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渋谷で盛り上がる「レモンサワー&ホルモン食べ飲み放題」 2店が示す飲食店のこれから

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
昨日、2月16日にオープンした「レモホル酒場」渋谷店の行列。(筆者撮影)

東京・渋谷では「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)という「レモンサワー&ホルモン」の店が昨年の7月にオープンして以来大層にぎわっている。昨年の10月に同店を展開するGOSSO株式会社(本社/東京都渋谷区)の代表、藤田建氏に取材をしたところ渋谷店は25坪56席で月商1200万円と述べていた。飲食業界では繁盛店の認識を超えるレベルだ。

その同店から100mほどの至近距離に、2月16日「レモホル酒場」がオープンした。

「レモホル酒場」を展開しているのは大阪からやってきた有限会社GC(本社/東京都港区、代表/石原義明)で東京初進出である。冒頭の画像はオープン初日の行列の風景。後述するが、店内の滞在時間は60~90分となっているから、行列をしていても入店できる時間が読めるので我慢もたやすいということか。

12時オープンの直前、スタッフ全員が顧客を感謝をもって迎えた。(筆者撮影)
12時オープンの直前、スタッフ全員が顧客を感謝をもって迎えた。(筆者撮影)

90分3000円のレジャー

「ときわ亭」「レモホル酒場」ともに店の仕組みはほとんど共通している。それはまず「レモンサワー飲み放題」で「ホルモン食べ放題」であることだ。「レモンサワー飲み放題」は各テーブルにレモンサワーのタップ(=蛇口)が設置されていて注ぎ放題となっている。両店ともに60分500円飲み放題で、30分延長すると「ときわ亭」が300円、「レモホル酒場」は500円が追加となる。

「ときわ亭」「レモホル酒場」ともに「レモンサワー注ぎ放題」60分500円を強くアピールしている。(GOSSO提供)
「ときわ亭」「レモホル酒場」ともに「レモンサワー注ぎ放題」60分500円を強くアピールしている。(GOSSO提供)

フードメニューの構成を比較しよう。

「ときわ亭」は「名物」として「塩ホルモン」(豚)380円、「”肉塊”レモン牛たん」1490円、「ときわ亭カルビ」(国産牛)790円を打ち出し、豚、牛、鶏のホルモンや精肉を塩、味噌などの味付けの組み合わせで品揃えをして、これに一品料理が加わり100品目、これにご飯物・スープで12品目。食べ飲み放題は1.5時間2980円、2時間3980円となっている。フードニューのバラエティが豊富なことから、一度同店を体験すると「近いうちにまた行こう」という気分にかられる。

「ときわ亭」の名物の一つ「”肉塊”レモン牛たん」1490円。こぶし大の大きさでインスタ映えする。(GOSSO提供)
「ときわ亭」の名物の一つ「”肉塊”レモン牛たん」1490円。こぶし大の大きさでインスタ映えする。(GOSSO提供)

「レモホル酒場」は牛の生ホルモンが食べ放題1480円(60分)。これにサイドメニュー(ホルモン焼きうどん、ホルモンカレー、ホルモン煮込み、韓国風のクリスピーチキンなど)480円を付け加えると90分食べ放題となる。レモンサワー注ぎ放題60分500円に延長30分500円だから、90分(=1.5時間)2960円で食べ飲み放題となる。

「レモホル酒場」は「牛の生ホルモン食べ放題」1480円が看板メニュー。(筆者撮影)
「レモホル酒場」は「牛の生ホルモン食べ放題」1480円が看板メニュー。(筆者撮影)

「ときわ亭」も「レモホル酒場」も“90分3000円で食べ飲み放題”という業態なのである。もちろん、それよりも短く安く済ませることもできる。だから顧客はさまざまな利用動機を想定することができる。

「これからはやる業態は何?」

これらの業態はどのようにして生まれたか。

「ときわ亭」を展開するGOSSOは2005年12月の設立で、チーズフォンデュや肉バルなどを展開していたが、2~3年前から成長エンジンを求めてM&Aの相手先を探していたところ、仙台を拠点に宮城県下でチェーン展開をしているホルモン居酒屋「ときわ亭」と出合った。同社の経営者と意気投合し、食肉工場も営む仙台のときわ亭から食肉を仕入れ、宮城県以外でチェーン展開を行うという形でパートナーシップを結んだ。

「レモホル酒場」渋谷店の近くのビル2階にある「ときわ亭」渋谷店。2月16日に「レモホル酒場」の行列を見た後、12時30分ごろの同店をのぞいたところ50席強の店内の半分が埋まっていた。(筆者撮影)
「レモホル酒場」渋谷店の近くのビル2階にある「ときわ亭」渋谷店。2月16日に「レモホル酒場」の行列を見た後、12時30分ごろの同店をのぞいたところ50席強の店内の半分が埋まっていた。(筆者撮影)

テーブルにレモンサワーのタップを設置するというアイデアは、大阪でテーブルにビールのタップを設置した居酒屋があり、それをヒントにしたという。1号店は横浜西口店で2019年12月にオープン、渋谷店は2020年7月オープン、この2月現在で12店舗となっている。

既存のFCオーナーや加盟希望者は既に3~5店舗の飲食店を展開している30代の経営者で、コロナ対策の支援制度を活用する、というパターンが多い。藤田氏は「既存店のエリアで同じブランドを展開すると競合してしまう。では、焼肉か焼鳥か専門店を手掛けてみたいが、専門店を開発することは簡単なことではないので、加盟店になった方が早く出店できると考えている人」とまとめてくれた。

「レモホル酒場」の代表、石原義明氏は元K1の選手で同時に大阪で飲食業を営んでいた。2015年に父の事業を引き継ぐために長崎に戻り、大阪時代に知己を得た芸能人であり飲食業経営者のたむらけんじ氏のブランドで焼肉店を営み大ヒット。2018年にその焼肉店の鍋料理の通信販売を開始した。2020年のコロナ禍でリアル店舗の業績は低迷するが、通信販売は飛躍的に売り上げを伸ばした。

コロナ対策の支援制度を得て、ビールメーカーと「これからはやる業態は何?」と考えをめぐらし、昨年11月に大阪の香里園(寝屋川市)と天四(大阪市北区)に出店、福岡、熊本と出店し、この2月16日に東京・渋谷と五反田で同時出店した。3月には大門に出店、また渋谷の東急ハンズ近くにも出店する。これで「レモホル酒場」は8店舗となる。

需要を創造しているところが強い

さて、「ときわ亭」では現在12時~17時限定で「0秒レモンサワー」90分飲み放題が0円になる「ときわ亭のクレイジーアワー」を開催している。これは1月22日(金)~2月7日(日)の期間限定キャンペーンを3月7日(日)まで延長したものだ(一部店舗のみ)。同社では、「ストレスを感じやすいコロナ禍に私たちができる最大限のエンタメを提供します」とアピールしている。

「ときわ亭」では17時営業開始を緊急事態宣言が発出されてから12時に前倒しして17時までタップから注ぐレモンサワーを90分無料にしている。(GOSSO提供)
「ときわ亭」では17時営業開始を緊急事態宣言が発出されてから12時に前倒しして17時までタップから注ぐレモンサワーを90分無料にしている。(GOSSO提供)

「レモホル酒場」では2月16日から21日までレモンサワー以外の単品ドリンクを全品半額にする(生ビール230円、ハイボール180円など)。

緊急事態宣言が明けて、さらにコロナ禍が沈静して通常の生活に戻ったとして、働き方の多様化が進み、昼飲みは日常的なものとして定着していくことだろう。そこで、「ときわ亭」「レモホル酒場」はともに12時ないし11時30分の営業開始を継続することであろう。

周りの居酒屋では日中営業しているところが多く、少なからず顧客が昼飲みや昼食をとっている。休業している店では店頭に「緊急事態宣言により……」という張り紙があるが、これは機会損失以外の何物でもない。「昼間に居酒屋を開けてもお客さんは来ないから」と言うが、現実に休業しているこの場所で行列をなしている飲食店が存在している。

話題は飛躍するが、二度目の緊急事態宣言が発出されてから朝10時より焼肉定食を500円で食べることができる「朝焼肉」をはじめた「焼肉ライク」ではこの時間帯に行列ができている。“一人焼肉”の「焼肉ライク」1号店(新橋本店)がオープンしたのは2018年8月であるが、同店がアルバイトを募集した際に230人が応募、そのうちの8割が若い女性であったという。新橋としては異例のことである。

食事をする動機も働いてみたいという動機も、漫然としたところではない、需要を創造するというポジティブなところに人は集まっていくということの表れではないか。コロナ禍は飲食業のそれぞれにその真価を問うているようだ。

焼肉は特に20代30代に根強い人気があり、ホルモン・焼肉をベースとした業態は増えていく模様だ。(筆者撮影)
焼肉は特に20代30代に根強い人気があり、ホルモン・焼肉をベースとした業態は増えていく模様だ。(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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