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乾癬治療が皮膚と腸内細菌叢に与える影響 - 最新の系統的レビューから見えてきたこと

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【乾癬治療が皮膚と腸内細菌叢に及ぼす影響】

乾癬は皮膚に炎症を引き起こす慢性の自己免疫疾患であり、世界中で数千万人が罹患しています。近年、乾癬の発症と進行に皮膚や腸内の細菌叢(マイクロバイオーム)が深く関わっていることが明らかになってきました。

皮膚と腸内の細菌叢は、免疫応答の調節や皮膚のバリア機能の維持に重要な役割を果たしています。乾癬患者では、健常人と比べて皮膚や腸内の細菌叢の多様性が低下し、特定の細菌種が増加または減少していることが報告されています。こうした細菌叢の変化(ディスバイオーシス)が、乾癬の病態形成に関与していると考えられています。

興味深いことに、乾癬の治療によって皮膚や腸内の細菌叢が変化することが最新の系統的レビューで示されました。生物学的製剤(バイオ医薬品)、従来の薬物療法、光線療法、プロバイオティクスなど、様々な治療法が細菌叢の多様性や特定の細菌の存在量に影響を与えることがわかったのです。

【乾癬治療による皮膚細菌叢の変化】

生物学的製剤であるウステキヌマブ(IL-12/23阻害薬)の投与により、乾癬患者の皮膚細菌叢の多様性が増加することが報告されました。一方、NBUVB(狭帯域UVB)光線療法では、特定の細菌種(Staphylococcus属など)の減少が観察されています。

これらの結果は、乾癬の病態に皮膚細菌叢が関与していることを裏付けるものです。ただし、治療法によって皮膚細菌叢の変化のパターンが異なることから、各治療法の作用機序の違いを反映していると考えられます。皮膚細菌叢の変化と乾癬の症状改善との関連については、さらなる研究が必要でしょう。

【乾癬治療による腸内細菌叢の変化】

乾癬患者に生物学的製剤を投与すると、腸内細菌叢の多様性が変化することが複数の研究で示されました。IL-23阻害薬やIL-17阻害薬の投与により、腸内細菌叢の多様性が増加した一方で、TNF-α阻害薬とIL-12/23阻害薬の併用では多様性が減少したという報告もあります。

また、メトトレキサートやレチノイド+NBUVB光線療法などの従来の治療法でも、特定の細菌種の増減が確認されています。

【乾癬治療とパーソナライズド医療の可能性】

乾癬患者の皮膚や腸内の細菌叢は、治療への反応性と関連があることが示唆されています。治療前の細菌叢の特徴から、どの治療法が効果的かを予測できる可能性があるのです。

また、プロバイオティクスを用いた腸内細菌叢の調整は、乾癬の新たな治療戦略として期待されています。腸内細菌叢を健康な状態に近づけることで、乾癬の症状改善につながる可能性があります。

乾癬治療における皮膚・腸内細菌叢の役割が明らかになることで、患者一人一人の特性に合わせたパーソナライズド医療の実現に近づくかもしれません。ただし、そのためには、治療法と細菌叢変化の関連をさらに詳細に検討し、細菌叢を基にした治療効果の予測法を確立する必要があります。

参考文献:

Korneev, A., Peshkova, M., Koteneva, P., Gundogdu, A., & Timashev, P. (2024). Modulation of the skin and gut microbiome by psoriasis treatment: a comprehensive systematic review. Archives of Dermatological Research, 316, 374. https://doi.org/10.1007/s00403-024-03024-x

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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