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高齢者施設でのコロナ集団感染を防ぐには

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

この夏、沖縄県では、少なからぬ高齢者施設において新型コロナの発生を認めました。

デイサービスで利用者が感染して持ち込んだ事例、病院から退院した利用者が発症してしまった事例もありました。しかし、ほとんどの事例が職員の発症がきっかけでした。一方、家族の面会による持ち込みが心配されていましたが、私の知る限り、沖縄県内では確認されていません。

誤解がないように・・・ 私は職員を批判するつもりはありません。結局のところ、どんなに面会制限をしたとしても、外の世界とつながっている職員がウイルス伝播のルートになってしまうのです。症状を認めてすぐに休んだとしても、その2日前からコロナは感染力を有するため、施設内での感染が発生してしまいます。

ただ、そこから集団感染へと発展させてしまうか、あるいは最小限で封じ込めていくかには、それなりの理由があるように見受けられました。もちろん、致し方ないところはあります。しかし、「致し方ない」では済まされないほどの健康被害(ときに死亡)になることもあるため、これまで高齢者施設の支援に関わってきた立場で、気づかされたこと、必要だと思っていることをお話ししたいと思います。

◆発生するのが当たり前

訪問診療で伺っている高齢者施設の看護師さんが、先日、こんなことを言っておられました。

「利用者さんが発熱したときには、コロナに違いないと思って調べてもらうんですが、いつも陰性なんですよね。こんなに地域で流行しているのに、どうして私の施設ではコロナが出ないんでしょうね?」

これって、すごく大切な感覚だと思います。つまり、日ごろから発生することを想定しながら仕事ができているかってこと。

「自分のところでコロナが出るはずがない」と思っている施設ほど、集団感染が起きてしまいます。いくら水際対策をバッチリやってても、やっぱりコロナは入ってくるものです。防ぎきれません。そのことに目を背けていると、大きな問題になってから、ようやく現実を直視することになってしまいます。

◆症状を認めた職員はすぐ検査

介護従事者が発熱して「コロナかもしれない」と思ったのなら、保健所に電話して「コロナでしょうか?」と相談することは、まったくお勧めしません。やめた方がいいです。なぜなら、保健所が何と言おうと検査を受けた方がいいからです。

多くの場合、適切な対応が行われているはずです。しかし、とても残念なことですが、保健所から「検査対象ではない」と告げられ、「じゃあ、働いていいんだ」と職場復帰して、高齢者施設での集団感染へと発展してしまった事例もあります。

保健所が「検査対象ではない」と言うのは、「行政検査の対象ではない」という意味に過ぎません。コロナの診療をしている医療機関を受診すれば、医師の判断に基づいて検査が受けられます。

いまどき、他の感染症の診断がつかないのであれば、介護従事者に対するコロナのPCR検査(または抗原検査)を躊躇する医師はいないでしょう。介護従事者の皆さん、どうか保健所に相談することなく、医療機関に直接電話して受診相談してください。受診先がみつからないときは、県が設置するコールセンターに電話してみてください。

◆症状を認めた職員は仕事を休む

介護従事者に発熱や呼吸器症状を認めたら、コロナかどうかによらず仕事を休むのが原則です。もちろん、PCR検査を受けていただきたいのですが、いろいろな事情で受診を躊躇される方がいるようです。あるいは、受診先の医療機関で「コロナじゃないよ」と言われ、検査が受けられないことも確かにあります。

どうか症状を認めるうちは仕事を休んでください。できれば、発症してから7日間は休みましょう。その後は仕事に復帰することも考えられますが、さらに7日間はマスクを確実に着用し、手洗いを徹底してください。身体を密着させるようなケアは避けることが賢明です。

症状を認めながらも働いてしまう事例には、アルバイトの職員(とくに夜勤)に多かった印象があります。代わりが見つかりにくいことや、休むと収入に直結してしまうこともあるのでしょう。そして、集団感染が引き起こされるのです。

事業所として、アルバイトが休みやすい体制をとり、月の収入が安定するような支援を考えていただければと思います。これは事業所と利用者を守るうえで大切なことです。

◆検査対象者の判定は広めにとる

施設内での感染が収まらない要因として、発生当初における検査対象者の判定が狭すぎることがあります。これ、結構あります。

たとえば、有料老人ホームで職員が発症したとします。保健所に電話をかけると、「発症2日前からの職員の就労内容を確認し、濃厚接触者のリストアップをしてください」と言われます。

真面目な施設は、職員への聞き取りを行いつつ、食事、トイレ、入浴などの介助にあたった利用者をリストアップします。そして、保健所に報告すると、「では、その方々が濃厚接触者です。検査が受けられるよう医療機関に手配しますね」と言われます。

たしかに、この方法で上手くいくかもしれません。ただ、実際には、リストアップした以外の利用者や職員から次々に発症し、収拾がつかなくなることも少なくありません。

若い人たちばかりの職場ならまだしも、高齢者施設でイチかバチかの賭けをするべきではありません。施設内でコロナを確認してしまったのなら、そのフロア全体の利用者と職員に検査をしてください。最初に診断した職員が第一例だと思いこまないことです。

そして、フロア全体で検査をして陽性者が出たときは、3~7日後に改めてフロア全体に検査することをお勧めします。すべてが陰性の結果となるまで、繰り返す必要があります。これは、米国CDCのガイドラインにも記載されているナーシングホームにおける検査戦略です。

高齢者施設とは、もっとも死亡するリスクの高い人たちが集団生活をしている場なんです。この施設内での発生が疑われた時点で、PCR検査については躊躇することなく、広範囲かつ繰り返し実施される必要があります。これは死亡者を減らすうえで、極めて優先度の高い施策といえます。

◆通所施設における定期検査を検討する

通所施設で集団感染が発生すると、入所施設や家庭へと感染が拡がるリスクが生じ、地域への大きなインパクトとなります。

ある沖縄県内のデイサービスでは、利用者25人、職員9人が感染する大きな集団感染となっています。多くの濃厚接触者も発生させながら、サービス休止を余儀なくされたため、今度は訪問介護事業所が混乱しました。

たとえば、在宅療養していた濃厚接触者がコロナ発症したため、訪問していたヘルパーが濃厚接触者になってしまうという事態も生じました。ケアマネが濃厚接触者のケアプランの立て方を理解していなかったことも残念でした。

この施設を訪れてお話を伺いましたが、通所施設は地域社会に開かれており、ウイルスが持ち込まれるリスクが高く、やっぱり感染対策には限界があると強く感じました。マスクを着用できない利用者も少なくないなか、送迎、食事、リハなど感染する機会が多いのです。

さらに、この施設では、症状を有する利用者であっても(家庭の介護力が低いことから)受け入れていたという良心的な側面がありました。いわば病児保育のように、体調不良の高齢者の預かり先を別に確保することも、市町村行政は考えてほしいと思います。すべてが病院では、地域医療が持ちませんので・・・。

私なりに、いくつかの施設の支援に関わってきて感じるのは、「できるはずだ」と感染対策の旗をふるばかりでなく、もっと複合的に集団感染を防ぐための支援を考えるべきだということ。そのひとつの方法として、地域でコロナが流行している状況下では、通所施設の職員に対する定期的なPCR検査を検討すべきかもしれません。

◆イギリスの教訓に学ぶ

最後に、イギリス政府が実施した高齢者施設への調査結果を紹介します。4月末には、高齢者施設の入居者で死亡した人が1週間に2,000人以上にのぼっていました(沖縄県で、これまで高齢者施設の入居者で死亡したのは4人)。この不幸を繰り返さないため、5月11日から6月7日にかけて、9,081施設の入居者と職員を対象に調査を行ったのです(Department of Health & Social Care Official Statistics: Vivaldi 1: COVID-19 care homes study report, 3 July 2020)。

調査結果の概要は以下のとおり。

  • 172,066人の入居者のうち6,747人(3.9%)が陽性であった。
  • 症状のない163,945人の入居者のうち5,455人(3.3%)が陽性であった。
  • 陽性だった6,747人の入居者のうち5,455人(80.9%)が無症候性であった。
  • 症状のない210,620人の職員のうち2,567人(1.2%)が陽性であった。

多変量解析により分析したところ。

  • 複数のケア環境で働く臨時職員が、コロナに感染しているリスクが高い。
  • 職員の感染は入居者の感染リスクであり、入居者の感染は職員の感染リスクとなっている。しかし、職員が入居者に感染させるリスクの方が大きい。
  • 新規の入居者および病院から退院して戻ってくる入居者が、施設における感染伝播のリスクとなっている。
  • 施設内において感染伝播をもたらす重要なリスクは、職員に集中している。

こうした結果をもとに、イギリス政府は、この7月より、介護施設で働く職員に対する毎週のPCR検査を実施するようになっています。

この制度を開始するときの、ヘレン・ワットリー社会福祉大臣のスピーチが素晴らしいので紹介して終わります。

「介護現場はパンデミックの最前線にあり、感染した場合のリスクが最も高い人々を支えている。彼らを守ることこそが国家の優先事項であり、彼らを定期的に検査することは意義のあることだ。これにより、介護職員はウイルスを媒介しているのではないかと不安になることなく、これからも最高のケアを提供することができるだろう。」

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沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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