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【ウマ娘】佐岳メイのモチーフはディクタス!? 凱旋門賞へチャレンジした馬たちに流れる仏産種牡馬の血

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
ディクタスがモチーフと思われる佐岳メイが凱旋門を背にガッツポーズ/Cygames

ウマ娘・新シナリオのカギを握るキャラのモチーフがディクタスと考える理由

 リリースから2年半を迎えた人気ゲーム「ウマ娘プリティーダービー」だが、その新シナリオにフランスの凱旋門賞にチャレンジする「プロジェクトL'Arc(ラーク)」が追加された。そこで新しいキャラクターとして佐岳メイという登場人物が追加されたが、このキャラクターのモチーフが誰なのかを推察してみた。

 シナリオの趣旨から考えて、まず凱旋門賞に関係するキャラクターであると予想できたので、その栗毛の髪色から最初は2回凱旋門賞にチャレンジ(2012年、2013年)し、ともに2着に健闘したオルフェーヴルか、と推測した。しかし、何かが違う。

名種牡馬ノーザンテーストがモチーフといわれる秋川やよい理事長(右)と並ぶ佐岳メイ(左)(ゲーム「ウマ娘プリティーダービー」より/Cygames)
名種牡馬ノーザンテーストがモチーフといわれる秋川やよい理事長(右)と並ぶ佐岳メイ(左)(ゲーム「ウマ娘プリティーダービー」より/Cygames)

ヒントとなる勝負服を模した3つのバッジ

 SNSでさまざまな考察を拝見したが、佐岳メイのキャップに3つのバッジがついていることがわかった。

 この3つを連想させる勝負服は、左から

吉田善哉氏、善哉氏から引き継いだ吉田照哉氏の勝負服(黄、黒縦縞、赤袖)

有限会社社台レースホースの勝負服(黄、黒縦縞、袖青一本輪)

 であると、わかった。ただし、もうひとつの勝負服は(水色、白縦縞、袖赤一本輪)に見えたため、画像からはいまいち確証が得られなかった。

 この模様は一見、アーモンドアイの馬主である有限会社シルクレーシングに近いようにも見えるが、有限会社シルクレーシングの勝負服のデザインは(水色、赤玉霰、袖赤一本輪)なので明らかに違う部分もある。

 そこで思い浮かんだのがイクノディクタスの勝野憲明氏の勝負服(緑、灰縦縞、袖赤一本輪)だ。地色は緑なのだが、何故か緑色は水色ぽく、さらに胴の縦縞の灰色も白っぽく見えたものだった。

佐岳メイの被るキャップに3つの勝負服をモチーフにしたと思われるバッジがある(ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より/Cygames)
佐岳メイの被るキャップに3つの勝負服をモチーフにしたと思われるバッジがある(ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より/Cygames)

ノーザンテーストと「ちぃ~さい頃からの付き合い」なら、ディクタスと予想

 イクノディクタスは父ディクタス×母は社台ファームの生産馬で母父は伝説の種牡馬ノーザンテーストだ。この時点で筆者はノーザンテーストを模しているのか、と考察を進めていたが、筆者のフォロワーさんから「このゲームに初期から登場している秋川理事長というキャラクターがノーザンテーストを模しており、その秋川理事長との関係に佐岳メイは『彼女がちぃ~さい頃からの付き合い』と話している」という情報をいただいたのだ。

 なるほど!それならば…。

 この佐岳メイのモチーフはディクタスという種牡馬である、と強く思ったのだ。

ディクタスとノーザンテーストは同時期に社台スタリオンステーションで同時期に繋養されていた(画像はゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より/Cygames)
ディクタスとノーザンテーストは同時期に社台スタリオンステーションで同時期に繋養されていた(画像はゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より/Cygames)

種牡馬ディクタスとノーザンテーストの縁

 ディクタスは1967年にフランスで産まれた牡馬で、1969年にフランスで競走馬デビュー。馬体は栗毛で、四白流星という派手なルックス。血統は父のサンクタスは1963年のフランスダービー(シャンティ競馬場、芝2100m)とパリ大賞典(ロンシャン競馬場、芝3100m)を制した中長距離血統で、母のDoronicも芝2100mの重賞勝ちをおさめた中距離馬ということで、中長距離配合だった。しかし、ディクタスの生涯成績17戦6勝の中で最もグレードの高い優勝レースはタイキシャトルも制したことで知られるマイルのジャックルマロワ賞(1971年)。競走馬時代の取材資料は乏しいが、スタミナのありそうな配合ながらもマイルで結果を出したあたり、その後に子供たちへ受け継がれていく"キレるクセの強さ"はすでに顕著だったのかもしれない。

 その後、競走を引退したディクタスはフランスで種牡馬入りしたが、1980年に日本の社台グループによって輸入され、1981年より種牡馬として社台スタリオンステーションで繋養された。

 一方、ノーザンテーストは1971年にカナダ産まれ、2歳の時にアメリカのセリで吉田照哉氏によって落札されている。このとき、社台グループのトップだった吉田善哉氏の指示で善哉氏長男の吉田照哉氏がセリに出向いている。ノーザンテーストはフランスで競走生活を終えると、当初の予定どおり1975年に日本へ輸入。1976年から種牡馬として繋養されている。

 このとおり、ディクタスのほうが少し年上だが日本での繋養はノーザンテーストのほうが先。実績では、ノーザンテーストは1982年から1992年までの11年間、JRAリーディングサイアーに君臨し続け一時代を築き上げた。

 産駒の適性距離はオールマイティなノーザンテーストに比べると、ディクタスはフランスでは長距離馬も輩出したが、日本では短距離からマイル、中距離で結果を出した馬が多かった。

 この2頭の組み合わせで有名なのは、「父ディクタス×母父ノーザンテースト」の組み合わせで大成功をおさめたことだ。優秀な競走馬の生まれる可能性が高い血統の組み合わせをニックスと呼ぶが、このニックスでは中京記念など重賞4勝のムービースター(馬主 吉田善哉氏)、マイルチャンピオンカップを制したサッカーボーイ (馬主 有限会社社台レースホース)、オールカマーなど重賞4勝のイクノディクタス (馬主 勝野憲明氏)が有名だ。

 おぉ、この3頭の勝負服が先ほどの3つのバッジとも符合するではないか!さらに、佐岳メイの誕生日が4月11日(ディクタスと同一)とされていることから、この佐岳メイというキャラクターのモチーフはディクタスであるという可能性がひじょうに高い、という結論に至った。

ディクタスの血を引く2頭が難関・凱旋門賞で2着3回という血のロマン

 ディクタスの血を引くものの特徴のひとつとして、目をひん剥いて威嚇するほどのキツい気性があげられる。サッカーボーイは3歳(旧表記。現在の2歳)から調教中に仁王立ちで歩いてみせたし、 ディクタスを母の父に持つステイゴールドはいつも厩舎では怒りを見せて人を威嚇する上、賢過ぎてなかなか人間の思いどおりには走ってくれなかった。

 ステイゴールドは父サンデーサイレンス×母父ディクタスの配合だが、この両種牡馬とも気持ちの激しさが有名だ。しかし、この頑なでキツい性格を受け継いだ子であるオルフェーヴルやナカヤマフェスタが、ともにアウェーにも拘わらず凱旋門賞を日本調教馬で最高着順の2着(2010年ナカヤマフェスタ、2012年と2013年オルフェーヴル)に健闘しているという事実もある。

 両親ともにフランス産でありレースも走っていたディクタスから日本産の子孫たちに受け継がれたその血が、のちにフランスの伝統レースである凱旋門賞で勝ち馬に迫るーー。

 そんなディクタスの血を引くものが残した結果は決して偶然ではなかったし、これこそが血のロマンを感じさせる。そして、この血がさらに未来に受け継がれていき、新たなチャレンジにつながるはずだ。

 毎年、凱旋門賞が終わるとこのステイゴールド産駒の2頭の戦果を思い出すのがすっかり年1回の恒例行事になっている。だが、今回「ウマ娘プリティーダービー」にディクタスを彷彿させるキャラクターが登場したことで、年1回といわず、常に意識させられることになりそうだ。

■2012年凱旋門賞 優勝馬 ソレミア (2着 オルフェーヴル)

■2013年凱旋門賞 優勝馬 トレヴ (2着 オルフェーヴル)

ゲームで優勝すると凱旋門賞のトロフィーを手にできる(ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より/Cygames)
ゲームで優勝すると凱旋門賞のトロフィーを手にできる(ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より/Cygames)

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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