると、ちょっと生活が豊かになりますよね。日々の生活にただ流されるのではなく、どうしたいかを持っていることが大事だと思います。私たちも、今の生活をもっと良くしたいと常々思いながら前に進んできています。だから、一緒にがんばっていきましょう!」

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有田さん

「自分ができること、できないことを見極めて、周りに助けを求めることが大事ですよね。助けてもらって当たり前ということではないんだけど、『自立』はひとりで頑張ることとは違うんです。自分に足りないところをちゃんと認めて、自分ひとりでがんばろうとしないこと。

任せられるところは任せる。そのときに、自分のこだわりが見えてくることがあると思います。洗濯するときに色物と白物は分けてほしかった……、とかね。それって、自分が理想としている生活や家族の幸せのために譲れない価値観なのか、ただのこだわりなのか、見極めが必要です。こだわりにすぎないんだったら、ほどほどのところで落とし所を見つけようと考えるだけでも、ちょっとラクになると思いますよ!」

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宮腰さん

「言いたかったこと、ほとんどふたりに言われちゃいました(笑) 仕事も子育ても、本当にいろいろやらなければいけないことがありますけど、常に一番大事なことは何かを思い出して、省けるところは省く、それは大事ですよね。人間は完璧じゃなくていいんだ、そう思いながらがんばっていきたいですね!」

全く違う社会に暮らしているように見える3人も、働くお母さんという立場での共通点がたくさんあるんだな、と感じられるお話でした。たくさんのヒントを届けてくれるmormormorの皆さんの活動、これからも楽しみにしています。

プロフィール

mormormor(モアモアモア)

"mor(モア)"とは、デンマーク語で"お母さん"のこと。 "mormormor(モアモアモア)"は、しあわせな国デンマークの教育現場で働く"mor"、 日本人お母さん3人のユニットです。

タンブル 有田 妙

コペンハーゲン近郊、緑豊かなアルバスルンド市にある、知的障害をもつ自閉症児のための 特別支援学校に勤務。同校は"TEACCH"(自閉症スペクトグラム障害の人へのトータルアプ ローチ)の理念に基づいた教育が行われている。現在中学部の担任。子どもを育てることは、信頼してどう手放していくかを考える事とも思い、思春期真っ盛りの生徒達と向き合う日々。

趣味は陶芸。好きな動物は猫。無類の食いしん坊。去年離婚し、今は一国一城の主! 12歳と10歳のボーイズと、楽しくも激しい、愛とバトルの日々を送る。神奈川県横浜市出身。

ピーダーセン 海老原 さやか

コペンハーゲンから40Km、美しい港町エスパゲーアにある公立学校併設の特別支援学校に勤務。自閉症、知的障害、重度重複心身障害の生徒約70名が在籍。コミュニケーション、感覚統合、身体的トレーニングを柱とした教育を通し、現在と少し先と将来を見据え、生徒が豊かな人生を送れるよう、日々実践を重ねている。重度重複心身障害児クラスの担任。美術も担当。

趣味はジョギング。コックの夫との共通の趣味は「食」。作るのも食べるのも大好き。サッカー少年の9歳とロックスターを夢見る5歳の息子がいる。東京都板橋区出身。

ムンクイエンセン 宮腰 花絵

伝統とモダンが融合された美しい街、コペンハーゲン市にある公立保育園に勤務。同園はイタリアのレッジョエミリア教育にインスピレーションを受け、子供たちそれぞれの個性や意思に寄り添い、学びへの探求を尊重した保育を実践している。また、描画を中心とした造形表現活動にも積極的に取り組んでいる。現在8か月から2歳半までの13人のクラス担任。

おたく気質でおしゃべりな9歳とダンスに夢中な4歳の息子たち、特技が料理と整理整頓な夫との4人暮らし。たまの息抜き方法は夫婦でカフェ巡り。埼玉県所沢市出身。

(本記事は、2017年8月に『くらしと仕事』に掲載した内容を、一部編集の上で投稿しています)

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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