日本人初のミシュラン一つ星シェフ「持ち帰りが前提ではなく食べ切るのが基本」mottECO FESTA
2023年7月24日、mottECO FESTA(モッテコフェスタ)2023が東京都のホテルメトロポリタン エドモントで開催された(1)。
「mottECO(モッテコ)」とは、2020年10月、環境省が実施したドギーバッグのアイディアコンテストで大賞を受賞した名称だ(2)。
「mottECO」は、「もっとエコ」「持って帰ろう」というメッセージが込められており、ロゴデザインには、食べ残しを持ち帰ると美味しくて笑顔、無駄が無くて笑顔、自分もエコに貢献できたことに笑顔になることを表現したデザインになっている(2)。
外食産業では、調理場から出る食品ロスのほかに、客の食べ残しによる食品ロスが大きな課題となっている。「mottECO」は、その食べ残しによる食品ロスの廃棄を、できる限り減らすことができる。
11名の登壇者、32の展示ブース、19種類の試食提供
11名の登壇者、32のブースが出され、開催時間は午前11時から14時までの3時間。そのほか、日本ホテル(株)ホテルメトロポリタン エドモントをはじめとする5つの組織による19種類の試食の提供があった(立食)。
パネルディスカッションは、55分の中で8名が話すので、一人あたりの平均持ち時間は7分程度となった。
「文部科学省も持ち帰り活動に加わってほしい」
印象に残ったのは、びっくりドンキー(株式会社アレフ)の高田あかね氏から、(この活動に)文部科学省に参加してほしいという提言が出されたことである。教育を担う文部科学省が加わることで、若い世代が「持ち帰りは当たり前」という認識になるであろう、との発言だった。教育と生活が密着し、お客にとって、より便利な形になるという提案には深く共感した。
筆者は、2011年から2014年にかけての3年間、フードバンクのセカンドハーベスト・ジャパンで広報を担当しており、その間、文部科学省にある提案をしに行ったことがあった。結局、それは実現しなかったが、さまざまな社会問題は「教育」に帰結すると考える。文部科学省には積極的な姿勢で加わってほしいと願う。
2017年5月に4省庁連名で持ち帰りに関する通知を出している
ファシリテーターを務めた小林富雄教授からは、省庁が出した持ち帰りに関する通知への言及があった。
これは2017年5月16日に、消費者庁・農林水産省・環境省・厚生労働省が連名で発表した『飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項』のことである(3)(3')。筆者も何度か、これに関する記事を書いてきた(4)。
この通知が出されてから2023年ですでに6年が経過している。2020年からのコロナ禍で「テイクアウト」が主流となり、コロナ前よりは持ち帰りがしやすくなっただろうか...と思いきや、客が口をつけた「食べ残し」に関しては、持ち帰りを断る店が多い。4省庁連名の通知は意義のある内容だ。が、飲食店の責任者には普及していないことを感じる。この通知こそ、飲食業の関係者にもっと普及してほしい。
mottECOコンソーシアム立役者のセブン&アイ・フードシステムズ
小林教授から、「mottECOコンソーシアムの立役者」と紹介されて、セブン&アイ・フードシステムズの環境部会長である中上冨之氏から説明があった。
デニーズでの食品ごみの由来は大きく分けて3つあり、1つが調理場由来、2つめがコーヒーのかす、3つめがお客様の食べ残し。前者2つは対策が立てられるが、最後の食べ残しに踏み込まなければこれ以上は(食品ロスを)減らせないという状況が確認できたので取り組みを始めたとのこと。
非常に優れているのは、自社だけの活動に終わらせず、ロイヤルホストや和食の「さと」、日本ホテル、びっくりドンキー、京王プラザホテルなど、外食産業を営む他社にも声をかけ、この活動へと巻き込んでいったことである。このことが、今回の大規模なフェスタ開催にもつながったと思われる。民間企業に属していれば、自社の利益を優先しがちだが、社会的な影響の大きさも考えて、手間を惜しまずに活動を競合他社にまで広げっていったのは素晴らしい。
一方で、このような企業姿勢をグループ会社全体で、また食品業界全体で広げてほしいという思いもある。2020年9月に公正取引委員会が「大手コンビニ一店舗あたり年間468万円(中間値)の廃棄ロスを出している」と調査結果を発表してから3年経つ(5)(5')。セブン&アイ・フードシステムズの姿勢は、願わくば、セブン&アイ・ホールディングスのコンビニ業務にも波及してほしい。
食品ロスに取り組む関係者の方々は、食品ロスを減らすには「リデュース(廃棄物の発生抑制)」がコスト面でも資源持続の面でも最優先であることを理解されているはずである。まず「食品ロスを出さない」ことを優先し、過剰な食品ロスを排出している事実については、見て見ぬふりをせず、しっかり追及していただきたい。
デニーズ、ロイヤルホスト、さと、日本ホテルなどで展開
8名が登壇したパネルディスカッションの後、ロイヤルホールディングス株式会社代表取締役会長の菊地唯夫氏、国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所長の日比絵里子氏、国連食糧農業機関(FAO)日本担当親善大使で日本ホテル株式会社 ホテルメトロポリタン エドモント 統括名誉総料理長の中村勝宏氏からそれぞれ講演があった。
菊地氏からは、2022年にスタートしてから1店舗あたりのmottECO(モッテコ)利用件数は1件に満たないが、まずは始めてみることに大事な価値がある、という言葉があった。
日比氏からは、世界中で、その場でその場にあるものを食べるという在り方が少なくなってきているという話があった。日比氏は、前任地のサモアの小さな漁村の事例を共有し、新鮮で採れたての魚は値付けが高く、自分たちで食べるよりも首都のホテルやレストランへ高く売ることを選び、漁師ら自身は、タイから輸入した安いツナ缶を毎日食べているということを紹介した。コーヒーやカカオなどの換金作物だけでなく、魚のような日常的に食べるものでもそのような状況であることは知らなかった。
もったいないを活かした数々のメニューの試食
試食コーナーでは、ホテルメトロポリタン エドモントや帝国ホテル、京王プラザホテル、浅草ビューホテルなどから、もったいない食材を活かした料理がふるまわれた。筆者がアドバイザーをつとめた株式会社JTBの「ロス旅缶」(6)もブース出展し、試食が提供された。
日本ホテル株式会社、ホテルメトロポリタン エドモントの料理は、参加者に好評だった。魚や野菜の皮を活かした料理など、見た目やディスプレイも美しく、かつ食品ロスを活用したものだった。
2023年が国際雑穀年ということで、雑穀を使った数々のメニューもふるまわれた。中でも中村勝宏氏のおすすめ、「13種の雑穀と野菜のクリームスープ」は絶品で、参加者も口々に「これはどうやって作るのだろう」「おいしい」と絶賛していた。
中村勝宏氏「持ち帰りが前提でなく、食べ切るのが基本」
中村勝宏氏からは、次の言葉があった。
私は毎回これを申し上げるのですけれども、お互いに認識しておくべきことがあると思います。それは、まず持ち帰ることが前提ということではなくて、やはり食べ切ることが基本であるということです。
この言葉は腑に落ちた。
これこそ本質だと感じた。
食品ロスを減らすためには、取り組みやすいところから始めるのがいい。そして、環境配慮の優先順位である「3R(すりーあーる)」で最優先は「Reduce(廃棄物の発生抑制)」であるということ。
中村勝宏氏が常に言及しているように、持ち帰りや余らせることが前提ではなく、食べ切ること、適切な量を作って売り、買うこと。このことこそ、事業者にとっても家庭にとってもコスト削減につながり、資源を持続可能に活用することができる。もちろん、ロスをゼロにはできないから持ち帰りや再利用、リサイクルするわけだが、優先順位を把握しておくことこそ持続可能な社会につながるのだと心に留めておきたい。
参考資料
2)食べ残しの持ち帰り行為「mottECO」のロゴができました!(環境省、2020/12/15)
3)『飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項』(消費者庁・農林水産省・環境省・厚生労働省、2017/5/16)
3')飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項について(環境省、2017/5/16)
4)「食べ残しの持ち帰り」を禁止する飲食店に伝えたいこと パル通信(65)(井出留美、2022/9/2)
5)(令和2年9月2日)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について(公正取引委員会、2020/9/2)
5')コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(概要)(公正取引委員会、2020/9/2)
6)食品ロス削減の共創プロジェクト「Sustainable Voyage Project」を始動 ~第1弾として規格外野菜を活用した商品「ロス旅缶」を開発~(株式会社JTB、2023/5/23)
関連情報
世界の飢餓人口7.83億人、日本の食品ロスはどう影響する(オルタナ、2023/7/31)
「mottECO」知ってる? 食べ残しの持ち帰り→食品ロス減へ、官民連携で普及イベント(朝日新聞SDGsACTION!、2023/8/8)