WBC初制覇から8年、忘れえぬミック・ジャガーの「祝福」
日米球界ともにオープン戦もたけなわ! いよいよ開幕も近づいてきましたが、「BASEBALL NOW and THEN」と題しながら、これまであまり「THEN」の話ができていませんでしたので、今日は少しだけ時計の針を巻き戻してみましょう。と言っても野球の話のような、そうでないような……。
初めて開催されたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で決勝戦に駒を進めた「侍ジャパン」がキューバを10対6で下し、初代王者に輝いたのが今から8年前の今日、2006年3月21日(日本時間)のことでした。ちょうどその頃、日本を訪れていた大物ロックバンドがいました。今年、2014年にもジャパンツアーを行ったローリング・ストーンズです。
ミック・ジャガーから飛び出した意外な言葉
2006年の日本公演は、ストーンズにとって5度目の来日でした。その初日はWBC決勝戦の翌日の3月22日、場所は東京ドーム。彼らのライブでは、ボーカルのミック・ジャガーが公演地ごとに現地の言葉を交えてMCを行うのが恒例ですが、この日は4曲目の「Oh No、ノット・ユー・アゲイン」を歌い終えたところで、意外な言葉が飛び出してきました。
「ニホン、ユウショウ、オメデトウ! ジュッタイロク……スゴイ!」
彼は確かにそう言ったのです。「日本優勝」、「10対6」。具体的に何のことか言わなくても、それが日本のWBC優勝を意味しているのは間違いありません。思いもよらぬミックからの祝福に、観ているこちらのテンションは一気に上がりました。あの感激は今でも忘れることができません。
しかし……場内の反応はというと、正直そこまでの盛り上がりはありませんでした。2日前のテレビ中継では関東地区で43.4%、瞬間最高では56.0%という高視聴率を叩き出したとはいえ、ストーンズ・ファンの関心はそこまで高くなかったのでしょうか? いやいや、おそらく観客の大半はまさかあのミック・ジャガーからベースボールの話題が出てくるとは予想もできず、とっさには何のことわからずあっけにとられてしまったのではないでしょうか。
まあ、確かにストーンズと野球ってあまり結びつかないですよね? そもそもイギリス出身のバンドですし、サッカーのワールドカップ会場にミックが現れたと話題になったことはありましたが、野球との接点となるとほとんど思い浮かびません。かろうじて1994年のアルバム「ヴードゥー・ラウンジ」の収録曲で、今でもライブで頻繁に演奏される「ユー・ガット・ミー・ロッキング」の歌詞に「オレはスランプに陥っているピッチャーだった」という歌詞が出てくるぐらいでしょうか。
「ベロマーク」に野球のボール
ただし、彼らがその前年の2005年から行っていた「ア・ビガー・バン・ツアー」では、全米公演の会場の多くが野球場だったこともあってか、彼らの有名な「ベロマーク(TANGUE AND LIPS)」に野球のボールがあしらわれたロゴが採用されていたのです。しかも、Tシャツなどは公演地ごとに地元の野球チームを意識したデザインになっていて、ボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークでの公演ならレッドソックス仕様、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地SBCパーク(現AT&Tパーク)での公演ならジャイアンツ仕様、日本でも東京ドームでは読売ジャイアンツ、ナゴヤドームでは中日ドラゴンズ、さらに札幌ドームでは北海道日本ハムファイターズを意識したカラーリングのTシャツが販売されていました。
実はミック・ジャガーは公演の2日前に行われた記者会見で、翌日に控えていたWBC決勝戦について質問が及ぶと「日本はプロのチームで、キューバはアマチュアのチーム。かなりスタイルの違うチーム同士が戦うので、それも楽しみたい」と答えていたそうです。それを考えると、この「オメデトウ」発言もけっして唐突なものではなかったと言えるのかもしれません。ただ、いかんせん観客の心の準備ができていなかった。その結果、軽く「すべった」感じになってしまったのは、さすがのミックも計算外だったと思います。
あれから8年…
侍ジャパンのナインによる歓喜の胴上げで、王貞治監督がロサンゼルスの夜空に舞ってから8年。その間に2009年の第2回WBCで連覇を果たした日本代表も、昨年の第3回大会では準決勝で敗れ去りました。一方、ミック・ジャガーも含め3人のメンバーが70歳代に突入したストーンズは今年、8年ぶりの来日公演を行い、その後も中国、シンガポールを巡り、さらにオーストラリア、ニュージーランドとツアーを続ける予定でした。ところが、日本時間で今月18日にミック・ジャガーの交際相手であるローレン・スコットさんの訃報が伝えられ、ツアーは無期限の延期に……。
筆者もそれまでは、第4回WBCが行われる2017年にはまたストーンズが来日し、73歳になったミックが侍ジャパンの王座返り咲きを再びステージ上で祝ってくれたら……などと無邪気に考えていたのですが、愛する女性に突然この世を去られてしまったミックの心情を察すると、そんなことは言っていられなくなりました。今はただスコットさんのご冥福を祈りつつ、ミック・ジャガーがこの悲しみを乗り越える日が来るのを待つほかありません。