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【哲学者が教える】自己肯定感が高まるたった1つの方法

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

ネットにはさまざまな「自己肯定感を高める方法」が紹介されています。例えば、自分自身の感情や状態を書き出す。成功体験を思い出す。仕事以外の趣味ややりたいことを見つける。肯定的な雰囲気のグループに所属するなど。

しかし、私は思うのですが、それらの方法を採ったところで自己肯定感が高まらなかった人の方が多いのではないでしょうか。

今回は、自己肯定感が高まるたった1つの方法について、哲学の見地からお話したいと思います。

自己肯定感を高めるたった1つの方法

自己肯定感を高めるたった1つの方法、それは自己肯定感とは何かと問うことです。自己肯定感という言葉はマーケティング用語という側面を持っています。つまり「雰囲気言葉」であり、それ自体はじつはさしたる意味を持っていないということです。

まず、自己というのが何なのかよくわからない。自己といえば自分のことだろうと直感する人が多いと思いますが、残念でした。例えば、大阪では自分というのは他人を意味します。「自分、何歳なん?」

したがって、自分を肯定する気持ちを高めるというのは、私(I)を肯定する気持ちのことなのか、他者(You)を肯定する気持ちなのか、その両方なのか、よく分からない。

また、自己を「肯定する」というのもよくわかりません。例えば、モチベーションを高めるという言い方がありますが、それは「何のために」という目的を表す言葉が前提されているのが普通です。仕事の業績を上げるためにモチベーションを高めるとか。

自己肯定感だって同じでしょう。何のために高めるのか?

心地よく生きるため? そしたら別に高めなくてもいいのではないでしょうか。お金と気の合うイケメン(美女)がいればそれだけで心地よく生きられる人はきっと、私だけではないはずです。

さらに、おそらく多くの人は、自己肯定感を高めた結果、なりたい自分になれる、というようなことを考えておられるのだと思いますが、果たして自己肯定感を高めたからといって、なりたい自分になれるのでしょうか? 自己肯定感を高めるより1億円の宝くじが当たった方がなりたい自分になれるのではないでしょうか?

有名人や成功者も自己肯定感が低い

マーケティング用語としての自己肯定感という言葉は、そこに因果関係をくっつけることで爽やかさ、かつ分かりやすさを獲得した結果、多くの人に直感的に支持されてきました。その結果、多くの人が自己肯定感を高めるとなりたい自分になれる、とか、自己肯定感を高めると生きづらさを解消できるということを、ごく当たり前のように信じるようになりました。

しかし、果たして本当にそうなのでしょうか?

自己肯定感が自分自身の存在それ自体を肯定するという意味であるなら、別に自分自身を否定していてもなりたい自分になれるのではないでしょうか?

私のもとにはなぜか、有名人や成功者と呼ばれている方々がカウンセリングに訪れますが、彼らのほとんどは、私から見ると自己肯定感が低いです。ご本人もそう自覚しています。

肯定的な雰囲気のグループに所属する前に

しかしそれでも、有名になったり、成功したりしています。私の言う自己肯定感とは、「私が私でよかったと思える気持ち」のことですが、彼ら彼女らは、いかに有名になったところで、いかに成功者と周囲から称賛されるようになったところで、「私が私でよかった」と思えないのですね。

自己肯定感という言葉はじつは、考えるべき要素をいくつもはらんでいます。自分とは何か? この問いには、おそらく哲学しか答えることができないでしょう。自分を肯定することはどういうことなのか? さらには、自己肯定感を高めたらなりたい自分になれるというその因果関係は果たして本当なのだろうか?

肯定的な雰囲気のグループに所属する前に、そういったことを考えてみることをおすすめします。それを考えないから「自己肯定感」が上がらないのです。

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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