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岸田首相 G7サミットでのLGBT差別発言への謝罪拒否

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
筆者撮影

元首相秘書官によるLGBT差別発言をめぐり、参議院予算委員会で「G7広島サミットの場で謝罪するか」と問われ、岸田首相は「日本の実情を丁寧に説明する」と答弁し、謝罪すべきとの要求を拒否した。

G7で唯一、「LGBT差別禁止法」や「同性カップルの法的な保障」がない日本。G7各国には、性的マイノリティであることを公表している要人もいるが、サミット議長国の首相として、性的マイノリティをめぐる差別に対する姿勢が問われている。

立憲民主党の石川大我議員(筆者撮影)
立憲民主党の石川大我議員(筆者撮影)

転向療法は否定

参議院予算委員会で、ゲイであることを公表している立憲民主党の石川大我議員が岸田首相に質問した。

石川議員は、性的指向や性自認が「自らの意思で選べるものではないと」という点を説明。社会の差別や偏見により、性的マイノリティの自死未遂の割合が、非当事者と比べて同性愛・両性愛者は約6倍、トランスジェンダーは約10倍高いという調査を紹介した。

しかし、昨年6月、自民党議員の大多数が参加する「神道政治連盟国会議員懇談会」では、同性愛について「後天的な精神の障害、または依存症」、「回復治療や宗教的信仰によって変化する」などと書かれた冊子が配布された。

さらに昨年7月には、自民党の性的マイノリティに関する特命委員会で、「同性愛の多くが治癒可能」とする説を旧統一教会関連の媒体で発信している八木秀次氏を招いて議論を行った。

これらの点を取り上げ、石川議員は「総理は(同性愛が)依存症、信仰によって変化する、治療可能といった考えに、まさか同意しないですよね?」と質問。

同性愛などを無理やり"矯正"しようとする「転向療法(コンバージョンセラピー)」は、明確に「犯罪」と規定している国もあるほど、非人道的で悪質な暴力行為だ。国連の拷問禁止機構も、「拷問行為または残虐、非人道的または品位を傷つける扱いに等しいもの」と判断している。

岸田首相は「私自身はそのような考え方は持っておりません」と答弁し、転向療法に繋がる考えを否定した。

岸田文雄内閣総理大臣(筆者撮影)
岸田文雄内閣総理大臣(筆者撮影)

G7サミットでの謝罪を拒否

荒井元首相秘書官の、性的マイノリティについて「見るのも嫌だ、隣に住むのもちょっと嫌だ」といった発言について、石川議員は「世界が反応しています。G7議長国の首相として、各国の(当事者の)要人にどう接するのでしょうか?G7の場で謝罪すべきではないでしょうか?」と語った。

例えばアメリカ政府には、ゲイであることを公表している「ピート・ブティジェッジ運輸長官」や、レズビアンを公表している「カリーヌ・ジャンピエール大統領報道官」がいる。政府高官の中にもトランスジェンダーだと公表している「レイチェル・レヴィーン厚生次官補」などがいる。

石川議員は「G7各国で、ともに仲間として働いています。人によっては同性婚もされている。そうした人たちへの差別があった。侮辱されたという風に思っているのではないでしょうか」と指摘した。

岸田首相は、「不快な思いをされた方に心からお詫び申し上げる」と国会の場ですでに謝罪している点をあげ、「それぞれの国において事情はさまざま。G7議長国として、日本の実情を丁寧に説明すべきと考えています」と、G7広島サミットの場での謝罪を拒否した。

しかし、元首相秘書官の発言に対して、先月7日に国連のドゥジャリク報道官は「事務総長は嫌悪(ヘイト)に強く反対しており、誰を愛し、誰と一緒にいたいかを理由に誰も差別されてはならない」と批判している。

さらに、先月来日したジェシカ・スターン米特使は、性的マイノリティへの差別について「コミュニティーの一部が疎外され、排除されるときはいつだって、私たち全員が傷つくのです」とインタビューで語っている

岸田首相は「日本の実情を説明」というが、性的マイノリティの人権を守る法律が日本にはないという"実情"をわざわざ説明するのだろうか。このような状況で、元首相秘書官の差別発言について謝罪もなく、各国要人を招いたG7サミットを開催できるのか疑問だ。

石川議員は、この件について、G7各国から首相に対し「何か面会や、手紙、電話、メールなどのアプローチがあったか」と確認したところ、岸田首相は「私自身には届いていない」と答弁した。

現在、政府や与党では「LGBT理解増進法案」の検討が進んでいる。

OECD諸国のうち、日本の性的マイノリティに関する法整備状況は、35ヵ国中34位だ。

石川議員は、以下の図を示しながら「各国の制度の一覧のうち、日本は3つしかチェックが入っておらず、4番目は『差別からの保護、差別の禁止』です。理解増進という項目すらなく、『LGBT理解増進法案』では4つ目にチェックはつきません。差別禁止を含む法律を作るべきではないでしょうか」と質問した。

筆者作成
筆者作成

これに対して岸田首相は、「超党派議員連盟の議論の結果、『理解増進法』が作られ、自民党で同法案の準備が進められている。理解増進法の成立にむけて、努力していくことが重要だと思っています」と答弁した。

しかし、先月15日、エマニュエル駐日米国大使は、記者会見で「性的マイノリティを保護するための『明確で曖昧さのない』法律を制定することを望んでいる」と述べ、「この問題に関する岸田首相のリーダーシップに『完全な信頼』を寄せている」と語っている。

元首相秘書官の差別発言を挽回するとしたら、G7サミットまでに世界から求められる法整備は、「理解増進」とお茶を濁すものではなく、差別を禁止した上で、適切な認識を社会に広げるためのものであることは明らかだ。

「私はいつ結婚できるのか」

石川議員は、婚姻の平等に賛成する企業を可視化する「Business for Marriage Equality」で、ソニーや富士通、資生堂、ホンダ、LIXIL、TOTO、ヤマハなど300社以上がこれに賛同している点を紹介。

「同性婚(の法制化)を待ちわびているみなさんがいます。ぜひこの議論を進めてほしい、いかがでしょうか」と質問した。

岸田首相は「同性婚を求めている方が大勢いることは承知しています」と、法整備を求める当事者が多くいることは認識しつつ、「一人ひとりの家族観、国民生活に関わる課題で、国会での議論、裁判の行方、自治体のパートナーシップ制度の状況を踏まえながら、議論を進めていくべき」と従来の答弁を繰り返した。

筆者撮影
筆者撮影

石川議員は、子育てをする性的マイノリティを中心とした団体「にじいろかぞく」が、岸田首相に手紙を送るプロジェクトを行っている点を紹介。

「岸田総理大臣へ、私の学校の友達はママが二人のことをわかってくれるのに、日本はなぜわかってくれないのですか。子どもにもわかるように教えてください。」と、同性カップルに育てられている小学校一年生からの手紙を取り上げ、質問した。

これに対し、岸田首相は「手紙を書いてくれたみなさんの想いをしっかり受け止めさせていただきます。多くのみなさんがこの問題に関心を持っていて、みんなで議論を進めて、みんなで結論を出していきましょう。そうした努力を進めていきたい」と答えた。

石川議員は「議論する議論する議論する、という間に、私たちは死んでしまいます。少数派の人権の問題は多数決で決めるものではない」と指摘。自身が同性愛者の当事者である点を踏まえ、「私はいつ、愛する人と結婚ができるのでしょうか?」と質問した。

岸田首相は、「社会の理解や議論の深まりによって結論を出していく、こうした取り決めの進み具合によって、時期が決まってくると考えます」と答弁。

しかし、どの世論調査を見ても、同性婚の法制化は賛成が多数で、反対を大きく上回っている。法整備に関する「理解」はすでに広がっており、「社会はすでに変わっている」ことが示されている。

毎日新聞調査:同性婚の法制化に「賛成」が54%、「反対」は26%

朝日新聞調査:同性婚を「認めるべき」が72%、「認めるべきではない」は18%

日経新聞調査:同性婚の法制化に「賛成」が65%、「反対」は24%

読売新聞とNNN調査:同性婚の法制化に「賛成」が66%、「反対」は24%

共同通信調査:同性婚を「認める方がよい」が64%、「認めない方がよい」は24.9%

産経新聞とFNN調査:自民党支持層でも「賛成」が60.3%、「反対」は29.3%

今朝、立憲民主党は婚姻の平等(同性婚)を実現するための民法改正法案を国会に提出した。

石川議員はこの点に触れ「自民党総裁として、この法案を法務委員会で議論しましょうと言ってください」と質問。

しかし、岸田首相から返ってきたのは「ご指摘の議員立法、国会の議論を注視しながら、政府としての取り組みを進めてまいります」という答弁のみだった。

最後に、石川議員は「なんで同性婚と差別禁止を法制化しないのか、まったく理由がわかりません。それはやはり、旧統一教会をはじめとする宗教右派、神道政治連盟、日本会議、そうした勢力に総理が忖度しているのではないか」と指摘。

国会中継や報道を見ている性的マイノリティの当事者に対して、「あまりにも(岸田首相の)答弁が前向きでなく、失望しているのではないかと思います。でも、みなさんは一人ではありません。失望せずに、希望を持って生きて欲しい」と締め括った。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、HuffPostや現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)、『子どもを育てられるなんて思わなかった - LGBTQと「伝統的な家族」のこれから』(山川出版社)など

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