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学びの不安・心の不安は置き去りに?:一斉休校後の迷走の中で取り残される子ども・若者たちへの支援策

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 2月27日の総理による突然の一斉休校宣言、そして国民への現金給付をめぐる議論の迷走の中で、子ども・若者の不安が置き去りにされている。

■子ども・若者にのしかかる3つの不安:暮らし・学び、そして心

 大きく言えば、一斉休校後の子ども・若者たちには、3つの不安がのしかかっている。暮らしの不安、学びの不安、心の不安、である。

 暮らしの不安は、現金給付によってある程度もちこたえることができるかもしれない。しかしタイミングが遅すぎるのだ。

 一斉休校によって、いちばん最初に経済的打撃を受けたのは子育て世帯である。3月からの休校はこの記事を書いている時点で50日に迫る。

 食費に行き詰まり、親が食事を食べず子どもの昼食に充てる報道は、多くの子ども・若者支援団体の心配していた通りの厳しい状況が進行してしまっていることを示している(「夕飯抜いて子の昼食に 給食ない1カ月、4キロやせた母」朝日新聞デジタル4月15日配信記事)。

 子育て世帯への現金給付は、親子の命をつなぐためにも一刻も早く行われるべき施策である。

 しかし、そのいっぽうで、子ども・若者自身にのしかかる学びと心の不安に、政策も社会も正面から向き合うことはできていないようにも見える。

■高校生調査があきらかにする「学びの不安」と「心の不安」

 首都圏と東北で困窮世帯を中心に学習支援や居場所提供に実績を持つNPO法人キッズドアは、高校生と保護者を対象としたアンケート調査の結果を4月13日に公表した。

 通常キッズドアの学習会や居場所に通っている低所得世帯の高校生・高等専門学校生とSNSなどで調査を知った一般の高校生を対象とした調査であり、回答者は74名と多くはないものの、一斉休校後の子ども・若者の現状、とくに低所得世帯の若者の現状を把握することのできる調査結果が示されている。

 このグラフは「今、あなたが不安に感じていることは何ですか?(いくつでも)」への回答である。

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グラフ1 NPO法人キッズドア「高校生対象:新型コロナウイルス の影響による生活状況アンケート」より

 

 「コロナウィルスに感染してしまうこと」(43人)、「運動不足などで不健康になるのでは(38人)」、「休校で生活リズムが崩れ、学校が始まってもうまく戻れないかも(34人)」、「勉強が遅れてしまう、学力が下がる不安(34人)」、「修学旅行や体育祭など楽しみにしていた学校行事がなくなる(30人)」が、「不安に感じていること」の上位5項目となっている。

 また18名が「親の収入が減ってしまう、またがすでに減っている」、16名が「自分(高校生)のアルバイトが減ったり、無くなったりするのでは」、とお金の不安をかかえていることもわかる。

 勉強に関する不安は、74名中30名と半数弱が回答しているにすぎないのではないか、とも思われるかもしれない。

 だが、コロナウィルスに感染するかもしれない、外に出ることもままならない、という不安やストレスが高校生たちの日常をまず塗りつぶしているのである。

 私がゼミの大学生たちと接していて(もちろんオンライン上で)分かるのは、自分が感染するという不安以上に、家族を感染させてしまうのではないか、という不安が強いということである。

 同居したり近所に住む祖父母のいる学生たちは、会わない、接触しない努力を最大限がんばっている。

 グラフ1の下部には、「学校いつ始まるか、感染が収束していないのに学校が再開されたら怖い、家にいることが辛い」という少数意見が示されているが、揺れうごく子ども・若者の気持ちをよくあらわしている。

 感染リスクを考えれば、あまりに早い学校再開は怖い、でもずっと家に居続けることもつらい、できれば学校に行きたい、という状況に多くの子ども・若者は置かれているのではないだろうか?

 「若者が感染を拡大する」として、3月2日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が「「新型コロナウイルス感染症対策の見解/6.全国の若者の皆さんへのお願い」」という、メッセージを出した。

 一部のテレビ報道などで騒がれているような遊びまわる若者、というようなイメージとは異なり、多くの若者はそのメッセージを正しく受け止め、だからこそ感染の不安を強く持っているというのが、実際に若者とかかわっている私の見解である。

 感染拡大防止のために休校を求め、茨城県での高校生ストライキはじめ、少なくとも14の県(北海道、岩手、山形、福島、新潟、静岡、愛知、三重、和歌山、京都、兵庫、広島、大分、長崎)での休校に関する高校生世代の署名活動がひろがっている(室橋祐貴「コロナショックで進む『若者の政治参加』。今後意識したい『参画』のあり方」、およびニュース検索で筆者確認ができた自治体)。

 感染のリスクや、医療崩壊を防ぐことの重要性を正しく理解していればこその行動であり、大人たちはこうした高校生たちの「声」や行動に向き合わなければならない。

 しかし、5月以降も休校が続くことになれば、勉強に関する不安や、学校に行くこともできず、友達と会えない不安、部活や学校行事も楽しむことができないストレスや不安が、一気に子どもや若者の中で、そして保護者の中でもふくれあがることは想像に難くない。

 暮らしの不安が、学びの不安や心の不安を加速させて、家族内の暴発を招いてしまうかもしれない。

 

■学びの不安と心の不安をいかに解消するか?:子ども・若者に向き合う丁寧な支援を

 では、子ども・若者の学びの不安、心の不安を、どのように解消していくことができるのだろうか?

 率直に言うと私自身は、休校は長期化する、もしくは断続化する可能性も高いと考えている。

 新型コロナウィルスは自然災害の多い日本でもかつて経験したことのない大規模ハザードであるからこそ、子ども・若者の不安に丁寧に柔軟に向き合い、支援することが、子どもたちにかかわるすべての大人に求められていることである。

 キッズドアの「生活状況アンケート」からは、以下のような若者たちのニーズや気持ちがあきらかにされている。高校生世代の声ではあるが、子どもたちがいま必要としている支援を考えるうえでも大切な意見表明である。

 大きくわけると5つのニーズに分けられるだろう。

 (1)居場所のニーズ、(2)学校に行きたいというニーズ、(3)オンライン学習・支援へのニーズ、(4)学校に行きたくないというニーズ、(5)教育費・生活費支援へのニーズ、である。

(1)居場所のニーズ

 まず当面のニーズの中で、重要なものは、(1)居場所のニーズではないか、と思われる。とくに困窮世帯の子ども・若者にとって、家庭は必ずしも安全でも居心地のいい場所でもない場合もあるのだ。

 高校生たちの意見は次のようなものである。

  • 家から逃げる場所(学校、地域の施設)などもすべて休校・休館になったため、どこにもいく場所がありません。もちろんコロナウイルスの対策もするべきと思っていますが、それ以前に家が辛い自分みたいな高校生は、環境や経済的に生きていけなくなりそうです。支援に繋げてほしいです。
  • 子供食堂の再開。家に居場所がない子たちのことを考えた対策をしてほしい
  • ネグレクト等の理由により家にいることが辛い高校生のための居場所の確保。
  • 高校生が昼・夜・平日・休日問わず、歩いて行ける範囲で、無料でいられる場所を開いてほしい。

(2)学校に行きたいというニーズ

 学校は学びの場であるが、それ以上に子ども・若者にとっては大切な居場所となっている場合も多い。またとくに、進学を考える中高生にとっては、学校で学べない焦りや学びたい思いは日々強くなっている。

 以下の意見には、受験への心配、勉強したいという思い、それだけでなく先生とのつながりを求める気持ち、学校行事がなくなってしまう悲しみなど、学校に行きたいという思いが伝わってくるのではないだろうか。

 友達同士はSNSでつながる時代であるが、それでも学校に行きたい、学びたい、教師や生徒でともに活動をしたいという思いの子ども・若者も多いであろう実態をうがかわせる。

  • 早く学校で勉強させて欲しい!!
  • 学校に行きたい。
  • 楽しみにしていた行事がなくなり、異動になった大好きな先生とはサヨナラも言えず、いいこと一つもない!
  • 先生方が今どうしているか生徒にもわかるとメンタル面の支えになるかもしれない。
  • 休校が長すぎる、限られた学校生活で楽しみにしていた行事がなくなるのだけは避けたかった。せめて延期にして欲しかった。
  • 都立高校がコロナ休み延長との事だが、私立の人たちとの学力の差が広がることに不安がある。夏休みを減らして学校へ行くとしても、大学受験を考えてる都立高校の人達はかなり不利になるとおもうのだが、進学の仕方がどのようになるのかが気になる。
  • 大学受験にどう響くのかが少し気になります。あとは、行事にも全力で取り組む学校なのでそれらがなくなるのだけは防いでほしいです。

(3)オンライン学習・支援へのニーズ

 一斉休校の中で、オンライン学習・支援へのニーズも見られる。休校の長期化、もしくは断続化を視野に入れると、現実的には、オンライン学習環境の整備は急がれる。

 

 しかし、オンラインを活用すれば、授業だけでなく、ホームルームの実施も可能になる。教員や生徒同士の心のつながりをつくることは、生徒の安心につながる。また個別の生徒への進路指導や相談などの多くのアプローチが可能になる。

 高校生たちの声はとにかくオンラインでいいから学びたい、という切実な思いとともに、学び以外の支援も、オンラインでなんとかならないか、ということを示しているように思われる。

  • インターネット授業を開始できるような環境整備。
  • 公立、私立問わずオンラインで授業配信を行えるシステムの整備を行って欲しい。また、学習状況などの学生に関わる実態の調査を公的に行って欲しい。
  • 担任の先生がオンラインで授業やホームルームをしてくれていたのですが、学校の方から止めるように言われて今は学校に秘密で行っています。生徒はそれのおかげで助かっているのに、なぜ止められるのかがわかりません。県から公式にオンライン授業の許可を出していただきたいです。

 とくに最後の意見は、生徒たちの心の不安に寄り添うアプローチとして、オンライン授業だけでなくオンラインホームルームなどのアプローチが必要とされていることを示しているという意味で重要である。

 もっとも学校に秘密でのオンライン授業は、この担任の先生が私の教え子であれば、心配する状況ではある。

 教育委員会、学校法人や各学校長が、教員やスクールソーシャルワーカー・カウンセラー等のオンライン支援・授業等に関して、一刻も早く柔軟な対応をとることが必要とされる状況である。

(4)学校に行きたくないというニーズ

 また決して忘れるべきではないのが、新型コロナウィルスの感染を恐れ、学校に行きたくない、学校を再開すべきではない、という意見を持つ子ども・若者もいることである。保護者にもこうした意見はあるだろう。

 地域によっては新規感染者が発生しなければ、今後の学校再開は行われていくだろう。しかし、生徒自身や家族に基礎疾患があったり、高齢者と同居していれば、学校に行くこと自体が大きな不安となって子ども・若者や保護者にのしかかる。

 私自身は、休校再開がされても、学校に行くことへの不安があれば、学校はオンラインで授業や個別相談を提供するべきであると考えている。

 都市部を中心に1学級あたりの生徒数が先進国の中でも多い日本で、教室に生徒が「密集」することは、感染を恐れる生徒や家族にとっては不安の材料でしかない。個別の生徒や家族の不安に寄り添う柔軟な姿勢が学校にも必要とされるだろう。

 現時点で文部科学省「新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン」には、学校での授業とオンライン授業を並行できる方針は示されていない。

 また、部活動への不安を述べる高校生もおり、たとえ学校で授業を受けられていても、密集・密接しやすい部活動への参加等についても、文部科学省・教育委員会のガイドライン化や学校現場での慎重な判断が求められるといえる。

  • 学校再開は、怖いです。電車通学は特に怖いです。
  • コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、影響は大きいが必要があれば期間の延長などをしていくべきである。
  • 安全になるまで、学校は休校にしてください。他の人にうつしたくないです。学校再開は、怖いです。お願いします。
  • 私の学校では未だに根性論が残っているため、体調不良で部活を休んだ人がいると顧問が不機嫌になり「体調不良だからって家に返すな」と部長副部長に言う部活があります。なので、部活は禁止や1時間のみなど具体策を出して欲しいです。

 

(5)教育費・生活費支援へのニーズ

 困窮世帯の子ども・若者、とくに児童手当や就学援助の対象外となってしまう高校生以上世代にとっては、教育費への不安は大きい。

 また困窮世帯の高校生や大学生等のアルバイトは、教育費というよりは家計の生計維持費になっている場合もしばしばあり、休業補償のあり方も問われるところである。

 文部科学省「新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン」にも、「その他」として入学料や授業料、就学援助制度や高校生等への修学支援制度(高校無償化)について、学校や教育委員会等の機関が柔軟な対応をとるように明記されているが、その実施状況についてはわからず、地域や学校によっては必要な支援につながれない子ども・若者が出現していることも心配される。

 大学生のアルバイトによる収入減少は、日本学生支援機構の貸与奨学金の緊急採用の対象ともなっている。

 しかし高校・大学生世代のアルバイトが生計維持費用や学習のための収入源であることも考えると、若者世代への支援策のあり方の充実は、国民一律現金給付以外にも検討されるべきことがらといえる。

  • アルバイトなのでバイトが減った分だけ収入も減り、家賃や学費を払い続けられるかわかりません。
  • 経済的支援や食事のサポートがほしい。
  • 経済的に苦しい家庭への有料教材の実質無料化
  • 大学の授業料免除や給付型の奨学金制度を充実させて欲しいです。

■最後に:前例のない大規模ハザードであるからこそ、丁寧に柔軟に寄り添う姿勢を

 新型コロナウィルスは現代日本社会がはじめて経験する前例のない大規模ハザードであるからこそ、とくに学校や教育に関わる大人が、子ども・若者の学びの不安、心の不安に丁寧に柔軟に寄り添っていく姿勢が重要になる。

 とくに、家が居場所ではない子ども・若者のために、どのような支援が可能であるのか、様々な支援団体が模索を続けている。オンラインでの居場所も重要ではあるものの、感染リスクにも配慮しながら子どもや若者を守る居場所の再開・開設は急務の課題であると思われる。

 また学校再開後の学校運営についても、個人的にはオンライン授業以外にも、分散登校、クラスや学年を午前と午後に分けるなどの二部式授業など、様々な工夫がありうると考える。

 全員が同じ時間に登校し、狭い教室の中で密集して授業を受けることを、当然の前提としてきた2月までの「日本の学校のあたりまえ」は、しばらく通用しない。

 この事態の中で問われるのは大人のやさしさとタフネスである。学校や教育委員会だって、文部科学省だって前例のない大規模ハザードになんとか対応しようと、日々頑張って、そして疲弊しているのもわかっている。

 しかし、一斉休校以降、もっとも長い我慢を強いられているのは子ども・若者なのである。

 子ども・若者の不安をこの状況だからこそ、受け止め、寄り添う新しい「日本の教育のあたりまえ」を見つけていく気持ちを心の中に灯しておいていただけないだろうか。

 2月までのように、大人が「日本の学校あたりまえ」をふりかざすのを、少し立ち止まって。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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