新五千円札に著作権侵害訴訟リスク説を検証する
※ 初稿では旧著作権法適用について触れていましたが完全に勘違いなので削除しました。どうもすみません。
「新5千円札に著作権侵害訴訟のリスク?」という記事を読みました。新五千円札の津田梅子の肖像の元になった写真を(おそらくは構図の都合で)裏焼(左右反転)で使用することが著作権侵害になり得るのではないかという説です。大変興味深いので検証してみます。
ここで問題になるのは津田梅子の写真を撮った写真家の権利であり、津田梅子本人とその遺族は関係ありません(裏焼を使われて精神的苦痛を受けたという話はあるかもしれませんが著作権とは別論です)。
一般に人物写真には著作権が生じます。当該写真の著作財産権はとっくに消滅していますが、著作者人格権は、著作者の死後であっても侵害してはならないとされています(著作権法60条)。そして、著作者人格権には同一性保持権(20条)が含まれますので、裏焼写真を使用することがこの条文に触れる可能性があるのではないかというのが上記記事の骨子です。
しかし、上記記事にも書いてあるように、この権利を行使できるのは著作者のせいぜい孫までです。
津田梅子は1929年没なので、写真家も同年代と仮定すると、その孫が存命でである可能性はかなり低いと思います。そもそも「改変」なのか、「意に反する」改変なのか、「意を害しないと認められるのか」、職務著作の可能性はないか等々、論点は多々ありますが、原告になれる人がいなければ同一性保持権侵害にあたるかどうかも知りようがないということになります。
もちろん、これは、裏焼写真を使うことが社会通念に反するという一部意見を否定することにはならないでしょう。むしろ、著作権法に著作物の意に反した改変を未来永劫禁じる規定があるということは、そのような意見を肯定する根拠のひとつになり得るでしょう。