小学1年生の死亡事故は6年生の7倍! 危険が高まる5~6月、大人がなすべきこと
「高いところから、スイカを落としたような、そんな音でした……」
5月になると、私はあるお父さんから伺ったこの言葉をいつも思い出します。
茨城県に住むAさん(当時47)は、その瞬間の辛い出来事をこう語りました。
「その音を聞き、ふと店の前の道路に目をやると、見慣れた服を着た男の子が倒れていました。一瞬、身体からすうっと血の気が引いていくのを感じました。黄色い帽子がひらりと頭の位置に落ちていましたが、そのとき、頭の厚みはもう全くありませんでした」
そこに倒れていたのは、Aさんの息子・B君(7歳)でした。
現場は片側2車線の見通しの良い直線道路。B君は、向かい側の歩道から自宅兼店舗に向かって道路を渡ろうとしたとき、右側から走ってきた4トントラックの後輪でひかれたのです。現場に横断歩道はありませんでした。
「息子は即死でした。一緒に下校していた3人の子どもたちは、ショックのあまりその場に立ちつくし、トラック運転手(当時28)は、青白い顔をして震えていました。小学校の入学式からわずか1か月あまり、息子は買ったばかりの黒いランドセルを背負ったままでした」
数か月後、トラック運転手は不起訴処分となりました。警察の捜査の結果、原因はB君の飛び出しとされ、「避けられなかった事故」と判断されたのです。
Aさんは辛そうにこう言いました。
「事故が起こったのは午後3時、まだ明るい時間帯でした。歩道には、黄色い帽子をかぶった下校中の新1年生が4人並んで歩いていました。トラックの高い運転席から、子供たちの姿を確認することはできなかったのでしょうか。小学生の下校時、せめてスピードをもう少し落としてくれていれば……、残念でなりません」
■5~6月の登下校時は低学年の事故多発
私がこの事故を取材したのは、27年前のことです。
残念ながら、小学1年生の子どもが被害者になる交通事故は、その後も毎年、高い頻度で発生し続けています。
以下は、2022年3月に公開された『政府広報オンライン』です。
<小学校1年生の歩行中の死者・重傷者は6年生の約3.7倍!新1年生を交通事故から守るには? | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン>
このサイトの冒頭には次のように記されています。
上記グラフを見ると、低学年の子どもたちが被害に遭う事故がいかに多いかがよくわかります。
また、事故が発生する日時を分析したところ、つぎのような結果が出ているとのことです。
●月別では6月が最多(1年生の第1のピークは5月中・下旬)
●時間帯では、「午前7時台」「午後2時台~5時台」が多く、最多は午後3時台
●下校や遊び(遊戯、訪問)のために外出した際に事故が多い。最多は「下校中」
冒頭で取り上げた小学1年生の男の子の死亡事故は、このすべてに当てはまっていることがわかります。それだけに、事前に危険が予想される時期や時間帯は、大人が細心の注意を払う必要があると言えるでしょう。
■「みんなのうた」で、7歳を事故から守る交通安全ソング放送
2022年4~5月は、NHK「みんなのうた」で、通学路の子どもを守るために作られた交通安全ソング『ててて!とまって!』が放送されています。
NHKの<「ててて!とまって!」を作ったわけ 交通事故から7歳を守る>というサイトには、なぜ7歳の事故が多いのかについて詳しく記されています。
また、同サイトには、この歌の内容も以下のように紹介されています。
「ててて!とまって!」は、幼い子どもたちに「安全に横断歩道を渡る方法を伝えたい」との思いから作った歌です。7歳の子どもでも身に付けやすいよう、渡るときの手順を3つにしぼって紹介しています。
1.まずは車を確かめる
2.渡る前に手をあげて「とまって!」の合図を運転手に届ける
3.周囲の車がとまったら運転手にあいさつをして渡る
いわゆる「サンキュー事故」の防止までフォローした緊張感のある動画で、むしろ大人のほうが自身の日ごろの運転に反省を促され、大変参考になる内容です。
ぜひお子さんと一緒に、また多くのドライバーに見ていただきたいと思います。
■子供を守るには、強者である「クルマ側」の配慮とマナーこそ不可欠
横断歩道ではクルマの側に停止義務があり、たとえ横断歩道のない場所であっても、スクールゾーンではドライバーが細心の注意を払って徐行するべきだという意見も多数寄せられています。
青信号の横断歩道上で、当時6歳だったお子さんをダンプによる左折巻き込み事故で亡くされた佐藤清志さんはこう語ります。
「NHKの歌にある"手上げ"や"お礼のあいさつ"は、ルールではなくマナーの問題ですが、本来は、強者の立場であるクルマ側の配慮とマナーこそ必要です。通学中の子どもの安全を守る『スクールゾーン』は、小学校や幼稚園などを中心に半径500メートル程度に設定され、通行禁止の時間指定があれば車両は迂回しなければなりません。また、運転者には、交通規制を守るのと同時に、スクールゾーン周辺では飛び出しや自転車の安全不確認を想定して運転することが求められています。しかし、この国のクルマ優先社会の中では、なかなか子どもたちを守れていない、安心して通学も出来ない、というのが現実ですね」
先日公開した以下の記事では、時速20キロに規制されたスクールゾーンで小学4年生の男の子が亡くなるという事故を取り上げました。
事故で愛息亡くした母が呼びかける「法定速度で子どもの命守ってください」(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース
この記事の中で、わが子を亡くしたお母さんは、こう訴えておられました。
「通学路の速度制限、そして通行制限、これは何より大切な取り組みだと思います。裁判でも訴えましたが、加害者がもし、法定速度(時速20キロ)をきちんと守って走っていたら、マサムネは死ぬことはなかったと思うのです」
低学年にとって、特に危険な5~6月。まずは運転をする私たち大人が、スクールゾーンで十分に速度を落とし、横断歩道では確実に停止するなど、しっかりとルールを守るよう心がける必要があるでしょう。
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●5月は子どもの交通事故が激増! 小学1年生の「ひとり歩きデビュー」に注意(柳原三佳/Yahoo!個人/2019.5.13)