チェルシーにCL制覇の可能性は?トゥヘル就任後の「勝率77%」と指揮官のマネジメント思考。
チェルシーが、ビッグイヤー獲得に向けて少しずつ可能性を高めてきている。
チェルシーはチャンピオンズリーグ準々決勝でポルトと対戦。ラウンド16でユヴェントスを撃破したポルトを相手にアウェーのファーストレグで2−0と勝利を収め、4強入りに大きな一歩を踏んだ。
■困難なマネジメント
現代フットボールにおいて、最も重要なのは選手のマネジメントだ。
ハンス=ディーター・フリック監督(バイエルン・ミュンヘン)、ユルゲン・クロップ監督(リヴァプール)、ジネディーヌ・ジダン監督(レアル・マドリー)...。近年、チャンピオンズリーグを制したチームには、選手の士気を高められる指揮官がいた。
「23人のグループがあり、同じ方向に向かっている。私が指導者の資格取得コースで何を学んだかといえば、選手にはいろいろなタイプがいるということだ。リスペクトや忠誠心から監督に従う選手もいれば、自分に何をしてくれるかで振る舞いを変える選手がいる。後者に関しては、説得を試みなければいけない」
「あとは、常に問題をつくるような選手がいる。そういった事柄から、監督はどこにアプローチをしていくかを決める必要がある。『僕たちは仲間だ。一緒に勝利を目指そう』という考えは忘れなくてはならない」
2013年にフランス『レキップ』のインタビューに応じたジダン監督は、そのように語っている。選手のマネジメントは難しい。チャンピオンズリーグで3連覇を達成したジダン監督でさえ、ガレス・ベイルやハメス・ロドリゲスの扱いに苦労した。
一方、数カ月でチームを変えてしまえるような指揮官がいる。トーマス・トゥヘル監督だ。
1月26日にチェルシーの就任したトゥヘル監督はそこから16試合で12勝3分け1敗という戦績を残している。勝率は77%という驚異的な数字だ。その間にリヴァプール、アトレティコ・マドリー、トッテナムとビッグクラブを倒している。
クラブの象徴的存在だったフランク・ランパード前監督の退任は予期せぬ出来事だった。しかしながらトゥヘル監督の到着で調子が上向きになったのは確かだ。
ティモ・ヴェルナー、カイ・ハフェルツ、ハキミ・シィエフ、ベン・チルウェル、エドゥアルド・メンディ、チアゴ・シウバ...。この夏にチェルシーは大型補強を敢行した。補強資金2億4700万ユーロを(約316億円)投じて強化を図った。
ヴェルナー、ハフェルツ、シィエフは他国リーグから来たアタッカーだった。前任者のランパードは彼らを適応させなければいけなかった。加えてメイソン・マウント、カラム・ハドソン=オドイ、タイミー・エイブラムら生え抜きの若手と彼らを融合させなければならなかった。次第に土台から崩れ、守備が崩壊し、指揮官解任という答えが導き出された。
トゥヘル監督の就任で、チェルシーが取り組んだのは「プランA」の再構築である。【3-4-2-1】へのシステムチェンジが行われた。後方からのビルドアップが洗練され、マテオ・コバチッチとジョルジーニョのダブルボランチの配球力が光るようになった。
ボールを奪われたら素早く圧縮して回収にチャレンジする。近年のドイツ的な戦い方にヴェルナーやハフェルツが恩恵を受けた。ただ、何より大きいのはマルコス・アロンソとセサル・アスピリクエタの存在だ。
ランパード前監督の下では冷遇されていたM・アロンソだが、トゥヘル監督は彼を重宝している。「マルコスは前進しなければいけなかった。精神的な強さがあると思っていたし、ウィングバックのポジションに適した選手だと思っていた。チルウェルも素晴らしい選手で、私は彼がいてくれてうれしい。しかしマルコスの方がウィングバックでのプレーに慣れている。(アントニオ・)コンテ監督の時のチェルシーの試合をたくさん見た。守備力と得点力があり、ウィングバックで違いをつくってくれる」とはトゥヘル監督の弁だ。
■重宝される選手
そして、アスピリクエタだ。ロベルト・ディ・マッテオ、ラファ・ベニテス、ジョゼ・モウリーニョ、コンテ、マウリシオ・サッリ、ランパード、トゥヘル。2012年夏にチェルシーに加入して以降、多くの監督の下でプレーしてきて、今季プレミアリーグ第30節終了時点で公式戦416試合に出場している。
「トゥヘルが来てから、ソリッドさが取り戻された。相手のゴールチャンスは少なくなった。それはグループの仕事ぶりの証明だ。前線のアタッカーから最後尾のディフェンダーまで、全員の仕事だ。トゥヘルはボール保持時・ボール非保持時といずれのシチュエーションでも試合を支配しようとする。選手たちの動きに常に注意を払っている。それから、どうやって攻撃して相手にダメージを与えるかだ。僕たちは彼のコンセプトを吸収する段階にいる。休みなく実行しなければいけない。その中で勝利は僕たちを同じ方向に向かわせてくれる」とはアスピリクエタの言葉だ。
トゥヘル監督はパリ・サンジェルマンでフアン・ベルナト、パブロ・サラビア、アンデル・エレーラに信頼を置いていた。チェルシーではM・アロンソやアスピリクエタが重用されている。
「アスピリクエタが11人いれば、チャンピオンズリーグで優勝できるだろう」
2013-14シーズン、モウリーニョ監督は豪語した。「私は彼のような選手を好む。フットボールは才能だけで決まるものではない。強い個性とメンタルが必要なんだ。アスピリクエタには、それがある」と付け加えた。
アスピリクエタを11人揃えることはできない。だが各選手の適性を引き出せば勝利に近づける。トゥヘル監督はそれを証明している。