コロナ後遺症は「労災」になる? 症状が長期化した時に受けられる「給付」について解説
新型コロナウイルスの感染拡大から1年半以上が経過し、最近では、後遺症に関する報道が多く見られるようになりました。後遺症に関してはまだまだ判っていないことが多くありますが、全身の倦怠感、嗅覚障害、味覚障害といった症状が続くケースは珍しくないようです。
今月、世田谷区が公表したアンケート調査結果では、感染した人のおよそ半数に何らかの後遺症の症状があることが判っています。調査は今年4月15日までに届け出があった感染者8959人を対象に行われ、回答者3710人のうち、1786人(48.1%)が「後遺症がある」と回答しています。
参考:世田谷区「新型コロナウイルス感染症の後遺症についてのアンケート調査結果(速報)」
なかには、仕事をできないほどの重い後遺症に苦しめられている方もいます。この場合には、症状による苦痛だけでなく、経済面でも厳しい状況に追い込まれてしまうことになりかねません。私たちのもとにも、後遺症によって仕事ができなくなってしまった方々からの相談が寄せられています。
そこで、この記事では、労災保険制度について解説します。新型コロナ後遺症についても、職場での感染が疑われる場合には労災保険給付の対象となる可能性があります。
労災が認定されると、自己負担なく無料で治療を受けることができ、また、仕事ができなかった期間についても給与の約8割の給付を受けることができます。このため、仕事中にコロナに感染した場合には労災保険制度を活用することが重要になります。
労災保険の給付が受けられるのはどのような場合?
労働者が仕事中に事故にあって怪我をした場合や、仕事が原因で病気になった場合には、労災保険法に基づく保険給付が支給されることになります。
給付を受けられるのは、労働基準監督署が業務上生じた災害であると認定した場合に限られます。そのためには、業務遂行性(労働者が使用者の支配下にあること)と業務起因性(業務と傷病等との間に一定の因果関係があること)という2つの要件を満たす必要があります。
たとえ被災した労働者の過失によって労災事故が発生したとしても給付を受けることができます。また、勤務先の会社に過失がなくても給付を受けることができます。
また、労災保険は正社員だけでなく全ての労働者に適用されますので、パート、アルバイトなど、いわゆる非正規雇用で働く方でも、要件を満たせば給付を受けることができます。
新型コロナ後遺症も労災の対象になる?
新型コロナに感染した場合も、他の疾病と同様、個別の事案ごとに業務の実情を調査した上で、業務遂行性と業務起因性が認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
感染経路が判明しない場合であっても、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した蓋然性が強い場合には給付が認められます。特に、「複数の感染者が確認された労働環境下での業務」や「顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務」については業務起因性が認められやすくなっています。
以下のリンク先で、厚生労働省が、労災認定の具体的な事例について紹介していますので、参考にしてください。
参考:「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」
同様に、後遺症についても、業務遂行性と業務起因性が認められる場合には、労災保険給付の対象になります。
ただし、新型コロナ後遺症に関しては医学的知見が定まっていないこともあり、コロナ感染による症状であるかを判断することが容易ではなく、労災が認定されるか否かについて明確な基準がないのが現状です。
確実に給付を得られる保証はありませんが、申請を行えば労働基準監督署がしっかりと調査してくれるので、対象になるかどうかがわからなくても諦めずに手続きを行うことが重要です。
受け取ることができる給付の内容は?
労災保険から受けられる給付にはどのようなものがあるのでしょうか?
まず、労災が認定された場合には、無料で治療を受けることができます。これを療養補償給付といいます。
次に、療養のために仕事を休んだことで賃金がもらえなかった場合、休業4日目から、1日につき給与の約80%(保険給付60%+特別支給金20%)の休業補償給付を受け取ることができます。
新型コロナ後遺症によって仕事を長く休んでしまった場合には、この休業補償給付を受けることによって一定の収入を確保し、生活の破綻を免れることができます。
このほか、後遺障害が残った場合に支給される障害補償給付、不幸にも労働者本人が亡くなった場合に遺族に支給される遺族補償給付などがあります。
給付を受ける方法は?
労災保険の申請手続きは労働者本人が行うのが原則です(本人が亡くなっている場合には遺族が申請)。
ただし、本人が手続きをするのは大変なので、勤務先の担当者が代わりに手続きを進めてくれることがあります。仕事中に怪我をしたり、仕事が原因で病気になったと考えられる場合には、まずは勤務先に労災を申請したい旨を申し出てください。
療養補償給付については、労災指定医療機関で治療を受けた場合、後日、所定の請求書に事業主の証明を受けた上で医療機関に提出すれば無料で治療を受けることができます。
休業補償給付を受けるためには、労働者本人が、勤務先を管轄する労働基準監督署に請求書を提出しなければなりません。申請に当たっては、勤め先で事業主の証明欄に記入してもらい、また、療養のために休業が必要であることについて主治医に証明してもらう必要があります。
会社が協力してくれない場合
実は、社内でコロナ陽性者が発生したことを隠そうとする会社は少なくありません。業種によっては、陽性者が発生したことが判ってしまうと、一定の間営業を停止せざるを得ないため、そのようなことが起きるのだと考えられます。
この場合、当然、会社は労災の手続きもしてくれません。会社が申請手続きに協力してくれない場合はどうしたらいいでしょうか?
会社が協力してくれないからといって申請ができないわけではありません。あくまでも申請するのは労働者本人であり、申請に当たって会社の承認は必要ありません。
一方で、会社は、労働者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、速やかに証明を行う義務を負っています(労働者災害補償保険法施行規則第23条2項)。
会社から手続きへの協力を拒まれた場合には、まずはこうした規定を根拠に、会社に対して協力を求めましょう。個人で交渉することが困難な場合は、弁護士や労働組合を通じて交渉することで話が進展する可能性が高まります。
それでも会社が応じない場合には、事業主の証明欄が空欄のままでも申請をすることができます。労働基準監督署に事情を説明した上で請求書を提出しましょう。
この場合には、労働基準監督署が会社に資料の提出を求めたりヒアリングを行ったりして、支給・不支給の決定を行います。
労災保険の給付とは別に賠償を求めることができる?
事故が発生したことや労働者が病気を発症したことについて、会社が民事上の損害賠償責任を負うべき事情があると考えられる場合には、労災保険の給付請求とは別に、会社に対して損害賠償請求を行うことができます。
労災保険の給付では、被災した労働者が被った損害の全てが填補されるわけではありません。例えば、休業補償給付については給与の約8割の金額になりますから、病気にならずに働いた場合に受け取れることができるはずだった給与よりも低い額しか受け取ることができません。
このため、会社に責任が認められる場合、被災した労働者は、労災保険で補償されなかった損害の賠償を会社に対して請求することができます。休業による損害だけでなく、後遺障害による逸失利益の補償や精神的苦痛に対する損害についての慰謝料を請求することができます。
会社が法律で定められている安全対策を実施していなかったり、十分な安全衛生教育をしていなかった場合には、会社の責任は認められやすくなります。後遺障害が残った場合などは、損害賠償の金額が1000万円を超えることもあります。
職場においてコロナに感染した場合についても、会社が最低限の感染対策すらしていなかったような場合には、会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求を行うことができるものと考えられます。
損害賠償や慰謝料を請求するためには、客観的な証拠資料を用意できるかどうかが決定的に重要になります。証拠を集めたり請求の法的根拠を整理するためには専門的な知識が必要ですから、弁護士や支援団体に相談してください。
【イベント情報】
オンラインセミナー「今こそ知っておきたい労災保険制度とユニオンの意義」
日時:9月20日(月・祝)18時~19時30分
主催:NPO法人POSSE
講師:市橋耕太弁護士(旬報法律事務所)
参加費:無料
【無料相談窓口】
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
03-6804-7650
soudan@rousai-u.jp
*過労死・長時間労働・パワハラ・労災事故を専門にした労働組合の相談窓口です。
03-6804-7650
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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)
sendai@sougou-u.jp
*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
03-3288-0112
*「労働側」の専門的弁護士の団体です。
022-263-3191
*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。