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中村橋之助を突き動かす、故中村勘三郎さんの言葉

中西正男芸能記者
歌舞伎への思いを語る中村橋之助

 2016年に父・中村芝翫さん、弟の中村福之助さん、中村歌之助さんとともに4人そろっての襲名披露を行ったことでも話題になった四代目中村橋之助さん(22)。歌舞伎界のホープとして注目されていますが「オイディプスREXXX(レックス)」(12月12日~24日、神奈川・KAAT神奈川芸術劇場)で歌舞伎以外の舞台に初めて立ち、しかも、主演を務めます。新たな一歩を踏み出す根底には、叔父にあたる故中村勘三郎さんの言葉があったといいます。

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歌舞伎以外の舞台に初出演・初主演

 今回初めて歌舞伎以外の舞台をさせていただくことになり、けいこの時点から毎日新鮮なことばかりです。歌舞伎とは180度違って、もちろん戸惑うところもありますけど、それ以上に楽しさが勝ると言いますか。

 僕、お酒は大好きで飲みに行くのも好きなんですけど、歌舞伎の公演の時は忙しい時ほど飲みに行きたくなったりもする。でも、今回はこのお芝居自体にのめりこんでいるというか、毎日が新鮮で楽しいので、本当にお酒を飲みにも行かなくなりました。

母への感謝

 歌舞伎以外の舞台にも出たいという思いはずっとあったんです。今から思うと本当にありがたいばかりなんですけど、小さな頃から母がいろいろな場に連れて行ってくれてまして。お芝居もですし、スポーツも、絵画も、全てのジャンルでいろいろな場に僕たち兄弟を連れて行ってくれたんです。

 時代もあって、父は若い頃、生活をすごく制限をされていたそうでして。例えば、スキーをやってはいけないとか、テニスをしてはいけないとか。古い歌舞伎界の縛りを受けてもいたので、僕たちにはいろいろな選択肢を与えたいというのがあったようで。

 歌舞伎のニューヨーク公演に行った時も、その流れで母が僕たち兄弟3人を連れてブロードウエーのミュージカルに行ってくれたり。ただ、子どもにしたら英語も分からないし、時差で眠くてほとんど寝てしまっていたこともありましたけど(笑)、それでも、劇場の雰囲気やそこの空気を吸っておく。これは今になると、すごく貴重な経験だと痛感しています。

 その影響もあって、4歳で初舞台を踏んで、そこから高校生くらいになってくると、歌舞伎の世界とは少し違う感じ方をしたりすることもありまして。さらに、父が歌舞伎以外のお芝居に出るのを見に行くと、今度は自分が歌舞伎以外のお芝居に出るイメージがグッと膨らんできて「自分もいつかは」という思いが大きくなってきました。

歌舞伎以外の“引き出し”

 実際、父や(故中村)勘三郎の伯父、(いとこにあたる)勘九郎の兄とかは、おけいこ場でも僕ではなかなか考えつかないようなアイデアをたくさん出してくれる。やはり、それは歌舞伎以外の舞台で得た“引き出し”なんだなと思います。

 今、僕が目標にしているのが勘九郎の兄なんです。一番近くにいる輝いている人で、勘九郎の兄のようになりたい。いろいろな経験をして引き出しを作ってきた勘九郎の兄を追いかける第一歩というか、今公演はまさにそれができているなと感じています。

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戦力になる

 そうやって少しずつでも力をつけていって、これも以前から強く感じていることなんですけど一日でも早く「戦力になりたい」なと。戦力というのは父の戦力、そして、大きな話ですけど、歌舞伎界の戦力になりたい。

 例えば、勘三郎の伯父が座頭公演をしていた時に、勘九郎の兄が相手役であったり二番手の役をする。もしくは勘三郎の伯父が出ていない幕の主役を勘九郎の兄がする。それによって、一座に厚みが出るし、一座としてできることが圧倒的に増える。

 じゃ、今、父が座頭公演をする時に、僕が出てどれだけのことができるかというと、やっぱり僕では力不足。そこを補うために、勘九郎の兄とか、あるいは愛之助のお兄さんに出てもらうことになる。何とか、少しでも早く「橋之助がいるから、芝翫のところは大丈夫だね」と言われるようにならなければと思っています。

 この戦力という考え方は、ずっと勘三郎の伯父がとりわけ「平成中村座」の公演の時に口癖みたいに言ってまして。「平成中村座」は毎月総力戦なんです。勘三郎の伯父がいて、父がいて、中村扇雀さん、坂東 彌十郎さん、片岡亀蔵さん、勘九郎の兄、七之助の兄。ひと月開けるのにこの7人がベースのメンバー。通常の歌舞伎公演の何分の1の人数でやってますから。

 僕たち兄弟が小学生の頃から、勘三郎の伯父は初日と千秋楽は必ずご飯に連れて行ってくれまして。そこで、ほめてくれたり、怒られたりもしましたけど「とにかく早く戦力になってくれよ」といつも言われました。

 今でいうと、中村児太郎の兄、坂東新吾のお兄さん、僕、弟二人、中村虎之介くん、中村鶴松という中村座の若い世代のメンバーが入ったらより大きくなるし、その子供たちが入ったら、もっと大きくなる。そうやって一人一人の力を上げつつ、もりたてていけたらなと思っています。

ライバルとしての弟

 うちの兄弟も、基本的にはすごく仲はいいんですけど、ただ、ライバルでもありますから。父親が主役をやったら、二番手に僕が入るのか、弟が入るのか。そういう流れが今後はもっと出てくるでしょうしね。これは歌舞伎界で兄弟として生まれた以上は絶対についてまわるもの。

 三男はまだ高校生なので学業を優先している状況。三男とは歌舞伎のいろいろな話をしたりもするんですけど、二男とは、最近は細かい話はしなくなりました。少し前まではしていたんですけど、やっぱり二男にしても僕が良い役をすると悔しい気持ちが出てきているようですし、僕も二男が良い役をすると悔しい気持ちがありますし。

 「将来的に、こんなことをやりたいね」という大きな話は二男ともしますけど、現実的な近くにある公演の話とかはしなくなりました。すごくリアルな話ですけど。ただ、弟にそういう気持ちが出てきているのはうれしい話だなと思いますし、僕も負けないように頑張らないといけないと強く思っています。

 まずは、今公演でしっかりと全てを出し切って、歌舞伎以外の場でも「橋之助、良かったよ」とお客さまに思っていただけるようにする。それが今やるべきことです。

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 そして、これは個人的な話なんですけど、実はつい最近、宝塚歌劇団にハマりまして(笑)。小学校からの同級生がタカラヅカに入っていて、先日、良いお役をやるということになったので観に行ったんです。そうしたら、衝撃が走りまして!これはすごいと。

 以前も観に行ったことはあったんですけど、今回観たら、今の波長にあったのか、一気に大好きになりまして。とにかく男役さんのカッコいいなと。乙女のように見ちゃいました(笑)。実はDVDも買っているんですけど、まずはこの公演を頑張って無事に終えられたら、DVDを満喫しようと思っています(笑)。

(撮影・中西正男)

■中村橋之助(なかむら・はしのすけ)

1995年12月26日生まれ。東京都出身。父は八代目中村芝翫、母は女優・三田寛子。2000年に初代中村国生を名乗り初舞台。16年に「芸術祭十月大歌舞伎」で四代目中村橋之助を襲名する。「オイディプスREXXX(オイディプスレックス)」(12月12日~24日、KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ)で歌舞伎以外の舞台で初出演にして初主演をする。共演は南果歩、宮崎吐夢ら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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