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新型コロナ対策で新作映画を異例のネット配信 障害者の自立を描くドキュメンタリー

小川たまかライター
『インディペンデントリビング』より(C)ぶんぶんフィルムズ

・2月には議員会館で試写会も

 新型コロナウィルス感染拡大防止のため、3月14日から東京で公開されているドキュメンタリー映画『インディペンデントリビング』がネット配信されている。劇場公開と並行してインターネット配信が行われるのは異例のことだ。

 同作品の舞台は大阪の自立生活センター。さまざまな障害の当事者が自立するための支援を行っている。運営者やスタッフにも当事者がいる。自らも介助者として働く田中悠輝監督が3年にわたって撮影を行ったという。

 1月から大阪で先行上映が行われ、2月末には永田町の参議院議員会館で試写会が行われた。この試写会は、舩後靖彦議員の協力を得て開催。

院内試写会は、通訳と字幕付きで行われた(筆者撮影)
院内試写会は、通訳と字幕付きで行われた(筆者撮影)

・支援者→当事者の一方向ではないサポート

 試写会で1回、インターネット配信で1回、この映画を見た。私の専門は障害者福祉ではなく専門知識もない。何を書いても軽薄な感想になってしまいそうだが、それでもこの映画を見て本当に良かったと思ったので、作品内の印象的なセリフを紹介したい。

「めちゃくちゃ悪い意味で、失敗してこなかったのかな。怒ったり叱られたりとか。でもそれを自分がやったろうみたいなのはでしゃばり過ぎかなと、ヘルパーとしては思うんで」

 ヘルパーの川崎さんの言葉(※崎の字は「大」の部分が「立」/以下同)。彼は知的障害の当事者であるたいきさんととても仲が良い。けれど、たいきさんの社会経験が少ないことを心配してこう言う。

 「でしゃばり過ぎかな」という言葉から、川崎さんが距離の取り方に注意を払っていることがわかる。

 川崎さんからその話を聞く渕上さんは、脊髄損傷で20年近く寝たきりの生活だったが、そのあと自立センターの支援を受けて、自ら障害者の相談支援を行う組織「ムーブメント」を立ち上げた。川崎さんに火をつけてもらってタバコを吸う姿には貫禄がある。

川崎さん(左)の介助を受ける渕上さん。川崎さんはバンド活動中で主題歌も歌っている(C)ぶんぶんフィルムズ
川崎さん(左)の介助を受ける渕上さん。川崎さんはバンド活動中で主題歌も歌っている(C)ぶんぶんフィルムズ

 若い当事者を介助する少し年上のヘルパーがいて、その相談を受ける年長の当事者がいる。この映画で描かれる「当事者」と「支援者」の関係が、一方向的な支援や教育ではないことが、始まりに近いこの場面ですでにわかる。

 渕上さんは穏やかに、「(たいきさんは)狭い世界の中で10年育ってきて、(略)今からがスタート」と言う。実際、たいきさんにとってそうなのだろう。

 一方で私は、これまで知らなかった世界を私が見たと感じた。

たいきさん(左)と渕上さん(C)ぶんぶんフィルムズ
たいきさん(左)と渕上さん(C)ぶんぶんフィルムズ

・「ヘルパーはあなたの指示を受けて動きます」

 34歳のとき、くも膜下出血で倒れたトリスさん(作品内で呼ばれているあだ名/以下同)は、右半身が麻痺しているほか失語症がある。彼は自立生活センター「夢宙センター」のスタッフである、チョッキさんからこんな説明を受ける。チョッキさん自身も、障害の当事者だ。

「ヘルパーはボランティアではなく、仕事として対応します。

ボランティアさんではないです。ちゃんと金をもらってます。なので遠慮なく。遠慮したらダメです、ヘルパーに。

ヘルパーはトリスのサポートはしてくれますが、サポートするけどトリスの指示を受けて初めて動きます。1日の生活のリズムを決めるのはトリス自身が決める。

介助サービスとは障害を持つあなたが、トリスが、自分らしい生活を送れるように援助するサービスです」

トリスさん(左)と話す夢宙センターのスタッフたち(C)ぶんぶんフィルムズ
トリスさん(左)と話す夢宙センターのスタッフたち(C)ぶんぶんフィルムズ

 当事者から支援者への依存にならず、支援者から当事者への傲慢にもならず、自立のための対等な関係を保つ。その心構えがわかりやすく伝えられていると感じた。

 別の当事者スタッフ、えみさんがヘルパーのための講習でこんな風に話す場面もある。

「(ヘルパーに)指示を出すっていうこともすごくしんどかったです。はじめは。どんな人が来ても私は使いこなせるでって思うようになるまでは5年かかりました。

何をするっていうのを全部自分で考えて、そこで自分で決めてヘルパーさんに伝えて手伝ってもらってやっていくとこで、なんかね、そういうふうにできるようになってから、自分自身の存在をちゃんと自分自身で感じられるようにもなってきました」

 誰かのサポートが必要な場面は健常者にもある。自立するために支援を使いこなすスキルは、本来ならば誰もが義務教育で学ぶべきことなのではないか。

クリスマスイブ、川崎さんとたいきさんは一緒にイルミネーションを見に行く(C)ぶんぶんフィルムズ
クリスマスイブ、川崎さんとたいきさんは一緒にイルミネーションを見に行く(C)ぶんぶんフィルムズ

・「わかい人たちが社長たちの運動を知ってなあかん」

 真面目っぽい部分を紹介してしまったが、舞台が大阪なだけあって、全編を通して「真面目さ」をどこか笑い飛ばすようなところがある。院内試写会では出演者が「(大阪ではウケても)東京では笑ってくれないと思った」と話していたが、後半のとある場面では場内から大きな笑いが起こった。

 また、「夢宙センター」の代表で「社長」と呼ばれる平下耕三さんの名演は必見だ。

院内試写会でスピーチする平下社長(写真中央のメガネの男性)(筆者撮影)
院内試写会でスピーチする平下社長(写真中央のメガネの男性)(筆者撮影)

 書き抜きたい言葉が多いのでこれぐらいにするが、平下さんの「しゃべれるやつだけが自立生活運動で中心メンバーになったらいいだけじゃなくて、置き去りにされている人たちを、どう一緒に考えるか」という言葉からは、徹底した「輪に入れない人を作らない」姿勢を感じた。

 「若い人たちが社長たちの運動を知ってなあかん、わかってなあかん。それだけじゃなくて自分たちも“こうしたいんだ”っていう夢を持ってなあかん」と筋ジストロフィーの当事者で、アメリカ留学を決めたララさんが語る言葉はどこまでも力強い。

アメリカ留学に出発するララさんを支援者らが見送る(C)ぶんぶんフィルムズ
アメリカ留学に出発するララさんを支援者らが見送る(C)ぶんぶんフィルムズ

・院内試写会では相模原殺傷事件に言及

 この原稿を書いている途中で、相模原殺傷事件の植松聖(さとし)被告に、求刑通り死刑が言い渡されたことが速報された。

 2月末の院内試写会で舩後議員が語っていたのも、この事件のことだった。

「相模原津久井やまゆり園事件の公判で、検察は植松被告人に死刑を求刑し、判決は来月16日に出る予定です。私はなぜこのような事件が起きてしまったのか、被告の動機やその社会的背景が明らかにされることを期待し、裁判の経過を注視してまいりました。

(略)

(ある新聞記事に)「被告が障害者を殺害する計画を周囲に話した際、『半分くらいが笑ったので同意が得られたと思った』と述べたのです。」

 『インディペンデントリビング』に登場する、支援者と当事者の豊かな関係を見たあとだと、「半分くらいが笑った」ような環境について信じられない気持ちになる。しかし、同じ日本の現実だ。

 舩後議員はこのあと、8年半入居していた地方の療護施設で「経済的・精神的・身体的虐待を受けました」とも語った。

「施設は、人間関係が固定化した特殊な空間です。

(略)

そこで被告の歪んだ障害者観に本気で向き合い、障害者の立場に立って被告を思い止めようという方は多くはなかったのでしょう。

(略)

こうした問題を解決するには、誰も排除しない、インクルーシブ社会の創生しかないと私は考えています。第2、第3の植松被告人を出さないためにも」

 誰も差別しない、誰をも包摂するインクルーシブ社会とは。そのヒントが『インディペンデントリビング』にあると思う。

 相模原津久井やまゆり園事件の報道を聞き、障害者を取り巻く環境を悲観的に感じている人にもぜひ見てほしい。

<映画『インディペンデントリビング』インターネット配信>

・配信期間:3月14日(土)10時〜4月3日(金)24時

・料金:1,800円

・配信先リンク:https://vimeo.com/ondemand/filmil

※購入から72時間(3日間)、パソコンやスマホ、タブレット等、複数のデバイスで視聴可能。

※クレジットカード決済。

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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