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インドで展開する居酒屋企業がインド社員の日本研修を実施 国際交流がもたらす絶大な繁盛の秘訣とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
KUURAKU GROUPインド社員のメロディさん(左)とトイさん(筆者撮影)

国内および海外で居酒屋を展開しているKUURAKU GROUPという会社がインドの社員2人に約4週間の日本研修を受講させた。同社ではダイバーシティ(多様性)に取り組んでいて、都心の店舗ではインバウンドからの評価が高く、各店舗は著しく繁盛している。今回のインド社員の日本研修もダイバーシティの観点で大きな気づきをもたらしている。

銀座6丁目、GINZA SIXの裏手の地下1階に「福みみ銀座店」が存在する(筆者撮影)
銀座6丁目、GINZA SIXの裏手の地下1階に「福みみ銀座店」が存在する(筆者撮影)

社員40人のうち3割が外国籍の人材で占められる

国際化社会の今日、最も重要な考え方は「ダイバーシティ」(Diversity)とされている。「多様性」と訳されるが、人種・年齢・性別・能力・価値観などさまざまな違いを持った人々が組織や集団において共存している状態を示している。

筆者は飲食業界の動向をメインに取材・執筆している者だが、飲食業界でダイバーシティに最も先験的に取り組んでいる会社は株式会社KUURAKU GROUP(本社/千葉県船橋市、代表/福原裕一)であると認識している。

同社は、1999年3月に設立。焼鳥居酒屋をメインに展開している。海外出店は2004年に初めてカナダで行い、その後、インド、インドネシア、スリランカ、アメリカ、中国と展開して、現在6カ国に19店舗を海外で展開している。ちなみに日本国内は15店舗で、店舗数は海外の方が多い。

このような会社の環境から、同社では社員の多国籍化が進んでいる。現在約40人の国内社員のうち3割が外国籍となっている。国内直営10店舗のうち、都心にあるのは銀座3店舗、新宿2店舗、渋谷1店舗で、近年では顕著にインバウンドが増えている。この中で同社の旗艦店と言える「福みみ銀座店」では55席の店が1日3.5回転して約200人、そのうち外国人客が9割を占めている。社員は5人でうち4人が外国籍である。

インドで「日本のおもてなし」レストランとして知られる

そのKUURAKU GROUPでは、インド社員2人の日本研修を初めて行った。期間は6月上旬から7月上旬までの約4週間、研修店舗は前述した「福みみ銀座店」である。KUURAKU GROUPのインドの会社は、現地法人と同社による合弁会社によって運営されている。

インドでの1号店は、2013年にオープン。ラジャスタン州ニムラナという街のホテル内レストランとして出店し、日系の工業団地という地域性から日本人駐在員が主要な顧客であった。その後、2014年、2016年と展開していくが、ここまでは日本人駐在員の利用が主要であった。

それが、2018年にオープンした4店目、デリー準州ニューデリーの店舗からインドでの立ち位置が大きく変化した。同店は空港近くの新しい商業施設内のフードコートにあり、KUURAKU店舗のショーケース的な役割を果たしたことから、国内のインド人をはじめ、中東やアフリカの人々からも知られるようになった。その後、2022年にオープンした店(カルナータ州バンガロール)、2023年にオープンした店(マハシュトラ州ムンバイ)ともに、インドの外食人口が多い街であり、ジャパニーズレストラン『KUURAKU』は、インド人に「日本のおもてなしを体験できる店」として愛好される店となった。2022年にはインドのレストランアワード『Indian Restauramt Award』においてインド国内の最優秀日本食店に選ばれた。

さて、この度日本研修を受講したインド社員はメロディさん(34歳)とトイさん(22歳)。メロディさんは入社歴10年で、インド初の女性店長。トイさんは同3年で、ホール業務のリーダーを務めている。

16時にオープンしてインバウンドのお客が続々と来店する。焼台にある焼鳥の多さに注目(筆者撮影)
16時にオープンしてインバウンドのお客が続々と来店する。焼台にある焼鳥の多さに注目(筆者撮影)

日本研修を受けることができる条件は、まず自ら「立候補」をして、その後「選考」となった。

立候補できる条件は「1年以上勤務していること」「日本研修を終えてインドに帰国後3年以上働くことができる」「過去に四半期MVP(優秀スタッフ)を取得したことがあること」の3点。立候補は4人が名乗り出たという。

選考は、一次審査が立候補した理由について提出した書面を審査。二次審査が役員との面談であった。

インド社員が日本研修を受講する意義について、KUURAKU GROUPの海外担当執行役員であり現地合弁会社代表の廣濱成二郎さんはこう語る。

「インドでのKUURAKU店舗の接客は『日本のおもてなし』が一歩進んで、より活発な『KUURAKUのおもてなし』です。そこで、その源流である日本のKUURAKU店舗のおもてなしを体験して、KUURAKUの社風、働き方、考え方といったKUURAKUの文化を体感して、インドに持ち帰っていただくことです」

ここで述べた「KUURAKUの文化」とは、スタッフの全員がすべての仕事を覚えているからこそ、スタッフのすべてが助け合うことができる職場環境である。さらに、日本で働く外国人の社員も日本人と同じように働いている様子を見て「日本人だから特別なことができる、というのではなく、あらゆる国籍のすべての人ができる」という、ダイバーシティを理解することである。

店舗での研修は、営業前の清掃から始まり、営業時のオペレーション、パフォーマンス、そしてクロージングのすべてを行う(筆者撮影)
店舗での研修は、営業前の清掃から始まり、営業時のオペレーション、パフォーマンス、そしてクロージングのすべてを行う(筆者撮影)

既存のスタッフにとってもプラスの効果が大

今回のインド社員の日本研修の内容は、以下のようなものだ。

・KUURAKU店舗の中でも最もインバウンド比率が高く、英語でも勤務が可能な「福みみ銀座店」で、開店準備から現場営業の基本を体験する。

・KUURAKU GROUPの教育事業(学習塾を展開)を含めて同社の全業態を訪問

・利き酒、料理に関しての講習

・リーダーシップ、チームビルディング。コミュニケーションなどについての講習

・酒蔵訪問

・東京観光(浅草、新宿、原宿、スカイツリーなど)

これらのアテンドでは、廣濱さんを始め、同社の社員が行った。インド人の公用語は英語であるが、研修生の2人にとって都内での移動は日本語の通訳が不在でも不便がなく、休日にも2人でフリーに都内の各所を訪問したという。

筆者は、日本研修の終わりに近づいた7月1日、2人に日本研修の振り返りをインタビューした。

メロディさんはこう語る。

「研修店舗では、とてもインバウンドが多く、スタッフの全員が『インバウンドのお客様にどのようにして楽しんでいただくか』ということに一生懸命取り組んでいた。店舗がある銀座は世界のお客様をターゲットにしていて、スタッフのみなさんが日本の文化を熱心に勉強していた。このような日本の文化を学ぶ姿勢が、インドのKUURAKU店舗での接客に大いに生かされると思う」

トイさんはこう語る。

「男性スタッフも女性スタッフも『焼き師認定』を持っていて、みな率先して焼鳥を焼いて、ドリンクや料理もつくり、フロアに出て接客もしている。このような全員がなんでもできるという職場の中で、お互いが助け合うという環境が育っていくと思う」

「福みみ銀座店」でインド社員2人が働いたことで、同店の既存のスタッフにとってプラスの効果が大いにあったようだ。同店唯一の日本人社員であり、インバウンド戦略チームリーダー兼主任講師の諏訪ゆりかさんはこう語る。

「これまで、接客は英語で行っていましたが、業務の指示は日本語でした。しかしインド人社員が2人加わったことで、業務の指示も英語で行うようになりました。スタッフ全員の英語力とコミュニケーション能力が一段と向上して、インバウンドのお客様に対する接客でアドリブが効いた会話ができるようになり、接客のシーンが豊かになりました」

これから、インド社員の日本研修は年に2回の開催を定例化していきたいという。日本研修に際して、ウイークリーマンションを借りることから、女性2人、男性2人と分けて行う方針だ。

「カリフォルニアロール」をつくる研修。インドでのKUURAKU店舗は「ジャパニーズレストラン」としての役割を果たしているために、焼鳥以外のメニューは重要なアイテムとなっている(筆者撮影)
「カリフォルニアロール」をつくる研修。インドでのKUURAKU店舗は「ジャパニーズレストラン」としての役割を果たしているために、焼鳥以外のメニューは重要なアイテムとなっている(筆者撮影)

店舗での研修に加えて、東京観光や蔵元体験も組み込まれた(KUURAKU GROUP提要)
店舗での研修に加えて、東京観光や蔵元体験も組み込まれた(KUURAKU GROUP提要)

ダイバーシティは店の状態を良い方向に導く

ちなみに、日本社員のインド研修はどのように行われているかも記しておこう。

これは、2013年にインドに初めてKUURAKU店舗を出店した翌2014年から行っている。当初は、立候補者から選出された4~5人が毎年インド研修を受講していたが、最近では入社丸1年前後の社員の必須研修となっている。インド研修の期間は2週間。「1週間だと、現地の業務に慣れたころに終了という感覚。2週間だと、なんらかしらの困難と向き合ってそれを解決するといった経験ができる、ということのために必要な長さ」(廣濱さん)とのことだ。

日本社員がインド研修を受講する意義について、次のようなことを挙げてくれた。

まず、日本社員にとって。

・KUURAKU店舗がインドで営業している状況と、KUURAKU GROUPの強みとは何かを知る

・海外での生活、英語で仕事をするといった特別な体験を通じで自己の成長につなげる

・貴重な体験をすることによって愛社精神を醸成してもらう

・日本での留守を守ってくれる仲間への感謝の心を醸成してもらう

・お客様に必要とされるビジネスの醍醐味を味わってもらう

次に、インド社員にとって。

・日本社員から新しいことを学ぶ機会となる

・本場の日本食を提供しているという自信につながる

そして、インドのお客様にとって。

・本場のKUURAKU店舗で行っている店内イベントを楽しむ

・日本社員が、インド社員のオペレーションをしっかりと見ているという安心感

・日本人と会話ができるという特別感を得る

このようにKUURAKU GROUPでは、社員に海外店舗相互の営業状況を把握してもらうことを熱心に行っている。このような同社の活動を改めて知ることによって、「福みみ銀座店」の「55席、1日3.5回転、客数約200人、外国人客比率9割」という傑出した繁盛の背景を納得することが出来る。ダイバーシティを充実させることは、明らかに店の状態をよい方向に導いていく。

KUURAKU GROUPでは、今後インド社員の日本研修を年間2回定例化していきたいとしている(筆者撮影)
KUURAKU GROUPでは、今後インド社員の日本研修を年間2回定例化していきたいとしている(筆者撮影)

ココがポイント

職場にダイバーシティ(多様性)に対する理解を浸透させることによって、繁盛する体質を培っていく。

エキスパートの補足・見解

KUURAKU GROUPという居酒屋企業は、1999年の創業以来、グローバルに展開するチャンスを得て、海外諸国で展開。同時に、国内の社員も海外での就労体験を得て、グローバルとダイバーシティ(多様性)に対する見識を高めてきた。この度、インドの優秀社員2人に日本研修を受講させて、この見識を一層深めている。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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